「ある虫の痕跡を見つけたら懸賞金1万円」そんな異例の取り組みを始めた町があります。その理由とは。
奈良県大和高田市にある「高田千本桜」。樹齢70年を超える桜が2.5キロにわたって続く桜のトンネルが有名です。
【桜を見に来た人】「毎年見てるけどこの時期が一番楽しみ」
【桜を見に来た人】「もう最高、日曜日に夫婦で来て。きょう孫を連れて来て。 いいところやんね」
穏やかな天気でお花見日和ですが、この桜が今、ピンチに陥っているのです。その原因となっている虫は、「クビアカツヤカミキリ」。
クビアカツヤカミキリは、本来は中国や台湾などに生息するカミキリムシで、特定外来生物に指定されています。桜や桃などバラ科の木に卵を産み、育った幼虫が幹の中に侵入し、栄養分を食い荒らし、その結果、木が弱り枯れてしまうといいます。
2012年に愛知県で確認されて以降、被害は全国各地に広がり、関西では大阪・兵庫・奈良・和歌山にまで拡大しました。
被害拡大について、専門家は…
【樹木医 宗實久義さん】「日本は北海道から沖縄まで桜とかがたくさんあるので、クビアカにとっては気候も自分たちにとってぴったりだし、子ども(幼虫)を育てるための桜もたくさんあるので“天国”ですよね」
■名所「高田千本桜」では調査した桜の約3割にクビアカツヤカミキリの被害
「高田千本桜」でも去年、調査した約450本の桜のうち約3割にあたる150本にクビアカツヤカミキリの被害が確認されたのです。
(Q枯れてしまう恐れもあるが?)
【桜を見に来た人】「悲しい」
【桜を見に来た人】「ちょっとやっぱり残念ですよね。できればずっと自分たちの子供が大きくなってもこのまま残ってくれたらいいなとは思いますけど、なかなか維持も大変だろうと思う」
一度に産む卵の数はなんと500個~1000個。天敵も少ないことで拡大を続けているとみられます。
■早期発見のポイントは『フラス』
大阪ではすでに重大な被害が出ているところがあります。大阪府羽曳野市にある研究施設を吉原キャスターが訪れました。
【大阪環農水研 山本優一さん】「桜の並木が広がっていたところなんですけど…」
【吉原キャスター】「ここに桜並木があったんですか。桜の木を切った切り株が。相当切ったんですね」
かつては桜並木だったという場所もクビアカツヤカミキリの被害に遭い、数年前に多くの木を伐採しました。
残った切り株に…
【吉原キャスター】「これが食べた痕ですか?」
【大阪環農水研 山本優一さん】「食べたあとの木くずが詰まっている状況。(Q桜を切る時にじくじたる思いでしたか?)周辺の住民の方も桜の時期には来られていた場所なので、残したかったところではあるんですが、状況を考えて今回は切る判断をした」
クビアカツヤカミキリは木の中に入り込むが、中に入ったらどう気付くことができるのでしょうか?
【大阪環農水研 山本優一さん】「クビアカツヤカミキリの幼虫は、木を中でむしゃむしゃ食べる時に大量に木くずを発生させる。(実際に被害を受けている木を示して)こちらになります。見にくいですが、木から中にいる幼虫が外に出して積もっている『フラス』になります」
「フラス」とは、木くずとフンが混ざったもの。木の根元に積もっていないか確認し、早く被害に気付くことが大切だといいます。
【大阪環農水研 山本優一さん】「初期、比較的小さい穴の段階で対策をして、中の幼虫を駆除いただければ、木は樹勢を保ったまま元気に過ごすことができる状況です」
(Q桜を切らざるを得ない状況になったということは対策が難しかった?)
