患者の心を癒す『ファシリティドッグ』の活躍 難病抱える医師をそばで支える介助犬「二人三脚。犬に癒しをもらって、そのエネルギーを患者に与えている」 2024年08月11日
落とし物を拾ったり、ドアを閉めたり。体が不自由な人の生活をサポートする「介助犬」。
大阪府泉佐野市の病院に、難病の医師を支える介助犬がいます。
病院の人気者としても活躍する、かわいいだけではない犬の役割とは。
■難病を発症した医師 犬との出会いで前向きに
高齢の女性と一緒に歩くのは、ラブラドール・レトリバーのジュリエット(5歳・メス)です。
大阪府泉佐野市にある、認知症患者が暮らす介護施設。週に1度、ジュリエットはこの施設を訪れます。
【グループホーム アムリタ 山下万友美さん】「認知症の方ばかりなんですけど、ものすごく刺激をもらっているので、ジュリちゃんって名前と、犬っていうことと、週に1回来てくれるっていうのが(記憶に)つながってますね」
【施設利用者】「ジュリちゃん、こっちよ。ジュリちゃん」
【施設利用者】「(ジュリエットの頭をなでながら)ありがとう。お利口よね」
同じく泉佐野市にある「佐野記念病院」。院内では、車いすに乗った男性がジュリエットを連れて診察室に入って行きました。
【患者】「先生は元気なん?」
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「元気みたいやな」
【患者】「良かったわ」
この病院の理事長を長年務めてきた、整形外科医の中村 薫さん(68歳)。ジュリエットは中村さんの介助犬です。
中村さんは、13年前に難病「HTLV-1関連脊髄症」を発症。脊髄の炎症で、全身がしびれて徐々に歩けなくなる上、治る見込みはありません。
座っていたソファに横たわるのもつらそうです。
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「いたたたた」
体の自由が奪われていく中、知人から勧められ、生活を支える介助犬としてジュリエットを迎え入れました。
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「『ひと目会ったその日から』ってやつ。『恋の花咲く時もある』っていう。目と目が合ってこの子がいいやと思って、ビビッときた」
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「ジュリ、テイクザスティック、スティック」
中村さんが指示を出すと、すぐさま頼まれた物を取って渡すジュリエット。
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「OK、グッド!」
介助犬として優秀なだけではありません。
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「絶対離れないですよ。ものすごく安心感を持たせてくれる。それが一番ですよ」
トイレの時も、すぐそばで待っています。
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「ジュリ、ずっとここにおったやろ」
Q.ずっとべったりいる?
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「いつも」
第一線の医師として、多くの手術を執刀してきた中村さん。しかし、病気が原因でメスを手放しました。
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「今までやっていたことができなくなる。人を受け付けないような状態になって、うつ状態になります。この子(ジュリエット)が来るんですね。こいつも一生懸命だし、僕も一生懸命やってたら、体を動かしますよね。体を動かしたら食欲も出てくるし、だから気持ちも前向きになった」
ジュリエットに出会って心の余裕ができたことで、病気と向き合い、前へ進むことができました。
■日本では普及していない「ファシリティドッグ」の必要性
週に1度、医師として出勤する日は、ジュリエットも一緒です。消毒やブラッシングなど、衛生管理も欠かせません。
【患者】「おはよう。久しぶりやな」
ジュリエットは患者からもかわいがられています。
【患者】「本当、心がなごみますよ、本当。痛みを忘れます。一時的にね」
【患者】「仲良しです。一番初めの診察の時からいてるな。癒されます。(ジュリエットに話しかけ)聞いてるん?」
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「二人三脚なんだよ。ジュリエットから癒しをもらって、それを患者に与えている。そのエネルギーをね。自分が生きてる限り、動ける限り、(患者を)診てあげたいなと思うからやっている」
ジュリエットの“癒しの力”を病院でも生かしたい。
中村さんは、多くの人が訪れる病院でも、ジュリエットが普段通り過ごせるよう訓練しました。患者の精神面から治療を支える「ファシリティドッグ」という役割を担わせています。
その活躍は診察室以外でも…。
脳出血が原因で、失語症や体の一部にまひが残る女性は、ジュリエットが来てからリハビリにも熱が入るようになりました。
【病院スタッフ】「ちょっと休憩しますか。いつもよりハイペースですよ」
【女性の夫】「いつもしかめっ面というかね、しんどそうにするんだけどね。めっちゃやる気あるしね、楽しそうでいいですわ。ジュリちゃんのおかげかなって思います」
ジュリエットのためにおもちゃを作る人も。
【認知症の人】「あんまりこういうのしたことないから、(作ったおもちゃを)喜んでくれたらうれしいね」
患者たちに愛される「ファシリティドッグ」。しかし日本では、まだ普及していません(日本補助犬協会によると現在、国内で4頭)。
中村さんの病院では、ジュリエットの後輩犬「ティンカ」が訓練中です。
【佐野記念病院 整形外科医 中村 薫さん】「人生の生きがいとして、ファシリティドッグ(を広める)というのを一つの目標に、最終章を生きていきたいのかなって思っている」
“ただそばにいてくれる”という安心感。
ジュリエットによって新たな生きがいを見つけた中村さんは、子ども病院などにファシリティドッグを1頭でも多く配置しようと、クラウドファンディングを行っています。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年8月7日放送)