京都アニメーション放火殺人事件の裁判員裁判で、京都地方裁判所は青葉被告に「死刑」を言い渡しました。平成以降で、最も多くの犠牲者を出した事件。裁判を見つめた、遺族の思いを取材しました。
【記者リポート】「1時42分、京都地方裁判所は青葉被告に死刑を宣告しました」
36人の尊い命が奪われた、京都アニメーション放火殺人事件。殺人などの罪に問われた青葉真司被告(45)に下されたのは死刑判決でした。
■妻を亡くした夫 娘を亡くした母
裁判が始まってから143日。遺族たちは、それぞれの思いを抱えて裁判と向き合ってきました。
【寺脇(池田)晶子さんの夫】「それ(事件)に関係する人たちの人生をどれだけ影響を及ぼしたのか。それを受けて(判決)を聞いてほしいかな」
事件で犠牲となった寺脇(池田)晶子さん(当時44歳)の夫は、25日、車で傍聴へと向かいました。裁判の中で晶子さんの夫は、「被害者参加制度」を使って青葉被告に質問。妻を奪った相手と直接対峙してきましたが、それでも、晶子さんがいまどう思っているのか不安がぬぐえないといいます。
【寺脇(池田)晶子さんの夫】「晶子満足したんかな。できる範囲のことを精いっぱいやってきたつもりだけど、納得してくれているのかなと」
判決を自宅で見届けたのは、犠牲者の1人で、京都アニメーションで色彩設計の担当をしていた石田奈央美さん(当時49)の母親です。奈央美さんの父親は裁判が始まる1カ月前にこの世を去りました。
【石田奈央美さんの母親】「極刑しかないですわ。初めから私そう思ってましたからね。お父さんも残念やったなと思います。それはもう(判決を)聞きたかったと思いますよ」
■「命の重みをすごく痛感した」と裁判員
午前10時32分に始まった裁判。青葉真司被告(45)は、まず、裁判長から「最後に言っておきたいことはありますか」と問われると、少し考える様子を見せたあと、「ありません」と答えました。そして…
【記者リポート】「1時、1時42分、京都地方裁判所は青葉被告に死刑を宣告しました。死刑が宣告されたとき、青葉被告は下をじっと見つめ、微動だにすることなく、聞いていました」
下された判決は「死刑」。裁判長は最大の争点となっていた「責任能力」について、「心神喪失の状態にも、心神耗弱の状態にもなかった」と青葉被告の責任能力を認めました。
これまでの裁判で青葉被告は「闇の人物」の存在について語るなどしていて、弁護側は、犯行に「被告の妄想が大きく影響した」と主張していましたが、裁判長は、青葉被告が「犯行直前に逡巡したと供述」したことを指摘。青葉被告には「良心の呵責があり、自己の行為が犯罪に当たることの認識を前提とした合理的な行動」を取っていて、「妄想が犯行に影響した程度は大きくはない」としました。
その上で、「人命の尊さを全く省みずに、ガソリンをまいて火を放ち、36名の被害者の生命を奪い、34名の被害者を死の危険にさらした」とし、青葉被告に死刑を言い渡しました。
裁判に参加した裁判員は…
【裁判員】「被害に遭われた方、ご遺族の方の意見を聞いて、命の重みをすごく痛感することができました。感情を抑えるところではすごく苦労した」
■「納得しないとしょうがない。ある程度区切りつけんと…」
遺族は…
【石田奈央美さんの母親】「あ、流れる」
(Qいまのお気持ちは)「まあほっとしました。極刑になって。やっと終わったよって、その報告しかないわね」「納得はいかへんけどね、犯人の言ってることは自分勝手やし。納得しないとしょうがないわね。ある程度区切りつけんことには」
寺脇(池田)晶子さんの夫は、判決を受けて、裁判に参加できたことや、検察に対しての感謝の気持ちを述べたうえで、こう話しました。
【寺脇(池田)晶子さんの夫】「もっともっとアニメ描きたかっただろうし、子供の成長を横で見たかったんやろうなって。青葉さんの判決だけでは、まだまだ晶子の無念は晴れないだろうなって」
事件から4年半。一つの区切りを迎えた裁判。それでも、失われた命が、戻ってくることはありません。
■被害者参加制度の意義「前進するきっかけを得ていただけたら」と弁護士
遺族の中には、被害者参加制度を利用した方もいました。番組コメンテーターの菊地幸夫弁護士はその意義について話しました。
【菊地幸夫弁護士】「今までこの制度ができる前は、被害者の方は、単にその裁判を見つめるしかなかったんです。(この制度によって)やはりご自身の思いで、被告人に語りかけたいということですね。本当は当事者として中心にいるべき立場の方ですから、少しでも事件が判決によって全部解決するわけではないんですけれども、ご自身の心の中に何か一歩二歩前進するきっかけを、そういうところから得ていただけたらよかったのかと思います」
1月25日、判決が出ましたが、ご遺族の悲しみ、苦しみは決して消えるものではありません。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月25日放送)