【大阪環農水研 山本優一さん】「最初は試行錯誤で、どういう薬剤が効果があるのか、方法がいいのか、なかなか分からず、やりながら分かってきて、今に至る。早く方法が見つけられれば救えたと思うんですけども」
■桃の木にも被害 徳島県では約40の農園が廃業したという
被害は桜だけにとどまらず、農作物にも及んでいます。
【記者リポート】「和歌山県では桃でもカミキリムシの被害が確認されています。こちらの農園では、木の断面には幼虫がいた痕でしょうか、穴が空いていて、根元にはフラスが確認できます」
クビアカツヤカミキリは桜だけでなく、桃の木も大好物です。
【林農園 林信次さん】「今日切りました。枯れてしまったから。クビアカで」
和歌山県かつらぎ町にあるこちらの桃農園では、2022年に初めて被害が確認され、約100本ある桃の木のうち、これまでに40本を伐採しました。今は木にネットを巻いて産卵を防ぐ対策を取っています。
【林農園 林信次さん】「油断してたんかなと思って。被害がどんどん増えてくるのは、とても悔しいですね」
徳島県ではクビアカツヤカミキリの被害により、約40の農園が廃業したということで、日本の農業に深刻な被害が出ています。
そんな中、危機感を持ち、ある策に打って出た町もあります。
【みなべ町農業士会 月向雅彦会長】「懸賞金のほうが1万円。フラスの発見に1万円ということで設定させていただきました。できるだけ早く第一報がほしいということで」
日本一の梅の産地、和歌山県みなべ町は、クビアカツヤカミキリの幼虫が出すフラスを発見し、JAに連絡した人に1万円の懸賞金を出すというのです。
これまで和歌山県での被害は北部に限定されていましたが、去年、初めて中部の日高川町や御坊市でも確認され、じわじわ拡大しています。
みなべ町ではまだ被害は出ていませんが、いつ発生してもおかしくない現状で、農業団体は、見回りをするなど、警戒を強めています。
【農園の人】「ないです今のところないです。あると大変なんですけど」
懸賞金の取り組みは4月から始まっていて、結果的にフラスではなかったものの、すでに数件、連絡があったということです。専門家も地域住民を巻き込んだ対策が大事だといいます。
【樹木医 宗實久義さん】「たくさんの目で、桜とか梅とか桃を見ていかないとダメなんですよ。そういう意識を持って、見つけてすぐに捕殺するとか、薬殺するとか。いかに初動の処置をするかが一番重要になる。“初期消火”を誤ると取り返しのつかないことになりますね」
観光資源だけでなく、農作物にも大きな影響を及ぼす招かざる虫。被害はもう身近なところまできています。
■「クビアカツヤカミキリ」への対策は?
桜の名所の被害だけではなくて、農園も廃業に追い込まれていました。
「クビアカツヤカミキリ」の幼虫は、木の中に入って、2~3年かけて食い尽くし、伐採せざるを得ない状況になります。
外から見た感じでは、伐採せざるを得ない状況になっていることがよく分からず、桜を大事にしている住民の方は、「なんで枯れてもないのに伐採しなきゃいけないの」となることもあって、住民の皆さんの合意形成も大事になります。
【菊地幸夫弁護士】「伐採しなければならない理由を皆さんに理解していただいて、また発見に協力してもらう意味でも、地域ぐるみで木を守っていく運動が必要なんでしょうね」
「フラス」を見つけて、早めに駆除していくは、周囲の住民にも協力が求められます。早期発見に関して、栃木の農業試験場で研究されている対策があります。ブラックライトを照射して卵を見つけるということです。 ブラックライトの紫外線で、クビアカツヤカミキリの卵だけが光るということが発見されました。市販のブラックライトでも大丈夫です。幼虫になって見つけても遅いということで、卵の段階での早期発見が重要ということです。
和歌山・みなべ町が始めた懸賞金制度についてまとめます。
・幼虫の痕跡を発見した場合、懸賞金は1万円(1人1回まで)。
・被害にあった樹木を伐採して適切な処理をした方には支援金6万円。町と県が負担するということです。
すでに他の自治体で行われている取り組みもあります。 群馬・館林市では、2019年度から、成虫を捕獲駆除すると1匹50円の懸賞金ということです。10匹から申請可能で、上限は400匹ということです。
実施これによって、去年は1万3785匹の捕獲がありました。カミキリ自体は減っていないけれども、被害樹木は減少しているそうです。
【関西テレビ 神崎報道デスク】「そもそもこのカミキリは外来種であって、日本国内に目立った天敵がいない状況です。これを駆除するためには、懸賞金をかけてでも、人の目、人の手に頼るしかないんです。このような形で多くの皆さんに協力してもらい、いち早く駆除するしかないというふうに専門家も言っていました」
大阪環農水研の山本さんにも聞いたのですが、外来種は許可なく運ぶことができないので、見つけたらすぐに駆除してくださいと話されていました。被害が広がらないよう、何よりも早期発見、そして駆除することが大切になってきます。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年4月11日)