「日本初」をつめこんだ民間ロケット、いよいよ9日に発射です。人口およそ1万4千人 、のどかな町がかつてない期待にあふれています。
町をあげてのロケット応援を取材しました。
■本州最南端の町から「ロケット最先端」の町へ
【記者リポート】「ロケットの打ち上げ見学場となる串本町の田原海水浴場です。9日の打ち上げに向けてモニターの準備など会場の設営が進んでいます。そして、ロケットは山の奥の発射場から海の方へ向かって打ち上げられるということです」
本州最南端の町から、ロケット最先端の町へ、日本初となるビッグイベントに町民たちの期待が膨らんでいます。
【小学生】「すごくうれしいです(町が)有名になってくれて成功してほしいです」
【町民】「そりゃもう期待しています」「とっても楽しみワクワクしています」「生きている間に発射してくれたらと思って。できるだけ長く見たいからね」
9日午前11時過ぎ、串本町から打ち上げられるのは全長18メートルの小型ロケット、その名も「カイロス」。
打ち上げを行う企業「スペースワン」は、世界最短・世界最高の打ち上げ頻度を目指しています。「時間を味方につけて市場を制する」という思いでギリシャ神話に出てくる時間の神「カイロス」から名前をつけました。
■官主導できた日本の宇宙事業をぜひ「民主導」の宇宙事業に
カイロス初号機の発射は「日本初」づくし。
日本で初となる民間ロケット発射場からの打ち上げに加えて、民間ロケットに政府の人工衛星を搭載して軌道への投入が成功すればこれも日本初となります。
【スペースワン・豊田正和社長】「官主導できた日本の宇宙事業をぜひ民主導の宇宙事業に変えていきたい。それが宇宙事業ではなくて宇宙産業に日本を変えていく」
将来的には年間30回のロケット発射を目指していて、実現すれば単純計算で月に2回以上、串本町からロケットが発射されることになります。
人口およそ1万4千人、のどかな町がかつてない期待にあふれています。串本町の宿泊施設、大江戸温泉物語では打ち上げ前日の8日、123の客室が満室に。
【大江戸温泉物語南紀串本・林雅俊支配人代理】「こんなに反響があるとは思わなかったです。うれしい悲鳴といいますかね」
宿泊者にはこんな特典もあります。
【大江戸温泉物語南紀串本・林雅俊支配人代理】「半島のあそこの辺りから打ち上げるはずなので、屋上からご覧になっていただくと、よく見えるんじゃないかということで解放させていただきます」
宿泊客の中から抽選で選ばれた120人が打ち上げを見守ります。
そして串本町で100年以上続く和菓子店の「儀平」では、なんと4年をかけて開発した商品があります。串本の景色が描かれた箱をあけると…ロケットが飛び出すようなデザインです。
【儀平・丸山正雄製造部長】「早く打ち上がってほしい気持ちでいっぱいでした。宇宙と串本をつなぐ、そらのかけ橋になってほしいと思ってこの名前にしました」
ロケット型の焼きまんじゅうをホワイトチョコレートでコーティングした最先端の和菓子です。
ロケットにちなんだ商品は他にも。
【スタッフ】「串シーフードロケット飛(フライ)カレーです」
なんと高さは35センチ、打ち上げへの期待の高さの現れか、記者の顔も隠れるほどの大きさです。 さらに8日から3日間限定のサービスが。ロケット打ち上げの煙に見立てたドライアイスをかけて、町のカレーも発射準備完了です。
【記者リポート】「おいしいです」
【さくさくサンドリア・東丈二社長】「串本の串がなかったらアイデア出なかったかも。なんとか打ち上げに成功してほしいと願うばかりです」
■ロケット発射場のための用地買収 15人が立ち退きに応じる
まさに、町をあげてのロケット応援。その裏側にはこんな物語もありました。発射場を作るための用地の買収です。
【串本町・田嶋勝正町長】「そこに住んでいる人は、全て立ち退いていただかなければならない」
発射場を作るためには、半径1キロ以内の民有地を買い取って、立ち退いてもらう必要があったのです。
【串本町・田嶋勝正町長】「80を超えたおばあちゃんに、もう長いことそこに住んでいる本当に海がきれいに見えるような場所に住んでる人に『立ち退いてくれ』っていうんですからね。いきなりの話ですから皆さん戸惑っていたけれど『串本の将来の発展のために協力してあげよう』と話が進んでいった」
■「1にも2にも賛成でした。原発の話は反対したんですけどね」
最終的に15人の町民が立ち退きを受け入れてくれました。串本町で小売店を営む堀端さんも、およそ150坪の畑を手放しました。
【堀端秀和さん】「もうどうぞ使ってくださいって、1にも2にも賛成でした。役に立つんだったらいいです。昔、原発の話は僕ら反対したんですけどね」
ロケット最先端の町になることで高齢化と人口減少が進む町が少しでも元気になることを期待しています。
【堀端秀和さん】「小さい子供おらんし、小学校でも12名です。全校で12名なんです。若い方が少しでもこっちに移転してきてくれたらなあと」
たくさんの人の思いをのせて、日本初をつめこんだロケットが9日、打ち上がります。
■5,000人分の見学チケットは2日で完売
さて、ロケットはどんな感じで空に向かって飛んでいくのでしょうか。現地の様子について秋山記者の報告です。
【関西テレビ 秋山未来記者】「和歌山県串本町の田原海水浴場からお伝えします。あす、この場所がロケット発射の見学場になる予定でして、来場者にはレジャーシートを配って砂浜に座って見てもらうことになるそうです。すでに会場は準備が進んています」
「ロケット打ち上げが映し出されるモニターも設置されています。見学場は那智勝浦町にも設けられていて、2カ所合わせて5000人分のチケットが販売されましたが、2日で完売となりました。チケットは1枚3000円なので、これだけで1500万円の経済効果がめにみえています。地元の期待が高まるのもうなずけます」
そもそも、なんで串本がロケット発射場に選ばれたか…それは「南方向が海だから」です。
日本は北側に大陸があるので、万が一、ロケットが落ちてしまった時のリスクを考えると、基本的に北方向には打ち上げられません。
串本町は本州最南端なので、南側は海に面していてロケットの打ち上げに適した場所なんです。
【関西テレビ 秋山未来記者】「ロケットの発射場は山の向こうにあります。福井から下見に来ている人もいまして、『飛んでほしいなあ…』と期待と不安が入り混じったようなそんな様子でした。発射は土曜日ですし、視聴者の皆さんの中にも、ロケット発射を見に行きたいと思っている方いらっしゃるかもしれませんが、ご注意いただきたいことがあります。見学場のチケット完売のため入ることができませんし、周辺も広い範囲で交通規制が行われて車がとめられません。その代わり、高速道路のサービスエリアなどにサテライト会場が設けられますし、Youtubeでリアルタイム配信も行われます。みんなで歴史的な瞬間を共有しましょう」