21億円の横領事件で不動産会社の元社長が逮捕され、その後、無罪が確定した事件。
元社長が国を訴えた裁判で来週、この事件を捜査していた検察幹部らが、大阪地裁で尋問を受ける異例の展開となっています。
裁判の大きなターニングポイントを前に、「プレサンスコーポレーション」の元社長・山岸忍さんが思いを語りました。
■21億円を横領したとして逮捕、無罪 背景にあった強引な取り調べ
(Q.プレサンスを失ったときの感情は?)
【山岸忍さん】「これは本当に悲しかった。大阪に来るとプレサンスのマンションたくさんある。それを見るたびに悲しくて、悲しくて」
「プレサンスコーポレーション」の元社長・山岸忍さん。 5年前、学校法人との土地取引をめぐり、部下らと共謀して21億円を横領したとして大阪地検特捜部に逮捕、起訴されました。
248日間に及ぶ身柄拘束。
しかしその後、刑事裁判で下された判決は無罪。
山岸さんが、逮捕されてしまった背景には、検察の強引な取り調べがありました。
そもそもこの事件は、山岸さんの関与を示す客観的な証拠が少ない事件でした。
そこで検察が重要視したのが、事件の関係者から「山岸さんは横領の計画を知っていた」という証言を引き出すこと。
しかし山岸さんの元部下Kさんは取り調べの中で「山岸さんには計画を伝えていなかった」と、関与を否定しました。
元部下Kさんに対し、
【検察官】「なんでそんなことしたの。それ何か理由あります?そうだとしたら、あなたはプレサンスの評判をおとしめた大罪人ですよ」
山岸さんの関与を否定する元部下に対し、「大罪人」という言葉を使って“事件の責任をひとりで背負えるのか”と迫ります。
結局、元部下Kさんは山岸さんの関与を認める証言をするようになります。
検察側はこの証言を、山岸さんの有罪立証の柱にして裁判にのぞみますが、無罪判決の中で裁判長は…。
【坂口裕俊裁判長(当時)】「必要以上に強く責任を感じさせ、その責任の逃れようと、真実とは異なる内容の供述におよぶ、強い動機を生じさせかねない」
「信用できない証言だ」と検察の取り調べを厳しく非難しました。
■無罪でも逮捕で一変した人生 再び新しい事業をスタート「死ぬまで仕事します」
えん罪を生んだ大阪地検特捜部の取り調べ。
突然の逮捕を境に、山岸さんの人生は一変しました。
自分の子供のように思っていたプレサンスコーポレーションの社長も辞任せざるを得なくなりましたが、いま、再び新しい事業を始めています。
「では定例はじめます」
【山岸忍さん】「西九条、甲斐田町これは分譲でやります。パンフレットの打ち合わせは始まっている?」
山岸さんは一度すべてを失った不動産業で、新しい会社を立ち上げました。 数百人を率いていたプレサンス時代から人数は減りましたが、それでも山岸さんを慕う仲間50人ほどが集まっています。
【TUKUYOMI HOLDINGS 田村政哲さん】「最後の法廷の時に、判決の時です」
そう言って、山岸さんの裁判の傍聴券を見せてくれました。
(Q.無罪判決を聞いて)
【TUKUYOMI HOLDINGS 田村政哲さん】「ただただうれしくて、やった!と叫んでました。社長が一番しんどい裁判前に、個人の会社でうまくいってない、社長に相談したい案件があって、色々アドバイス、支援くれた。ついていきたいと思った」 【TUKUYOMI HOLDINGS 平野匡彦さん】「人生を狂わせたり、その周りの家族、会社の社員も狂うようなことが起こった。それを乗り越えられたということで、逆にこっちがパワーをもらった」
いますでに60以上の現場を手掛けている山岸さん。
そのひとつを案内してくれました。
【TUKUYOMI HOLDINGS代表取締役 山岸忍さん(61)】「(完成は)来年の春です。もう売れてます」
(Q.再び、不動産業を始めることに迷いは?)
【TUKUYOMI HOLDINGS代表取締役 山岸忍さん(61)】「ないですね。逮捕されて拘置所入ってるときは、二度と仕事せんとこうって思ってました。でも釈放されたら、ここのマンションを建設してくれてる会社の社長もその1人なんですけど、皆さんがもう1回やろう、協力するからってお声がけいただく。これはやらなあかんのじゃないかという気持ちになってきた。もう仕事大好きです。死ぬまで仕事します」
■異例の展開 取り調べをした検察官の尋問が行われる 「正直な気持ちを話してください」と山岸さん
山岸さんが国を訴えた裁判は今、大きな節目を迎えています。
6月11日に、事件を担当し問題のある取り調べを行った検察幹部らが、法廷で尋問を受けるのです。
異例中の異例ともいえる、この展開を前に山岸さんは…。
【山岸忍さん】「久しぶりですね!と、お元気ですか、というところから入りたい。ほんまのこと正直に話しなさいと思っている。だってあなたたちはそうさせているんでしょ、と。被疑者、被告人に対して、そうさせる仕事でしょ、と。じゃあ、あなたたちも自分の正直な気持ちを話してくださいねと思う」
検察は山岸さんの声にどうこたえるのか。 社会の厳しい視線が向けられています。
■えん罪事件をめぐる異例の裁判 「悪い習慣がまだ残っている」と菊地弁護士
大阪地検特捜部の検察の幹部が法廷で尋問を受けるという異例なことについて番組コメンテーターの菊地弁護士はこのように話します。
【菊地幸夫弁護士】「異例という点で言えば、1つは特捜部の事件がえん罪になって、検事が取り調べを受けるところです。それから、2つ目として幹部であるという特徴があると思います」
録音、録画をされている中で、なぜ強引な取り調べが行われたのか?
【菊地幸夫弁護士】「特捜部が動く時は、特捜部として、組織として、『この方向で行くんだ!』という方針にしたがって、部下の検察官がそれぞれの取り調べをします。その方針が間違っていることがたまにあって、そこでえん罪が生まれたということです。一度進み始めたものの戻れない…。ここが問題だと思います」
どうして戻れなかった?
【菊地幸夫弁護士】「『社長には知らせてない』という供述の重み、真実性を虚心坦懐に調べなかったというところだと思います。あとはプレサンスコーポレーションという上場会社の社長を立件して有罪に持ち込む、これは1つの手柄だと、それに検事が魅力を感じていたところはあるかもしれないです」
そして、もう1つは録音録画の一部公開については、弁護団によると史上初だということです。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「そもそも特捜部が取り調べる案件というのは、全部、録音録画されています。なので大声で怒鳴ったり、机をたたいたりという記録はされています。しかし今回の裁判で出てくるのはほんの一部で、自分たちが机をたたいているところや怒鳴っているところは出てきません。これだけひどい取り調べをしておきながら、その証拠を出し渋っていると。少し往生際が悪いんじゃないかと思います」
一部公開ということですが…。
【菊地幸夫弁護士】「全部公開は基本だと思います。じゃないと公開しない部分で、机たたいたり、わめくなどやればいいですからね。あと相変わらず、まだ自白を優先するという悪い習慣がまだ残っているんだと思います」
山岸さんの人生は大きく狂わされました。来週、検察の幹部が法廷で何を語るのか注目されます。
(関西テレビ「newsランナー」2024年6月6日放送)