難病「ALS」の患者を本人の依頼で殺害した「嘱託殺人」の罪などに問われている医師の男の裁判で、懲役18年の判決が言い渡されました。
医師の大久保愉一被告(45)は2019年、元医師の山本直樹被告(46)と共謀し、全身の筋肉が徐々に動かなくなる難病・ALSの患者の林優里さん(当時51)の依頼を受け、薬物を投与して殺害した「嘱託殺人」の罪などに問われています。
■「林さんの願いを叶えるために行った」無罪を主張
大久保被告は初公判で起訴内容を認めた上で、「林さんの願いを叶えるために行った」と話し、自身の行為の正当性を主張。さらに弁護側は、嘱託殺人罪を適用するのは、林さんに「望まない生」を強いることになり憲法に反するとして、無罪を主張していました。
検察側は、「死にたいと願う難病患者は殺害する対象という思想の実践で、自身の行為を正当化しようとするのは、真摯な『安楽死』を実践するものとは程遠い詭弁」として、共犯の元医師の男の父を殺害した罪なども含め、大久保被告に懲役23年を求刑していました。
■「利益を求めた犯行であったと言わざるを得ない」
5日の判決公判で、京都地裁の川上宏裁判長は「弁護人の主張する憲法13条違反を直接的な理由根拠として本件に嘱託殺人罪を適用しないとの結論を採用することはできない」とした上で「主治医でもなくALSの専門医でもなく、SNSのやり取りがあったにすぎず、これまでの経過や現在の症状も把握せず、主治医や近親者等にも知らせることなく秘密裏に、その日初めて会ったばかりの被害者の十分な診察や意思確認ができるとは思えない」などと指摘。
そして「130万円の報酬の振り込みがあってから行動したのを考えれば、被害者のためを思って犯行に及んだものとは考え難く、利益を求めた犯行であったと言わざるを得ない。被告人の生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」と断じ、大久保被告に懲役18年の判決を言い渡しました。
■山本被告の父親殺害についても認定
この事件は、ALSを患っていた林さんが、SNSに安楽死を望む文面を投稿し、大久保被告がこれに応じたところから始まりました。
裁判で大久保被告は、犯行の動機について「苦しみから解放されたいと願うなら、かなえてあげられたら本人のためだと思います」などと説明。 また、殺害当時の状況については、「(林さんが)文字盤を使って『死なせて』と」「目に涙を浮かべて嬉しそうに」「自分がやるべきことはやったのかなと思いました」などと話しました。
■大久保被告の「過激な思想」共犯の山本被告が証言
大久保被告が時折、涙を浮かべながら林さんへの思いを語る一方で、証人として出廷した共犯の山本直樹被告は、大久保被告の“過激な思想”について次のように述べました。 【山本被告】「「高齢者が早く死ねばいいと、しばしば口にしていました。殺人のノウハウを蓄積し、そのノウハウを金にして自分の理想とする世の中が実現すればいいと考えていた人です」 山本被告は、大久保被告が“殺人マニュアル”を作成していたとも証言していました。 検察側は「真摯な安楽死を実践するものとは程遠い詭弁」として懲役23年を求刑していました。
■「なぜ思いとどまるよう説得してくれなかったのか」と父親
また、裁判では、検察官が代読する形で、林さんの父親の意見陳述が行われました。
【父親の意見陳述】 「私の長女・優里はこれから人生目標が見え始めた時に不治のALSにかかりました。闘病中と一生懸命頑張っていました。その時にネット上で知り合った医師の口車に乗せられて金銭まで要求され、あの世へと旅立ってしまいました」
「優里は体が不自由でも生きていました。大久保と山本が部屋に入った時は生きていたのです。大久保が薬を注入する時どんな気持ちだったのか。普通の人間にできることではない。なぜ思いとどまるよう説得してくれなかったのか。優里は亡くなったのではなく、亡くならされてしまいました」
5日の判決で川上裁判長は「被害者のためを思って犯行に及んだものとは考え難く、利益を求めた犯行であった」と大久保被告の主張を認めない判断を示しました。結論は懲役18年。「被告人の生命軽視の姿勢は顕著」と厳しく指摘する判決となりました。
(関西テレビ 2024年3月5日)