事故から13年『福島第一原発』の今 880トンの『燃料デブリ』取り出しどうする…難航する廃炉作業「2051年までに完了」が目標 2024年03月10日
史上最悪レベルの事故から間もなく13年。
歴史上、前例のない「廃炉」の最前線では、一体何が起きているのか。
関西テレビ「newsランナー」の吉原キャスターが、福島第一原発を取材してきました。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「原子炉建屋の上の部分の骨組みがあらわになっていたり、奥にはがれきが残っていたりと、当時の爆発の激しさを今も感じることができます」
【東京電力 担当者】「正直、何が難関になるかというのも分からない」
2023年から始まった「処理水」の海洋放出や、今後、数十年かけて行う「廃炉」。
見えてきたのは、“安全”を“安心”に結びつけることの難しさです。
■あれから13年…現地は今
2024年2月、吉原キャスターが福島県に訪れました。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「福島県富岡町に来ています。2023年11月30日に避難指示が解除され、私が歩いている道路には入ることができますが、目の前にある家には入れません。そしてこの先は『帰還困難区域』になっていて、立ち入ることすらできません」
福島県では、原発事故で周辺が避難指示区域に指定され、多くの人たちが避難を余儀なくされました。今も2万6609人(2023年11月1日時点)がふるさとを離れて生活しています。
東日本大震災の後に発生した、福島第一原発の事故。
原子炉内の核燃料が溶け出す「メルトダウン」を起こしたほか、水素爆発によって、壊れた建屋から大量の放射性物質が漏れ出しました。
あれから13年…。現地は今どうなっているのでしょうか。
東京電力の担当者に、福島第一原発を案内してもらいました。
まず訪れたのは、事故を起こした1号機から4号機が見渡せるエリア。1号機では今、建屋の上部を取り囲む工事が進められています。
【東京電力ホールディングス 黛 知彦リスクコミュニケーター】「(1号機は)使用済み核燃料を取りたいのですが、排気塔の奥にがれきがたまっている。がれきを撤去すると、ほこりのような形で放射性物質が飛ぶかもしれないので、大きなカバーをかける準備をしている」
事故から13年がたちますが、1号機ではがれきの除去すらできていません。
国と東京電力は、事故から30年から40年以内、つまり2041年から2051年までの間に“全ての廃炉作業を完了させる”目標を掲げています。
■2023年から開始 “処理水の海洋放出”の現状
そんな中、福島第一原発で去年から新たに始まったのが、処理水の“海洋放出”。
福島第一原発で発生した汚染水は、ALPS(アルプス)と呼ばれる浄化設備を通すことで、ほとんどの放射性物質が取り除かれ、「処理水」となります。
しかしこれまでは、処理水を廃棄することができなかったため、敷地内のタンクで保管され、その数は1000を超えていました。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「タンクがどんどん増えていくことでの課題は?」
【東京電力ホールディングス 黛 知彦リスクコミュニケーター】「基本的にこれ以上増えると敷地面積を圧迫するのと、新たな設備を造れないのが一番問題。今後、燃料デブリの取り出しをするにあたって(デブリを)分析したり、保管したりする設備を作らないといけないので、今あるタンクの場所を空けていくことが必要」
ただ、ALPSを通しても除去できないのが、自然界にも存在する放射性物質の「トリチウム」。
福島第一原発では、2023年8月以降、タンクに保管していた処理水を大量の海水で薄めて太平洋に流していて、2月28日に4回目の放出が始まったばかりです。
WHO(世界保健機構)は、飲料水に含まれるトリチウム濃度を「1リットルあたり1万ベクレル以下」としていますが、日本政府が定めた基準は世界より厳しい「1500ベクレル」。
東京電力は、政府の基準よりもさらに厳しい独自基準を設けて、放出後、毎日、原発周辺で海水に含まれるトリチウム濃度を調べて公表していますが、これまでに「異常はない」としています。
■処理水の安全性 「安心のための施設」で発信
海洋放出している処理水の“安全”を、どう証明していくのか。
吉原キャスターが訪れたのは、水槽が並ぶ施設です。
【海洋生物飼育の現場責任者 山中和夫さん】「発電所内はどちらかというと“安全”な施設が多い中で、ここは唯一“安心”のための施設になっています」
この施設では通常の海水と、処理水を海水で薄めたものを別々の水槽に入れ、ヒラメとアワビを飼育しています。
