自ら命を絶った 26 歳医師 背景に過酷な労働…直前 1 カ月の時間外労働は約 200 時間 労 基署が労災認定してもなお病院は…「過重な労働を課していた認識はない」 2024年04月04日
将来を期待された1人の医師が自ら命を絶ちました。
追い詰められた背景にあったのは、過酷な長時間労働。
過労死として労災認定されました。
二度と同じことが起きないように…、今月から「医師の働き方改革」がスタートするなかで、本当に医療現場は変わるのか。
【働き方改革に力を入れる病院】「日本の医療は仕組みを見直さないと、たぶん、やっていけないと思う」
働き方を見直す現場を追いました。
■病院の主戦力の一番立場の弱い「専攻医」
【高島晨伍さんの母・淳子さん(61)】「小学生か幼稚園ぐらいのとき、『僕、お母さんと結婚してもええよ』って、『しんちゃんが結婚する頃には、お母さんしわしわのおばあさんなってるから無理やで』って言うと、『しわしわでもかまわへん』って」
医師だった高島晨伍さん(当時26歳)は2022年5月、自宅で自ら命を絶ちました。
見つけたのは、母・淳子さんでした。
【高島晨伍さんの母・淳子さん】「うそでしょっと思って、まず最初に顔を包み込んで見て、涙が出ていたら、どうかなってしまうと思ったんですけど、涙もなにもなく…普通の顔をしていました」
医師になって3年目、神戸市にある甲南医療センターで、専門医になるための修業中でした。
晨伍さんが追い詰められていたのは、過酷な長時間労働。
労働基準監督署が調べたところ、亡くなる直前の1カ月の時間外労働が約200時間。
ある日の当直勤務が終わったのは「40時」。
朝から翌日の午後4時まで連続で勤務したことも認められ、労災認定されました。
【高島晨伍さんの母・淳子さん】「(おととし)2月に一度、勉強する時間はないし、仕事に追われているので、どうしたらいいかと、指導医の先生に尋ねたら、『俺は(年)5日間しか休んでいない。そんなん当たり前や』と。あまのじゃくなところがありましたので、私は『休まんといかんよ』と言ってしまっていたんですけど、だから働いてしまったのかなと。『もっと働け働け』って言ってたら、働かなかったのかもしれないと思って」
生前、心配する母・淳子さんに、こうも訴えていました。
【高島晨伍さんの母・淳子さん】「『休めんねやったら、いくらでも休めるわ。休まれへんから行っている。休めないんや』って言いました」
なぜそこまで働かなければいけなかったのか。
晨伍さんは「専攻医」という立場でした。
専攻医は2年間の初期研修を終え、上司などの指導を受けながら診療します。3年から5年かけて研修を続け、試験に合格すれば、ようやく独り立ちした「専門医」として認められるのです。
甲南医療センターにおける専攻医の立場について、晨伍さんと同じ時期に在籍していた元専攻医は…。
【晨伍さんと同時期に在籍元専攻医】「初期研修医の先生たちは、自分で診療っていうことができない。専攻医になった途端に、自分が主治医を担当して、裁量権が与えられて、自分で診療しなければならないので、病院の主戦力の一番立場の弱い若手」
最も大きい負担がかかるのは当直勤務です。
【晨伍さんと同時期に在籍元専攻医】「当直の時は徹夜です。『断らない救急』を前面に押し出していましたし。ものすごい数の救急車が来ますし、一晩で入院させる患者が7~8人になる。(担当する)入院患者さんを20人~30人持っているので、患者さんの治療法を考え直したりとか、土日は入院患者さんのための勤務日になっていた」
こうした状況を変えようと、晨伍さんが亡くなる1年ほど前には、待遇改善を望む専攻医たちと病院側が協議。
そのときの音声が残されていました。
【専攻医の発言】「4月の専攻医の平均残業時間は100時間を超えていたと考えています。検査漏れも多くなってきているので、このままでは患者さんの命に関わると考えられますので、業務緩和をよろしくお願いいたします」
【病院幹部の発言】「言いたいことは、僕らも昔の世代の人間やから、先生(専攻医)と意識が違うんやけど、主治医してると(週末でも)『きょうあの人どうしてるかな?』と見に行きたいとき、あるじゃないですか。主治医として心配、あるいは興味として、自分の入れた薬で、それこそカリウムが上がっているか、下がっているか見たいやん? 半分は勉強や、自分を鍛えるための」
時代にそぐわない精神論を振りかざす病院側…長時間労働の改善は実現しませんでした。
