家庭内の深刻トラブル 殺人の約半数は家族・親族間 「家の恥は外に出さない」は古い 「法律問題」として第三者に相談することで解決へ 弁護士解説 2024年06月14日
東大阪市の自宅で94歳の女性が死亡した事件で、6月10日、同居する長男で弁護士の男が傷害致死の疑いで逮捕された。5月には大阪府茨木市で、60歳の男が65歳の姉を暴行し、死なせてしまう事件も起きた。家族の中での悲惨な事件が目立つ。
日本の殺人事件の約半数は、家族を主とした親族間で起きている。殺人事件の認知件数は減少傾向にあるが、親族間の事件が占める割合は、依然として高いままだ。
(令和4年44.7%、令和3年46.0%、令和2年47.1% 警察庁統計より)
家族内や親族間といった、家族内紛争の解決に取り組む、「松尾・中村・上 法律事務所」の中村正彦弁護士に話を聞いた。
■家族内・親族間トラブルの相談件数は増加している
【中村正彦弁護士】
ここ数年、家族内や親族間でのトラブルの相談件数は増えており、大阪の私の事務所にも、全国から相談の連絡がきます。
20代、30代の成人した子どもに対し、過剰な干渉を続ける親。いつまでも親に依存し、別居していても、金銭面だけでなく、掃除洗濯をさせるなど親を家政婦のように使っている子ども。「あんたのせいで私の人生が狂ったのだから言う通りにしろ」などと、家族に無理を押し付けるような、おかしな価値観が家庭内でまかり通っているケースも多く見られます。
■「法律的な問題だ」という意識がないまま、苦しんでいる人が多い
家族内や親族間であっても、当事者間では解決しえない、深刻なトラブルが生じてしまうことは多々あります。これらに共通して多くみられるのは、当事者間では「法律的な問題」だと認識されていないことです。しかし、相手の権利を侵害したり、生活の平穏を阻害したりする行為は、まさに「法律的な問題」なのです。弁護士など第三者が適切な方法で介入し、訴訟などの法的措置をとることによって、解決につながることは少なくありません。
■「典型的なトラブル」以外のケースが問題
DV、高齢者虐待、児童虐待、ストーカーといった典型的な類型の人間関係トラブルは、それぞれの分野で、法規制や被害者の救済・支援システムの整備が進んでいることもあり、比較的、問題が顕在化しやすいように思われます。一方で、それ以外のケースに、表面化していない深刻な事案がかなりあるというのが、経験上の印象です。そして実際に、私どもの事務所でも、典型的な類型に当てはまらない、家族内・親族間トラブルに関する相談が増えています。
■「毒親」
あまりいい言葉ではないと個人的には思いますが、「毒親」というのは分かりやすいキーワードです。成人している子どもに対し、親が口を出してくる…子どもの交際相手や交友関係に対し、「あんな人は認めない」と妨害してきたり、自分が背負っている不幸とか、満たされなかった思いを、子どもを使って発散する親。「毒親」に苛まれて人生を苦しんでいる方は非常に多いです。
反対に、いつまでも自立ができず、親に延々とお金の無心を続ける子ども。いつまでも文句を言って親を振りまわす。暴言や暴力で心身を虐げることにより自らの支配下において、親の資産を奪ったり、食いつぶしてしまうケースです。
■高い学歴や社会的立場のある人にも多い悩み
また、高い学歴や社会的立場のある方からの相談も多くあります。有名企業の社員であったり、医師や教師などの立派な専門職に就いていたりする人が、親からのひどい支配に悩まされるケース。親子とも高学歴で、親が子に厳しい教育を押し付け、生き方を強制し、いつまでも子離れできないケースなどもよく見られます。
■家庭の呪縛を断ち切る
家族内・親族間トラブルの大きな問題点は、表面化しにくいということです。人目に触れにくい、第三者が入りにくいといった環境で生じ、「家庭内のことに他人が口を出すな」「子どもが間違っている時に親がしつけをして何が悪い」というように、意識を正当化しやすいというのもあります。
また、「家族というのは絶対に切れないんだ」「親の言うことには従わないといけない」という呪縛にとらわれており、恥の意識や諦め、無力感、恐怖心を植え付けられているケースもあって、救済を求めにくい傾向があります。
加えて、家族間のトラブルは、数年~10年以上と長期にわたって我慢する人も多く、おかしいことに気が付かないままという人も少なくありません。
しかし、身内のことだから、と、非常識な価値観やむちゃくちゃな言い分に従う必要はないのです。
■同居している場合は「まずは離れる・脱出する」
一緒に暮らしている場合は、まずは別居を勧めます。離れることが重要です。
別々に暮らすと、相手が親だろうが、兄弟だろうが、子どもだろうが、「私の家に来ないでください」と言えます。もし、わめいたり暴れるなどして無理やり入ってこようとしたら、警察を呼んで事件にすることもできます。あとはメールや電話をシャットアウトし、職場でも対応しない。別々に暮らしていると、相手との関係を断ち切ることは可能ですし、法制度もそれに助力する形になっているのです。
親が子どもに出て行ってもらいたい場合、親が避難をして、子どもに対して家からの立ち退きを要求することもできます。住居の事情もあり、簡単なことではないかもしれませんが、とにかく「離れる」ことが大事だということをお伝えしたいです。
何よりなすべきなのは、問題となっている深刻な関係・環境から早く脱出することです。閉ざされた空間や人間関係においては、非常識な価値観や無茶苦茶な言い分が大手を振ってまかり通っています。そこから一歩踏み出して、第三者や社会の価値観や常識を自分の中に入れましょう。そして、その問題を日の当たるところにさらし、法律が適用される局面に持ち込めば、解決は自ずと見えてきます。理不尽に苦しめられる関係から、飛び立つ勇気をもって下さい。
(中村正彦弁護士)