【海洋生物飼育の現場責任者 山中和夫さん】「比較の水槽(海水)とALPS処理水を添加した水槽では、ヒラメの成長の度合いに全く変わりありません」
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「変わりないんですか?」
【海洋生物飼育の現場責任者 山中和夫さん】「全然変わりないです。また、死亡率も変わらない」
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「なぜこういう施設を作ろうと考えたのでしょうか?」
【海洋生物飼育の現場責任者 山中和夫さん】「『言葉で説明されるより、実際にALPS処理水の中で魚が元気な姿を見せてほしい』、そういうお声をたくさんいただきまして」
水槽の様子はYouTubeでライブ配信しているほか、SNSでも定期的に情報を発信しています。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「データや動画を公開することで、理解は深まっているという実感はありますか?」
【海洋生物飼育の現場責任者 山中和夫さん】「爆発的には広がりはしませんが、少しずつ理解は進んでいるものと思っています」
■“燃料デブリ”の取り出し 「何が難関かも分からない」
こうした中、廃炉作業の“本丸”で、さらに難しい作業があります。
続いて吉原キャスターが訪れたのは、事故を免れた5号機です。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「ここはどういう場所ですか?」
【東京電力ホールディングス 黛 知彦リスクコミュニケーター】「ここは5号機の圧力容器を支えるペデスタル(台座)という構造物の中です」
5号機は、大量の放射性物質が放出された2号機とほぼ同じ構造をしています。
【東京電力ホールディングス 黛 知彦リスクコミュニケーター】「2号機の場合、原子炉から溶け出した燃料デブリが一部はこのペデスタル(台座)の下にたまっていると分かっている」
燃料デブリとは、核燃料と原子炉内の金属などが溶け、冷えて固まったもののこと。
1号機から3号機には、合わせて880トンあるとみられ、極めて強い放射線を出しています。そのため、人が浴びると命にかかわるような危険があり、13年たった今でも取り出すことができません。
そんな燃料デブリですが、大きな進展があったのは2019年。2号機内で、小石のような堆積物の持ち上げに初めて成功したのです。
これをきっかけに、2号機では今年3月までに燃料デブリの“試験的な取り出し”に着手する予定でした。しかし…。
【齋藤 健 経産相】「東京電力からこれまで2023年度後半をめどとしていた燃料デブリの試験的取り出し着手につきまして、遅くとも2024年10月頃を見込むという旨が表明されました」
なぜ、試験的な取り出しが半年以上遅れたのか?その答えは、格納容器の“外側”にありました。
【東京電力ホールディングス 黛 知彦リスクコミュニケーター】「これがロボットアームを通す穴、『X-6ペネ』という点検用の穴になります」
計画では、点検用の穴からロボットアームを投入。そのままペデスタル(台座)の内部まで進み、格納容器の下にある燃料デブリを取り出す予定でした。
ところが2023年10月、点検用の穴につながる扉を開けたところ、侵入をふさぐ形で、堆積物が詰まっていることが分かったのです。
【東京電力ホールディングス 黛 知彦リスクコミュニケーター】「5号機の中には、ああやってケーブル類がトンネル内にあります。2号機の場合は、ケーブル類以外に泥状というか、砂状というか、そういった堆積物がここに詰まっていることが分かっています。堆積物の除去、ここのトンネルをきれいにするのに予想外に時間がかかってしまった」
880トンもの燃料デブリをどうやって取り除くのか?今は試験的に数グラムを取り出すことすら、難しいのが現状です。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「燃料デブリを取り除くにあたって、何が難関なのでしょうか?」
【東京電力ホールディングス 黛 知彦リスクコミュニケーター】「正直、何が難関になるかというのも分からないが、まずは燃料デブリがどれくらいの量取り出せるかが分かれば、どういった形でアクセスしていけばいいのか、ということになると思う」
2041年から2051年まで続く、福島第一原発の廃炉作業。
事故直後から現地で廃炉に関わる、国の担当者にも話を聞きました。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「(燃料デブリの)試験的取り出しが遅れている現状については?」
