6種類のウニが使われていて、美味しそうな海鮮丼ぶりの値段が、1杯 1万5000円と聞いて、「高い」と思う方が多いと思うのですが、外国人観光客は、円安の影響で「安い」と感じるようです。
観光地では、外国人をターゲットにした戦略をとる店が、ここ最近増えています。
■インバウンド客は「上質」の食べ物を求めて日本へ
外国人観光客で溢れる大阪・ミナミの道頓堀エリアでも、ひと際、注目されているのが…。
神戸牛の「牛ステーキ串」。
値段は1番高いもので、1本1万2000円です。
台湾からの観光客が、この串を3本もオーダー。店頭の立ち食いで、合計3万6000円です。
(Q.安い?高い?)
【台湾からの旅行客】「値段は問題ない」
【男性】「安いよ」
(Q.1万2000円ですが?お手頃?)
【台湾からの旅行客】「Yes、Yes」
一方、日本人観光客の反応は…
【宮城から来た観光客】「串で1万2000円とかするの!?え!たっか!」「鉄板ステーキなら分かるけど。串で1本なら…」「2000円ぐらいが相場かなと…」
このお店の客層は主に海外からの観光客。インバウンド客は、「上質」の食べ物を求めて、日本にやってくるため、A5ランクの高い肉でも、気軽にオーダーするということで、この1万2000円の「牛ステーキ串」も1日に5本は売れるそうです。
今、日本各地で、こうした外国人をターゲットにした、高いメニューが続々と登場しています。
■SNSでは高級海鮮丼を「インバウン丼」
「東京の台所」と呼ばれる豊洲市場の隣には2月、新たにグルメスポットが開業し、初日から大勢の人でにぎわいました。
外国人観光客に人気なのは、銀座の人気すし店の海鮮丼、お値段なんと5500円。
カニ、イクラ、ウニ、マグロ、エビの天ぷらが全部乗った、その名も「ぜいたく丼チャンピオン」です。
さらに、ウニ専門店にいたっては、海鮮丼が1杯1万5000円。北海道産の6種類のウニがふんだんに使われています。
6500円の海鮮丼を食べていたフランス人観光客は、「日本にいる時は、値段は問題ないです」と話しました。
日本人観光客の多くが、数百円から食事ができるフードコートを利用しているだけに、SNS上では、外国人観光客に人気の高級海鮮丼を「インバウン丼」と呼ぶ声も上がっています。
外国人観光客向けの高額メニューが続々登場していることについて、訪日外国人の動向を調査している専門家は。
【インバウンド総合メディア「訪日ラボ」川西哲平コンサルティング事業部長】「円安の状況もありますので、海外の方からすると、それほど高くないと感じられる方が多いのと、価値ある物にお金を出すというのが、正しい流れだと思うので、そのあたりのしっかりとした価値提供ができているのであれば、海外の方に高い金額で販売するのも、悪い流れではないと思う」
■「和牛」を求める外国人観光客はハンバーガー4000円超でも「価値を感じる」
京都タワーにあるフードコートでは…
2枚の和牛100%のパテの上に、4枚のサーロインステーキ肉、ソースには、京都らしく、白味噌が使われていて、まるで、タワーのように高く肉が積まれた「黒毛和牛TOWERバーガー」。値段は4130円です。
京都の中心地にあるこちらの店は、利用客のうち、6~7割がインバウンド客だということです。そのため、2023年4月から、「和牛」を求める外国人観光客のために、このメニューを考案。1日で20食ほど、このハンバーガの注文が入るそうです。
フランスから、京都に観光に訪れた人も、このハンバーガーをチョイス。
(Q.安いバーガーでなく、『タワーバーガー』を頼んだのはなぜ?)
【フランスからの観光客】「とってもおなかがすいてたから」
(Q.これは高く感じる?)
【フランスからの観光客】「そう思わない、とてもいいものだから」
(Q.払う価値がある?)
