2017年に大阪市東淀川区の自宅で、2歳の娘の頭に何らかの暴行を加えて死亡させた罪などに問われ、一審で実刑判決を受けた父親の二審が、21日に結審しました。二審でも新たに8人の専門医の証人尋問が行われる異例の裁判となったこの事件。判決は11月28日に言い渡されます。
ことの発端は2017年12月。大阪市東淀川区の自宅で今西貴大被告(35)と一緒にいた当時2歳4カ月の義理の娘・希愛(のあ)ちゃんが、心肺停止の状態で救急搬送されました。
「『うっ』となって、息してないです。早く来てください!」
今西被告は119番通報の際、慌てた様子でこう説明していました。
病院に運ばれた希愛ちゃんは、約30分後に心肺が蘇生しましたが、意識が戻ることはなく7日後に死亡。体に目立ったけがはありませんでしたが、CT画像で頭の中での出血が確認されたことなどから、病院の医師は警察に「虐待の疑いがある」と通報。
2018年11月、今西被告は大阪府警に殺人の疑いで逮捕され、傷害致死罪で起訴されました。約1カ月後に保釈された際、今西被告は会見を開いて「すごく愛情かけて育てていたのに、いきなり逮捕されて『お前がやったんやろ、何かやったんやろ』と言われてすごく悔しいです」と訴えました。
その直後、今西被告は再逮捕されます。大阪地検は、肛門付近の(時計の)12時方向にある約1センチの傷に対する強制わいせつ致傷罪と、1カ月前の左足の骨折に対する傷害罪で追起訴しました。今西被告は3つの罪に問われることになり、全ての罪を否認し続けました。
2021年2月に始まった一審の裁判員裁判では、希愛ちゃんの死因が揺さぶりなどの強い外力(すなわち暴行)によるものか、それとも、心臓突然死だったかが主な争点となりました。
検察側は、脳の深部にある脳幹が損傷していたとする解剖医の証言等を理由に「脳が交通事故並みの強い外力を与えられたときと同じようなダメージを受けて心肺停止になり、当時2人きりだった今西被告が暴行した」と主張。他の2罪も成立するとして、懲役17年を求刑。
一方、弁護側は、一審の公判前整理手続きの過程で、心臓から新たに切り出された部分を顕微鏡で検査。その結果、「心筋炎」が新たに発見されたこと等を理由に、「病気が原因で心肺が停止し、脳が低酸素状態になって出血した」と主張して無罪を主張しました。
2021年3月、大阪地裁(渡部市郎裁判長)は、「脳の損傷は脳幹を含む広範囲のものであり、相当強い外力がないと生じない」と認定。交通事故並みの強い外力があったとする検察の主張についても「交通事故といっても態様はさまざまであり、人の手によって加えることができないものとはいえない」として、傷害致死罪が成立すると判断。
強制わいせつ致傷罪の成立も認め(骨折についての傷害罪は無罪)、懲役12年を言い渡しました。弁護側と検察側がいずれも控訴しました。
二審は2023年5月、大阪高裁(石川恭司裁判長)で始まりました。一審では13人の医師への証人尋問が行われましたが、二審でも新たに8人の医師が証言台に立つ異例の展開となりました。
2023年10月の公判では、一審判決で「強い外力」がある根拠とされた頭部CT画像の解釈を巡って、放射線科医2人の証人尋問が行われました。11月には、頭蓋内の出血が生じた時期が心肺停止前かそれとも後かについて、2人の医師(検察側は法医学者、弁護側は小児科医)の証人尋問が行われました。
そして5月21日に開かれた公判で、弁護側は「二審での検察側医師は『所見はないが隠れている』、『病理所見で時期不明の出血が確認できる』と話すだけだった。脳幹損傷を起こすような”強い外力”を示す所見は全くない。一審は、硬膜下血腫があれば外力があるという予断が生んだ誤判だ」などと主張して、あらためていずれの罪も無罪だと主張しました。
一方、検察側は「解剖時の脳の写真は一部であり、脳幹損傷の所見はないとは断定できないはず。3つの罪は一連の事案で、今西被告と希愛ちゃんが2人きりとなった短い時間で起きていることなどを総合的に評価すれば、暴行があったと認定できる」などとして、3つの罪について有罪だと主張しました。
二審での公判は6回にわたって開かれ、いずれの回も大阪高裁の大法廷はほぼ満席。判決への注目が高まっています。
今西被告は、再逮捕後は一度も保釈が認められず、大阪拘置所で5年半近く勾留が続いています。弁護側の弁論の最後、主任弁護人の川﨑拓也弁護士は「二審での3年半、今西さんは拘置所にただ一人…彼の人生は歩みを止めている」と声を詰まらせ、それを聞いていた今西被告が涙をぬぐう場面もありました。
二審の判決は11月28日に言い渡される予定です。