春の引っ越しシーズンが到来しました。
卒業・入学・転勤など、みなさんの周りにも引っ越しされる方がいるかと思います。
長年住んだ賃貸住宅から退去する時に生じるのが修繕費トラブルです。負担するのは大家さんか?それとも借り主なのでしょうか?
不動産業コンサルティングなどを手掛ける不動産の専門家、株式会社コミュニティ・ラボ代表の田中和彦さんに聞きます。
■ポイントは「原状回復義務」
田中さんは自らも賃貸業を営んでいるそうですが、修繕費トラブルにあわないためにはどうすればいいのでしょうか?
大切なのは「借り主も最低限の知識を!ポイントは原状回復義務」ということです。
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「退去時にトラブルになるというパターンが、やはり圧倒的に多いです。退去時の何がトラブルか、まさに原状回復で、何か汚してしまった、壊してしまった、元に戻すのにもどの程度まで戻すかという所でトラブルになることが非常に多いです」
■借り主負担になる「現状回復」についてケーススタディしよう
原状回復義務がポイントということですが、それについては具体的な事例を見ながら、解説してもらいましょう。
ケーススタディーを用意しました。
この中でどれが借り主の負担になるか? みなさんお考え下さい。
1.「畳の日焼け」
2.「冷蔵庫が原因の壁の汚れ」
3.「画びょうの穴」
4.「家具による床のへこみ」
5.「結露によるカビ・シミ」
このリストは、大家負担と、借り主負担がある程度線引きができるように並べられています。
田中さんによると、1~4までは通常生活の汚れ・痛みということで、基本的に大家さんが負担する。5については、基本的に借り主が負担するということです。
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「普通に生活をしているにあたって、『これは、こういうことが起きるよね』というところで線引きしました」
1.「畳の日焼け」
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「例えば、南に面している部屋で、太陽がサンサンと当たるところに和室があると畳が焼けますよね。これを借主さんが負担するのは酷だろうということで、貸主の負担になっております」
2.「冷蔵庫が原因の壁の汚れ」も大家さんの負担になるということです。
3.「画びょうの穴」
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「前提として、最終的にはやはり契約書によるものになります。ただ契約書にそこまでキッチリ書かれてないことが多いです。そういう時には、国交省がガイドラインを出していまして、そのガイドラインは割と細かく書かれています。その中にあるのが、画びょうの穴。カレンダーを貼ったり、昨今、あまり無いかもしれないですけど、ポスターとかを貼るのは、『通常貼りますよね』ということで、これは貸し主の負担になります。 『ダメな穴』は例えば、“釘を打った”とか“ネジをもみ込んだ”とかだと、ボードごと交換しなければいけなくなってきます。ガイドラインの中ではピン・画びょうはいいけども、釘とかネジは借主負担です」
カーテンレールの後などは借り主負担になりますか?
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「微妙ですね。カーテンレールについては付いてないのも見込んで自分が付けるとなったら、事前に相談があったほうがいいと思います。ネジでもみ込むとなると『これは私(大家)持ちじゃないよ』と言われる可能性があります」
4.「家具による床のへこみ」
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「意外な感じがするかと思いますが、通常生活するにあたって何か物を置きますよね。それでヘコまないのは無理です。なので、それについては借主負担は酷なので貸主負担となります。通常の生活ということですので、過度に重たい物を置いて、めちゃくちゃへこんだ、めり込んだのであれば、借主さんに修繕の義務があります」
過度に重たい物というのは、どういうものですか?
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「例えば小さなメダカを飼うぐらいの水槽だったらいいですけど、アロワナを飼いたいというほどの大きな水槽は、本当に部屋に入れて借りて住んでいいか、という話は置いといて、そういうものが該当します。他に巨大な金庫などは、床がたわむようなこともありますので、そういうもので、へこみとか、めり込んだ、これは借主さんの負担になります」
5.「結露によるカビ・シミ」
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「しょうがないと思う気持ちは分かりますが、結露による水滴などはちゃんと掃除をすればカビやシミはできません。ちゃんと掃除してねということで、これは残念ながら(借り主負担)。借りるときに北側の窓などをご覧になって、木のところがモケモケになって、これ結露しそうだなというのが、あらかじめ分かる時には、先に貸主に『そういう風になりそうですよね』とジャブを打っておくことはできるかもしれませんが、基本的には借主が掃除をする。これは水まわりの水垢なども同じことが言えます」
掃除できるところは掃除をすることで、完全に原状回復する必要はないということでしょうか?