【資源エネルギー庁 廃炉・汚染水・処理水対策官 木野正登さん】「想定していなかったことって、いろいろ起きてしまいますね。私はそんなに後ろ向きにとらえていなくて、次につながる作業ですし、一歩一歩進んでいることは間違いないです。処理水の放水というのは、やはり廃炉を進める上で敷地を確保するためにも絶対に必要な仕事だった訳で、これができたというのはとても大きい」
■処理水の海洋放出による影響 漁業従事者は…
廃炉作業にあたる上で、「大きな動き」と国も評価する、処理水の海洋放出。
しかし、この影響を最も受けている人たちがいます。海に出て、魚を捕ることを生業にしている漁業従事者です。
福島の海は冷たい親潮と温かい黒潮がぶつかる“宝の海”。水揚げされる質のいい魚は「常磐もの」と呼ばれ、全国でも高い評価を受けています。
しかし、原発事故で福島の海は窮地に追い込まれました。
2012年に始まった試験的な漁で水揚げできたのは、貝とタコだけ。
【今野智光さん(2012年)】「気持ち?不安の方が大きい。いくら検査して大丈夫といっても、消費者にどの程度、理解してもらえるか」
当時、このように話していた今野さん。現在は地元の漁協の組合長を務めています。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「2023年8月に処理水の放出がありましたが、そこからの影響はいかがですか?」
【相馬双葉漁業協同組合 今野智光組合長】「実感としては風評被害という感じはないんですが、全国の皆さんから励ましや支援をいただいて…」
事故以降、福島県内では国よりもさらに厳しい基準を設け、全ての魚介類の放射性物質検査が続けられています。
こうした取り組みが実を結び、売り上げも徐々に増加。試験的な漁から本格的な漁の再開に移る矢先に、国が決めたのが「処理水の海洋放出」でした。
【相馬双葉漁業協同組合 今野智光組合長】「地元ならではの問題で、いち漁業者としては(処理水を)流してもらいたくない。ただ、われわれはその先の“廃炉”という目的があるので、悩ましい立場。総理が言っている『廃炉まで国が責任を持つ』。本当にやってくれるのかと、こういう不安はあります」
今後、数十年続く処理水の放出…。今野さんは「自分たちがやることは、これまでと変わらない」と強調します。
【相馬双葉漁業協同組合 今野智光組合長】「われわれのやれる対策は何かと考えると、1日に1魚種の検査を繰り返しやって、最終的には『われわれを信用してください』、『われわれ相馬の漁業者を信用してください』という形以外、ないと思う」
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「できることとしては、安全であることを示し続けるということでしょうか?」
【相馬双葉漁業協同組合 今野智光組合長】「国は今回の放出の問題でも『データ的には安全だ』と。ただ『安全と安心は違うんだよ』ということは再三申し上げてきた。われわれは“安全=安心”でなければ、福島の魚は復活しないと思っているから」
「捕れない魚を探す方が難しい」といわれるほど豊かな福島の海。吉原キャスターも“常磐もの”をいただくことに。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「これは何の魚ですか?」
【夢酒 三四郎 安田克行さん】「昆布が乗っているのがヒラメの昆布締め。こちらがメバル」
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「すべて常磐ものですか?」
【夢酒 三四郎 安田克行さん】「全て常磐ものです」
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「(ヒラメの昆布締め)おいしいなぁ。上品な脂身ですね。噛めば噛むほど、味わいが口の中に広がってきます。すごくいい漁場で、皆さんが思いを持って漁をされて、自信を持って出せるとおっしゃっていましたが、食べてみてその実感が湧きました。本当においしい」
福島での取材を終えて…。
【newsランナー 吉原功兼キャスター】「事故が起きてからもうすぐ13年がたとうとしていますが、まだ原発の問題は本当に続いているなというのが実感でした。自分の目で見ないと分からなかったし、福島の魚がこれだけおいしいということも分からなかった」
私たちは原発で作られた電気で生活しています。決してひとごとではなく、福島第一原発が行っている取り組み、そこから得られる教訓をしっかり受け止めて、次につなげていかないといけません。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年3月6日放送)