【フランスからの観光客】「イエス!もちろん」
リーズナブルなハンバーガーもありますが、外国人観光客は、「いいお肉を食べたい」と、このタワーバーガーを注文するそうです。結果、売り上げも右肩上がりに伸びています。
【ステーキ&バーガーニックストック 石川天斗店長】「和牛をたくさん使用し、サーロインステーキも使っている、そういった価格になっています。海外のお客様には、和牛がたくさんのっていることもあり、そんなに高い印象はなく、むしろ、リーズナブルっていう評価をいただいている」
■外国人観光客むけの「高級」メニューを展開する飲食店 日本人とのすみ分けも「必至」
道頓堀のど真ん中にある、ステーキ店も、来店客の95%がインバウンド客。
「高級和牛」を求める客が多いということで、店にも、サーロインや、シャトーブリアンなどの肉を中心に取りそろえるようになりました。
フィリピンから来た団体客は180グラム2万7225円のサーロインステーキを3つご注文。
【フィリピンからの観光客】「口の中でとけるわ~。お値段以上の価値ね」
一緒にいた、フィリピンからの観光客の男性は「昨日も来た。今日で2回目。日本に来るたび、このお肉を食べたいね。給料全部つぎ込みたい。神戸ビーフを食べるため」と話しました。
外国人観光客が多いため、高級な肉をとりそろえていますが、別のエリアにある系列店は、リーズナブルな肉を中心に提供しているそうです。
【神戸牛和ノ宮道頓堀本店 仲地唯臣エリアマネージャー】「グループでやっておりますので、“日本の方向け”って言い方はおかしいんですけども、リーズナブルな価格でコースからやっているお店もありますので。(Q.やっぱり、こういうすみ分けがどんどん出てくる感じですかね?)やっぱりどうしても、それは避けられないのかなと思います」
さらに、客の求めに応じたコース料理の「アップグレード」が好評の店もあります。高級ホテルに店をかまえる老舗料亭「大阪なだ万」です。コース料理のお造りを高級食材「アワビ」にアップグレードしたり、メイン料理も「黒毛和牛のロースのステーキ」に変えると、その分、値段は高くなりますが、外国人観光客に人気なのだそうです。
【なだ万 レストラン事業本部 松苗充紀副部長】「インバウンドのお客さまは、ほぼこの差額料理をチョイスいただいて、自分なりにグレードアップしていただいています」
さらに、中国・台湾の観光客向けにはネット予約で6万5000円のコースもあります。日本人にとっては強気にも見える値段ですが、円安の効果と、日本の食の根強い人気で外国人観光客にとってはリーズナブルなのかもしれません。
■外国人は高くても買う、うまく利用して生産者や従業員の給料に
航空・旅行アナリストの鳥海 高太朗さんにインバウンド戦略の気になることを聞きます。
日本の観光業・経済を考える上で、このインバウンドを狙った価格について、どう考えていますか?
【航空・旅行アナリスト 鳥海高太朗さん】「神戸牛ステーキが2万7000円というのがありましたけど、これをドル換算すると150ドルなんです。世界でこんなにおいしいお肉が150ドルで食べられることは、まずないと思います。私もニューヨークで食事すると、ラーメン、餃子、ご飯、ビールでチップも入れると、大体8000円ぐらいしますから、日本で1500円、2000円ぐらいのものが8000円と考えると、牛串を含めて値段を高く設定しても、買う人がいれば、成立します。逆に、高い金額を取れれば、生産者にそれが少し行き渡ったり、お店に少し利益が出て、それで給料アップにつながるので、安いメニューも残しながら、ちゃんと価値のあるもので、こういう高いメニューも(いいのではないか)。今まで日本は、激安の物を買うことが多かったですけど、今はいいものであれば、しっかりお金を出しますよという、変化もあります」
■オーバーツーリズム問題の解決にもつながるか「二重価格」
ここまでは付加価値を付けて、価格を高くするという観光戦略でしたが、他にも方法があります。それは二重価格というもので、どういうものかというと、同じ商品やサービスで、価格差をつけるということです。
例えば、ラーメンの値段を例にして説明すると、地元の人には1000円で提供。観光客には2000円で提供するということです。この二重価格という設定について、いろんな国の例を見てこられた鳥海さんは、どうお考えますか?