ただでさえ長時間労働が続くことに加え、晨伍さんは専門医になるための学会発表など、研究にも取り組まなければなりませんでした。
【高島晨伍さんの母・淳子さん】「金曜日が学会の締め切り、指導医の先生に出す日やったんですけど、木曜日に当直なんかやっていたら、出せるわけないって。『きょうも何もできなかった。頭が回らへん。きょうも何もできへんかった』ってわめきだしました。鬱で休みたいとかは、ほかの先生も忙しいし、やっぱり言えなかったって」
こうした状況で労災認定されてなお、甲南医療センター側は…
【甲南医療センター 具英成院長】「(医師の仕事は)非常に自由度の高い部分がありますので、基本的には個々の医師でないと、(労働時間は)正確には把握できない。病院として過重な労働を課していたという、認識は持っていません」
■医師の働き方改革 カギは「業務の分散」
2022年の厚生労働省の調査によると、病院に勤務する医師の約2割は、時間外勤務が過労死ラインとされる、月平均80時間を超えていると推計されています。
今月から医師についても、年間の時間外労働の上限が設けられました。ただそれは過労死ラインぎりぎりの960時間です。
これで医師の健康は守れるのでしょうか。
一つのカギが業務の分散です。
大阪市の医誠会国際総合病院では、業務の一部を看護師が代わりに担当し、医師の労働時間を抑える「タスクシフト」に取り組んでいます。
医師の業務を代行できる特別な資格「特定看護師」。
2015年に国がつくった制度で、学校や病院で半年から2年の研修をへて認定されます。
【特定看護師】「僕が麻酔科の先生の代わりに部屋にいることで、その麻酔科の先生は部屋から離れることができるので。実際に自分が特定行為(医師の代行)に入ることで、月にどれぐらいの麻酔科医の時間を空けられているか集計取るが、何十時間という時間になるので、その時間、麻酔科の先生は別の仕事ができているのかなと思う」
働き方改革の実現に活用が期待されている制度ですが、資格を持っているのは、全ての看護職員の中で0.2%程度。(2020年現在)今後の増加が待ち望まれています。
さらに自殺した高島晨伍さんと同じ、専攻医の池田大一さん(27)の働き方を見ると…。
この日は日勤からの当直勤務。日中に手術をこなし、夜間は集中治療室を担当します。
当直勤務が始まった当初は、落ち着いていましたが、午後10時ごろ、症状の重い患者が運び込まれ、未明まで処置に追われることとなりました。
当直の時間帯に受け入れた患者を、翌日も主治医として担当する病院が多い中、こちらでは必ず日勤の医師に引き継ぎます。
【専攻医1年目 池田大一医師(27)】「日勤の医師に申し送りできたので、家帰ってゆっくり休もうかなって思っています」
引き継ぎを徹底することで、勤務時間を管理して過重労働から医師を守っています。
【医誠会国際総合病院 峰松一夫診療院長】「(いまは)やることが多くなったんですね。高度な医療が(進んだので)。昔は薬あげて点滴して、ちょっと様子見る。2カ月ぐらいたって、『よくなりましたね、じゃあ退院』って経過を見るのが主だったんですけど。現実問題として、いまの日本の医療は、超過勤務とか過度の労働で保たれているところがあるので、全体として仕組みを見直さないと、多分やっていけないと思う」
■悲劇を繰り返さぬために
長時間労働の末に、死を選ばざるを得なかった高島晨伍さん。
医師である父や兄の背中を追うように、同じ職業を選びました。
【高島晨伍さんの兄】「これとか僕の字なので、同じ本使ってたんだなと」
(Q.お兄さんのこと尊敬されていたんですね?)
「使えるもん使おうぐらいに、思っていたのかもしれないですけど」
甲南医療センターを運営する法人と院長らは、労働基準法違反の疑いで書類送検されています。
遺族は病院には検証と再発防止を求めていますが、いまも説明はありません。
【高島晨伍さんの兄】「どのようにして患者さんに対して、メリットをもたらすのか。どうしてその仕事の中で、大きな成果を残すのかということを、考えないとならないはずなのに、いつの間にか、長く働くということが、目的になっていたのではないかと、自分の働き方からも思います」
【高島淳子さん】「このまま放置していては、逃げたり放置したりしたことで、こういう問題が起きたので、これを明らかにすることによって、後進の先生の命を救うことにもなるかな」
異常な環境に命を奪われた晨伍さん。
二度と同じことが起こらないよう、遺族は訴え続けています。
(関西テレビ「newsランナー」2024年4月3日放送)