飼育が難しいとされる「ズワイガニ」を卵から育てる試みに、関西の水族館が挑んでいます。
■食べられる大きさに育つまで10年かかる冬の味覚、ズワイガニ
今がまさに旬の冬の味覚、ズワイガニ。
たまらないですよね~。
全国屈指の水揚げ量を誇る兵庫県北部・城崎温泉。
(Q.おいくらですか?)
【おけしょう鮮魚】「4万円です。それでもちょっと安くなった」
この立派なカニ。食べられる大きさに育つまで10年ほどかかるんです!知ってました?
(Q.10年かかるんです)
【観光客】「知りませんでした。その10年いただきました。おいしくいただいて感謝です」
■カニの育成に取り組む「城崎マリンワールド」
実はズワイガニは、水深200メートル以上の海の底で育つため、10年かけて、どうやって大きくなっているのか、観察するのは困難。
それならば「育ててみよう!」ということで、手をあげたのが地元の水族館「城崎マリンワールド」。
ズワイガニを“卵から育てる”という、斬新なプロジェクトに取り組んでいます。
2017年の立ち上げ当時から、カニの育成に取り組むのが、飼育員の清水亜朱沙さん。
【城崎マリンワールド 清水亜朱沙さん】「ズワイガニって、10年育てたら大きくなると資料や図鑑に書かれていて、知識では知っていたけど、本当に10年で育つのかなと?(カニ)いるし、生まれるし、私たちがやってみよう!って」
しかし深海での暮らしの実態は不明で、飼育が難しい上、成長に10年もかかるため、前例がほとんどない挑戦でした。
■プランクトンのカニの赤ちゃんはいつ“カニ”になる?
【清水亜朱沙さん】「先週生まれたズワイガニの赤ちゃんを今、お世話しています」
(Q.ズワイガニの赤ちゃん…?)
【清水亜朱沙さん】「浮いてるの分かりますか?」
目をこらして、よ~く見てみると…いました!元気よく動く、小さな生きもの。まだプランクトンのカニの赤ちゃんです。
プロジェクトを初めてすぐ、赤ちゃんが600匹ほど生まれ、『この形から本当にカニなるのか!?』と、飼育員たちが心配していたある日のこと…。
【(当時を再現する)清水亜朱沙さん】「え!カニ…カニ!?カニじゃない!?チーフ、チーフ!カニになった!」
ハサミの形が分かる「稚ガニ」にまで、育てることに成功したのです。
そしてカニは、脱皮を繰り返し成長していきます。
■順調かと思われたが…カニが全滅! 試行錯誤がスタート
順調なスタートを切ったプロジェクトでしたが、その2年後…。
【(当時を再現する)清水亜朱沙さん】「あ~死んじゃったかな…。えーもう…なんでだろうな…」
共食いや脱皮の失敗などで、数百匹いたカニが全滅してしまったのです。
【清水亜朱沙さん】「カニになってからの全滅はやっぱりショック。何が原因か定かではないが、水温が合ってない、何か栄養、足りないとか。あまり研究資料がないので、手探りでやっていた」
なぜ死んでしまうのか…未知なるカニの子育て。
しかし、ここから清水さんの“細か~い”試行錯誤が始まります。
■「共食い」ら守る カニの“1人暮らし”
まずはカニの「住環境の整備」から。
水が汚いと死んでしまうので、水槽をひとつひとつマメに掃除を重ねます。
【清水亜朱沙さん】「残った餌をきれいにして、もちろんウンチとかもするので、回収していきます」
脱皮直後のカニは柔らかく、同じ水槽のカニに狙われやすくなるため、一人暮らしができる「アパート方式」で育てることにしました。
■研究を重ね判明…カニは成長するにつれ水温が低い場所で暮らす
さらに研究を重ねたのが「水温」。
自然界のカニは、成長するにつれて水温の低い場所で暮らすようになるそうで…。
【清水亜朱沙さん】「徐々に(水温を)下げていくのがベストだと思ったけど、下げていくのが何度ぐらいがいいか手探りだったので、最初の年は多分(温度が)高すぎたのかなと、その結果が出るのは1年後ぐらい。また違ったと思ったら1度下げて…」
■甲羅の幅が3.5センチ 7年目にしてカニが2歳を迎える
2024年の年末、プロジェクトを開始して7年目、初めて1つの個体が2歳を迎えました。
それがこちら!
甲羅の幅が3.5センチにまで成長しました。
【清水亜朱沙さん】「すごく暴れるんです、この子。カニの形です。拡大して見たら大人ですよ」
2年間生き続けているのは、この個体だけ。
清水さん、毎日気が気じゃないようで…。
【清水亜朱沙さん】「(ふたを)開けてみて、すぐ動いてないときが多いんですよね。生きているのか、死んでるのかって、ちょっと思いながら観察して、『あ、動いた大丈夫』って安心して」
私たちがよく知る、“立派なズワイガニ”に成長するまでには、あと8年ほどかかる見込みです。
■カニの成長過程の展示エリアは大人気
カニの成長過程が見られるプロジェクトの展示エリアは、観光客に大人気。
【清水亜朱沙さん】「今ここにカニの赤ちゃんがいるんですけども」
【お客さん】「すごくちっちゃい」
【清水亜朱沙さん】「この子たち、やっと1歳です」
【お客さん】「1歳!」「また10年後来たら、この子が食べられるかな」
【清水亜朱沙さん】「それくらいのサイズまでなってればいいなと思ってます」
■城崎マリンパークのグループ会社は「かに道楽」
ちなみに城崎マリンワールドを運営する日和山観光のグループ企業は…あの「かに道楽」。
プロジェクトのことをお伝えすると…。
【かに道楽道頓堀本店 小林泰三店長】「大きい立派なカニを育てあげてほしい。できることなら、その立派なカニをおいしく提供したいなと」
10年後、そんな未来がくるかも!?
■育てたカニを食べるのは「ちょっと悩む…」
愛情をかけてカニを育てている清水さんは…。
【清水亜朱沙さん】「育てたカニは美味しいのかって言われることもあるので、確かにそこはちょっと興味あるなって思ったりはしますが、自分が育てたのを食べるってなったらどうかなって、ちょっと悩んだりもしますね」
複雑な思いもありますが…、8年後、どんなカニに成長するのでしょうか?
(関西テレビ「newsランナー」2025年1月28日放送)