【航空・旅行アナリスト 鳥海高太朗さん】「日本での飲食は向かないと思います。特にメニューがいっぱいありますし、日常の中の延長線のもので二重価格というのは難しいと思います。ただ、観光地スポットとか、入場料などであれば、十分やる可能性があります。1つ事例をあげると、ハワイです。ハワイは、観光客が多く来てダイヤモンドヘッドが混雑して、地元の人が大変だということもあって、観光客から5ドルを徴収して、来場するにはインターネットで予約の枠も決められています。その枠の範囲内でしか来ないという、オーバーツーリズム対策も併せてやっています。地元に住んでいる人は、今まで通りという。そういうことをやっているという事例があります」
もし日本でやっていくとしたら、どのように導入するといいでしょうか?
【航空・旅行アナリスト 鳥海高太朗さん】「まずやりやすいのは、テーマパークや寺社仏閣とかの入場料です。外国人観光客と、日本在住者で僕はいいと思いますが、外国の方も日本に住んでいる人として、身分証明書で日本に住所がある人に対して、地元割引。これだけ経済的な格差が出てきて価値観が違うと、日本在住者と外国人、外国から来られた方という風にやればいいのですが、例えば、関西万博では当日券が7500円に設定されていますが、これを150円で換算すると50ドルです。海外の人は100ドルでも、全然平気で入ってきますので、だったら、例えば海外の人は1万2000円の設定にして、日本に住んでいる人は6500円で入れるとか、そのような形で、物価水準含めてやるということが必要だと思います」
■万博での徴収金制度は「国が徴収して、交付金とするならあり」
大阪・関西万博では、実に350万人ものインバウンド客が見込まれていますが、3月6日、大阪府の吉村知事は「大阪・関西万博が始まる2025年4月にも、外国人観光客を対象に一定金額を徴収する制度を導入したい」と話しました。オーバーツーリズム対策にあてるためとしています。
吉村知事が参考にしたのは、インドネシア・バリ島の制度「外国人観光客徴収金」ということです。対象はバリ島を旅行するすべての外国人観光客。金額は1人あたり15万ルピア、日本円で約1430円で、インドネシア出国前までに1度支払う必要があります。
この徴収金制度について、どのように考えますか?
【航空・旅行アナリスト 鳥海高太朗さん】「バリ島は外国人中心の観光客ですけど、日本の場合は東京、大阪含めて、ビジネス客もいらっしゃるので、そういった人たちから徴収するのかということもあるのと、法律を改正すればできるでしょうけど、1つの自治体が外国人だけ徴収することが、果たして行政的にできるのか?という疑問があります」
京都府知事の経験のある、「newsランナー」番組コメンテーターの山田啓二さんは「国が徴収して、交付金として都道府県へ、外国人観光客の比率で交付するという形であればあり」と話しました。
■外国人価格が生活に影響が出る可能性も…
ここで視聴者からLINE質問が来ています。
‐Q:外国人価格が一般の価格に広がる心配は?
【航空・旅行アナリスト 鳥海高太朗さん】「ステーキや神戸牛の価格が上がってくると、日本人が今まで食べていた金額で食べられなくなってしまうことがあるので、そのあたりはちょっと心配です。ただ、焼きとり屋さんで串が1本100円や80円というのは、恐らく残ってくると思います。高級レストランが本当に外国人中心になってきてしまうので、今まで1万円のコースで食べられた内容が、2万円になるなど影響が出そうです」
‐Q:地元・日本人観光客・外国人観光客3段階での価格差は可能?
【航空・旅行アナリスト 鳥海高太朗さん】「これはネットで管理するのであればできますけど、普通のお店でやるのは難しいかなって。特に飲食店はかなり厳しいということで、どっちかというと、これからも外国人観光客と日本在住者の2カテゴリーでという感じが私自身はしております」
いま日本への旅行、高付加価値のものに外国人観光客からの需要があることを理解して、うまく共存できる道を考える必要がありますね。
(関西テレビ「newsランナー」2024年3月12日放送)