「障害があってもなくても普通に働く」そんな思いで作られたカフェが大阪にあります。その店で働く、ダウン症の女性が夢を見つけました。
■「一般就労」でカフェで働くダウン症の美帆さん
大阪市中央区のコーヒースタンド「ヒカルコーヒーロースター」。
こだわりの豆を使ったドリップコーヒーや自家製のチーズケーキ。観光客や地元の人などが訪れます。
アルバイトとしてここで働く玉井美帆さん(26)。
美帆さんはダウン症です。
ダウン症は約500人から600人に1人の割合で生まれるといわれていて、知的な発達が遅く、筋力が弱い人が多いという特徴があります。美帆さんも動作はゆっくりです。
【玉井美帆さん】「イチゴのチーズケーキどうぞ」
【お客さん】「10月のパンプキンのケーキめっちゃおいしかった」
【玉井美帆さん】「かぼちゃのチーズケーキですね」
店にはいつも笑顔があふれています。
(Q.仕事がしんどいことは?)
【玉井美帆さん】「ないです」
練習を重ね、今では一人でコーヒーをいれることができます。
オーナーの山中英偉人さん(26)は、“ある思い”を込めて、この店を作りました
【山中英偉人さん】「ヒカルコーヒーロースターの“光”というのが、僕の弟の名前なんです。彼がダウン症で生まれたことが、ダウン症というテーマに取り組み始めたきっかけです。弟が生きていて、誰が面倒を見ていたんだろうか、とか」
1歳で亡くなった弟が生きていたら社会人。働く場所はあったのか。
“日常生活の中でダウン症の人も普通に働く”そんな環境を作りたいと、時給も待遇も同じ一般就労で、1人の従業員として美帆さんを雇いました。
■仕事をしたくても受け入れ先がない現実
美帆さんのお母さんがお店にやってきました。
美帆さんが紹介してくれます。
【玉井美帆さん】「ルカさんです。カタカタでルカです」
【美帆さんの母】「ひらがなです」
美帆さんは支援学校を卒業した後、福祉事業所で7年間働きました。
家族と一緒にヒカルコーヒーを初めて訪れ、「ここで働きたい」と話したといいます。
【美帆さんの母】「一度、就職したいというので、色んな所へ実習に行かせていただいたんですけど、なかなか受け入れ先がない。(ここで働いて)笑顔が増えた。写真を向けられたときに『笑って』って言われて、なかなか自然に笑えなかったのが、普通にここでは笑っている」
ダウン症の当事者らが集まるイベントに参加しました。
それぞれが特技を披露する中、美帆さんはコーヒーをいれました。
【山中英偉人さん】「大丈夫、提供できる?」
【玉井美帆さん】「できます」
生き生きと輝ける仕事と出会った美帆さん。
一方、日本ダウン症協会などの調査によると、企業の障害者雇用枠で働いているのは約6%。ヒカルコーヒーのような一般就労はわずか2%で、半数が障害のある人の就労を支援する福祉作業所で働いているのが現実です。
イベント参加者の親たちに聞くと、それぞれ悩みを抱えています。
【ダウン症の娘(21)を持つ母親】「私がやっぱり死ぬじゃないですか、先に。自分でちゃんと生活を立てていってほしい。(決まった)時間に、ちゃんと行って、時間の間きちんとお仕事して、時間になったら帰るルーティーンが、なかなか身につかないタイプなので、お仕事できればいいなって思うけど、なかなか難しい」
【ダウン症の息子を持つ親】「知的(障害)の子たちの一般就労は現実問題、難しい。一回言って(頭に)入る子ではないことが多いので、(企業が)そこにどれだけ時間を使えるか」
■ダウン症の個別の特性に合わせたやり方で働くことが可能に
コーヒーをいれている時に、美帆さんが大きく背伸びをしました。
【野々村店長】「まだ気ぬくの早いで、仕事中やで」
【玉井美帆さん】「はーい、すみませーん」
記憶の定着が難しいことも多いダウン症。
ここにはその特性に合わせたやり方があります。
ヒカルコーヒーでは、注ぐお湯の量やドリップする時間を定めたレシピがあります。
何度も繰り返すことで覚えられるよう、1回の勤務時間を短くし、出勤回数を多くしました。
【山中英偉人さん】「自分の手の方にひいたらつくやん、なるべく逆の方向にひくようにして…」
ケーキ作りで、ボールの中のクリームチーズに苦戦する美帆さん。
山中さんが教えてくれたように、美帆さんがやってみます。
【山中英偉人さん】「そうそう上手上手」
スタッフはイラストを使って、その日教えたことをノートに記します。家でも振り返ることができるようにしています。
【玉井美帆さん】「野々村店長と山中さんと、一緒にお仕事をするのが楽しみで スイーツづくりやドリップコーヒーをお客さんに飲んでほしい」
■「“ダウン症の人が当たり前にいる”は実現できる」
山中さんは、知り合いのカフェとコラボイベントを行うことに。
いつもと異なる環境でコーヒーをいれ、美帆さんの成長につながれば…そんな思いも込められています。
意気込みを求められた美帆さんですが、緊張している様子です。
地元の人やヒカルコーヒーの常連客など、訪れた人に無料でコーヒーをふるまいます。
【玉井美帆さん】「ごゆっくりどうぞー」
美帆さんのお母さんもやってきました。
【美帆さんの母】「美帆って四つん這(ば)いしてないから、肩の周りの筋肉が弱くて、最初は250ccのポットも重くて、500㏄でもできるようになったんだなって思ってみてました」
【山中英偉人さん】「1人1人の特性が違うので、得意や好きを中心にできるお店の設計をする方が、当人にとって居場所や活躍の場所になる」
「働いている様子を見てもらって、1つでもこれまでと違った考え方になったり、(ダウン症の人が)“当たり前にいる”って結構、実現できる」
疲れも見せず2時間、コーヒーをいれ続けました。
【山中英偉人さん】「どうやった?」
【玉井美帆さん】「楽しかったです」
(Q.これからも働きたい?)
【玉井美帆さん】「はい!」
二人で記念写真を撮ることになりました。
【カメラマン】「めっちゃいいやーん。いつもいい笑顔やな」
“自分がいれたコーヒーでたくさんの人を笑顔に”
美帆さんが抱く夢です。
誰もが輝ける環境がここにはあります。
(関西テレビ「newsランナー」2024年4月8日放送)