和歌山県白浜町で夫婦でシュノーケリングをしていた野田志帆さん(当時28歳)が溺死し、夫の野田孝史被告(34)が妻を殺害した罪に問われている裁判で、野田被告側は大阪高裁で受けた懲役19年の判決を不服として7日、最高裁に上告した。
野田被告は高裁判決の後、関西テレビの取材に応じ「それでも僕はやっていないと言いたい」と無罪を訴えた。
■シュノーケリング中に「溺死」
この事件は、2017年7月、和歌山県白浜町で夫婦でシュノーケリングをしていた野田志帆さん(当時28歳)が、夫の野田被告がトイレに行っている間に溺れ、搬送先の病院で2日後に低酸素脳症で死亡したもの。
■夫の不倫やネットでの検索が明るみに
事件の1カ月前から夫婦の間には離婚話が浮上していた。原因は野田被告の不倫で、相手の女性は当時妊娠中。さらに、志帆さんには複数の生命保険が掛けられていたことや、野田被告が事件前日にインターネットで「溺死に見せかける」などの検索をしていたことから疑惑の目が向けられる。
■「砂」を根拠とした殺害の立証 二審では砂について「一審判決は不合理」としながら…
志帆さんの治療に当たった救命医は、治療中に胃の中から「砂が出てきた」と供述し、その量が約37グラムと推定されたことから、検察は事故による溺死ではなく「海底付近で押さえつけられた」事件として一緒にいた野田被告を殺人罪で起訴した。
1審・和歌山地裁(武田正裁判長)は2021年3月、検察側の「砂」を根拠とする殺害の立証を認め、野田被告に懲役19年の判決を言い渡した。
弁護側は無罪を主張して控訴。 2審の大阪高裁(斎藤正人裁判長)では、3人の法医学者による証人尋問が行われ「砂の存在」について審理された。
3月4日、大阪高裁は「胃内にのみ相当量の砂があるのは不自然というだけで殺人事件と認定した一審判決は不合理」としながらも、「保険金契約や検索履歴などから、溺死に見せかけた保険金目的の殺害計画をうかがっていたことは明らか」「事故や自殺の可能性も低いながら認められるが、死亡状況は計画に完全に符合する」として野田被告側の控訴を棄却。 懲役19年の1審判決を支持した。
2時間半にわたる判決言い渡しを、野田被告は微動だにせずまっすぐ前を向いたまま、聞いていた。
■「非科学的・非論理的な認定」と弁護士
主任弁護人の津金貴康弁護士はこの判決に対し、「溺死させる計画を行っていたという認定から、その計画通りに溺死したために殺害と認定することは、非科学的、非論理的です。例えば、夫が常々妻に死んでほしいと願っていて、妻が家で原因不明の心停止で死亡したら、妻が殺害されたと認定するのでしょうか。他殺かどうかは客観的な証拠から判断すべきなのに、考慮すべきでない主観的な動機を盛り込んで判断した残念な判決」とコメントした。
■「それでも僕はやっていないと言いたいです」
判決の2日後、大阪拘置所で関西テレビの取材に応じた野田被告は、憔悴した様子で声も弱々しく、「(主文を聞いたときは頭が)真っ白になりました。まさかという感じで、今でももう一回判決が言い渡されるんじゃないかというぐらい現実味がないです」「1審判決は全部覆っているのに、事故の可能性が残るのに、有罪になるのはおかしいと思います」「それでも僕はやっていないと言いたいです」と訴えた。
野田被告側は7日、最高裁に上告した。
<関西テレビ 司法担当記者 菊谷雅美>