全国で金属の窃盗事件が後を絶ちません。
取材を進めると窃盗が横行する背景には金属価格の高騰だけでなく”売買の規制”が都道府県によって異なる現状があることが分かりました。
【守山市内の自治会長】「消火栓ボックスのこのパイプ、スタンドパイプが盗まれました。まさかです」
滋賀県守山市にある消火栓ボックス。 先月8日、地元の自治会が点検したところボックスの中にあるはずの金属製のスタンドパイプ1本が盗まれていたのです。
■金属製のパイプが 初期消火のために「施錠せず」
スタンドパイプは消火栓の取水口とホースとつなぐ器具。
【守山市内の自治会長】「これにホースをつないで。バルブを上げる」
消防車が到着するまでの「初期消火」に必要なため、火事の時には誰でも使えるようボックスは施錠していませんでした。
■窃盗容疑で逮捕された男は「売って金にするためにやった」と話す
【守山市内の自治会長】「緊急の時に誰もが開けられれなきゃいかんわけですね。 あちこち火災の報告が出てますよね、だからそういう時期にこの大切なものを盗むというのは、非常にまあ憤りを感じる」
警察はその後の捜査で、守山市に住む54歳の男を窃盗の疑いで逮捕しました。 警察の調べに対し、犯行の動機を「売って金にするためにやった」と語った男。
高く売れるものを狙ったのか、銅と亜鉛からできた金属=「真鍮(しんちゅう)製」のパイプだけがなくなっていました。
■滋賀県内で多発する消火用器具の窃盗被害 さらにこんな被害も
2024年に入り、消火用の器具を狙った被害は守山市だけでなく、大津市や草津市など少なくとも8つの市で、あわせて101件が確認されています。
そして県内での窃盗被害は消火器具にとどまりません。 壁から垂れ下がった配管…無残に切断され、中には「銅」のパイプが… 滋賀県議会の小川泰江議員は2024年6月、「エアコンの室外機」を盗まれる被害に遭ったのです。
【小川泰江議員】「道路の溝ふたとか、太陽光発電のケーブルが盗まれたっていうのは聞いてましたけど、まさかの一般家庭まで、こんな風に被害があるなんて思いもしなかったので、かなりの衝撃でした」
■全国に広がる被害 1億円相当も
被害は滋賀県だけでなく全国で。 2024年5月には、東京都内の太陽光発電所で840メートルもの銅線ケーブルが盗まれる被害がありタイ人の男4人が逮捕されました。 余罪を含めるとこのグループの犯行による被害総額は、1億円にのぼるとみられます。
全国での金属窃盗の被害は2020年にはおよそ5500件でしたが、去年には1万6000件以上と、3年で3倍となっています。 その背景には、銅などの金属の価格高騰があるとみられますが、違法に盗んだものをなぜ売ることができるのでしょうか。
■金属買い取り業者の対応は
滋賀県内の金属買い取り業者を取材。 24日、やってきたのは3袋分の空き缶を集めた人です。
Q:あの空き缶は何で集まった?
【空き缶を売りに来た人】「地域の人が置いておいてくれたり」
地域の空き缶を集めてここでお金に換え、その資金で街の花壇に花を植えているといいます。
【金属買取業者「がんさん」岩本重治代表取締役】「ありがとうございました。こちら現金と証明書が入っておりますのでまたお願いします」
■「初めての客」は個人情報を確認 滋賀県の条例で確認しないと罰則が
今回のお客さんは、よく知った常連さんのため買取作業はすぐに終了しましたが、この会社では初めて訪れた人には個人情報を提示してもらい持ち込まれた金属が大量でその理由が判明しないときは買取を拒否するといいます。
【金属買取業者「がんさん」岩本重治代表取締役】「お名刺交換とか免許証、交渉で探りながら。どのようなところから(金属が)排出されたかというのをやっぱり聞きますので、中にはやっぱり濁される方というのはなるべくお取引はしないように。 見たところやっぱりこれはたぶん盗って来はったんだろうなというような方もやっぱりいます」
こうした個人情報の確認を義務づける法律はなく、滋賀県では売買する相手の名前や住所などを確認しなかった場合、罰則が課される条例が制定されています。
■「犯罪者側は条例で規制がない府県がやりやすい」と警鐘
しかし、同様の条例が制定されているのは、全国17の道府県にとどまっていて、警察によると、盗んだ金属を条例のない地域まで運び売買が行われている疑いもあるということです。
(Q.滋賀で名前など個人情報を控えられるなら控えられない京都府に行こうってなるのでは?)
【滋賀県警生活安全企画課許可事務担当室 林恭輔室長】 「その可能性は当然あると思います。犯罪者側にしたら条例で規制がない府県のほうがやりやすいのはやりやすい」
また、条例があっても盗品をきっぱり断るかどうかは買取業者のモラルにかかっている部分もあるといいます。
【金属買い取り業者「がんさん」岩本重治代表取締役】「確認する手間が正直ありますし物不足で是が非でもほしい、盗品でもほしいというのは正直あると思います。法(条例)に触れるのであかんもんはあかんとお断りしています」
こうした状況を受け国は2024年9月、「金属盗対策に関する検討会」を立ち上げ、盗まれたものの流通防止など対策の検討を進めています。 被害を防ぎ違法な買取をなくすにはどのような対策が必要なのでしょうか。
■今後も高騰する銅…早急な対策を
関西テレビ「newsランナー」コメンテーターの、大阪大学大学院経済学研究・安田洋祐教授は、金属価格高騰の背景を次のように述べました。
【大阪大学大学院経済学研究科 安田洋祐教授】「金属の中でも銅が高騰しています。今後もその傾向は続くと言われています。なぜかと言うとモーターであったり電池、半導体といった、脱炭素やデジタル化を日本もいま進めていますけど、そういったものの中にたくさん使われているのです。対策が必要になってくるのではないでしょうか」
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「都道府県によってある県とない県がある中で、すべての都道府県で条例が制定されるのを待つかと言ったら、そうはいかないので、いま、国では一律に統一で金属の売買を規制しようという動きがあります。国として法律ができれば、全国一律で売買が厳しくなるので、それを国としてはやろうとしているところです」
早急な対策が待たれます。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年12月24日放送)