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「そこがポイントで、原状回復というと、例えば私が入った時にクロス・カーペットが全部、新品だっただから、新品じゃなきゃダメだと思われる方が多いのですが、いわゆる経年劣化といって、日々住んでいくうちに、少しずつ汚れていくことは、あらかじめ家賃に含まれているものという解釈になります。例えば10年、20年住んだとすると、汚れて当たり前ですので、それは直さなくていい。極端な話、1週間で出るのにそれで汚れていたら『変えてよね』という話になるかもしれません。入居の当時の新品に直す必要は「ない」と思っていただいて大丈夫です」
■退去費用に納得できなかった経験がある人は3割
番組では事前に視聴者の皆さんにLINEでアンケートを行いました。
「業者・大家などから請求された退去費用に、納得できなかった経験はありますか?」
“ある”と答えた人は29.8%いました。
番組コメンテーターの菊地幸夫弁護士は実際にあったケースとして「相談は多いです。大家さんから(敷金を)減らされて『納得できない!ちゃんと敷金返してよ!』と言っても、敷金の金額が例えば15万円~25万円で、『裁判を起こすのに20万円です』と高い。裁判を起こさないと見越して、かなり厳しい契約を平気で要求してくる大家さんもいる。『気に食わないのだったら、他を借りてください』なので、借りている方は弱い立場」と話しました。
例えば、自分が新しく入居しようと思った部屋が、ものすごくタバコ臭くて、おそらく前の借主がものすごいヘビースモーカーで、壁紙が全部黄ばんでいるような状況で、大家さんに「変えてください」とお願いしたら、それは大家さん負担なのか、前の借主負担なのかどうなるのでしょうか?
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「これまでの話でいくと、前に住んでいた方の負担になります。現実その場面に当たったらタバコ臭くても『このまま借りてくれ』と言われたら、それを強制的に家主に変えてくれと言うことはできません。交渉の中で言うことはできますが、もし仮にそのようなお部屋に当たれば、『タバコ臭かったよ最初から』と、きちっと借りる時に言っておくべきですね。 ご自身が退去する時に『タバコ臭いよね、あなたが変えてね』と言われると、トラブルになります」
■退去時のトラブルを避ける対策3選
さまざまなトラブルがあると思いますが、田中さんがおすすめするトラブルを避けるための対策を紹介します。
1.入居前の確認
2.不具合は早めに相談
3.特約事項の確認
ということです。
1つ目、入居前の確認はどのようなことをしたらいいですか?
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「原状回復ということで例えば、『傷が入っているの直してください』、『これ私がやったんじゃない』というトラブルが非常に多いですので、入居の際にきちっと写真を撮って、ただ写真もいつの写真か分からないので、自分が傷を入れたのに『最初からです』ということも言えるので、最初に仲介業者や貸し主と一緒に『これ、あったよ』と確認をする意味で写真を撮っておくべきです」
2つ目、そして不具合は早めに相談ということですが、具体的にはどのようなことを相談したらいいですか?
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「例えば、壊してしまったということがあると思います。だんだん治っていくことはなく、壊れたところはどんどん広くなっていきますので、早めにコミュニケーションを取ることが信頼感も生むことになります」
3つ目、特約事項の確認はどうしたらいいのでしょうか?
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「例えば、別表がある場合があります。契約書は割とフォーマットなので、あまり個別のことが書いてないです。個別の話とは、例えば『原状回復も別表による』と、特約事項に書いてありますので、そこをきちっと見るというのが大切になります。契約書の本文の方は『現状回復をして返すこと以上』ぐらいの軽めのことしか書いてないです。 本当に大切なのことは別表や特約にありますので、そこは読み飛ばすことは絶対にないようにしていただきたいです」
■契約の時には毅然とした態度で、1人ではなく2人で
ここで視聴者からのLINE質問です。
‐Q:修繕費の悪徳な請求どんな例がある?
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「請求をして、実のところ直してないというのが一番悪徳かなと思います。例えば、ガイドラインではクロスに傷がある場合は平米単位で直そうと、要するに全部直す必要はない、当該の部分だけでいいとあるのに、『いや、これは1部屋替えないといけない』、もしくは『廃盤になったクロスだから、全部屋替えないとダメですよ』みたいなことを言って、請求をする。実のところは替えておらずにクリーニングだけして、次の方に貸す例もあります。毅然とした態度で言われるのが良いかと思います」
‐Q:1人暮らしの娘の引っ越し、親も立ち会った方がいい?(60代)
【株式会社コミュニティ・ラボ代表 田中和彦さん】「イエス・ノーで言えばイエスですね。大学生とかだと思いますが、18歳を超えるとご自身で契約が成立します。娘さん1人で契約が成立して『納得してハンコしましたよ』ということになると、後から言えなくなることもあります。 あと、いわゆる交渉事みたいなことは、1人で聞くのではなく2人で聞いておくというのが、”言った・言わない”を防げます。なかなか18歳・19歳の女の子だと、不動産業者に気おされてしまう…ということもあり得ますので、ぜひお母さんも行って差し上げてください」
借りる側としても、毅然とした対応と、知識が必要ということです。
(関西テレビ「newsランナー」2024年3月21日放送)