日本経済にも影響を与えている「中国経済の停滞」ですが、国民の生活にも変化が起きています。
「newsランナー」が注目したのは、“金の爆買い”と“格安ショップ”のブームです。 今、中国で何が起きているのでしょうか。取材しました。
■不動産への不信から「金の爆買い」が流行
中国の旧正月、春節の休みには、貴金属を売る店に多くの若者が訪れ、買い物客は「私たちの狙いは純金のアクセサリーです。今、若者に純金はとても人気なんですよ」と話しました。
中国メディアによると、今年の春節の前後に売れた金は去年に比べて2割から3割増え、1日の平均購入額は1人当たり21万円を超えたということです。
この背景には深刻な不動産不況があると指摘されています。
以前なら、お金をかけて投資する先は「不動産」でしたが、中国事情に詳しい拓殖大学の富坂教授によると、「中国の若者は、不動産への不安から『物件を買う現金があるなら金を買いたい』と、価値があまり変動しない金に投資している」と言います。
■節約志向の高まりで「格安ショップ」は3年で10倍に
そんな状況の中、もう1つ高まっているのが「節約志向」です。
中国第二の都市、上海では、以前は高級ブランドの店が目抜き通りに並ぶセレブなイメージで知られていましたが、いま上海を中心に広がっているのは、何でも3元=約60円で買える、日本の100円ショップのような店です。
賞味期限間近の食品や日用品などの「訳あり品」が並ぶ「ホットマックス」という格安ショップでは…。
【沖本有二記者】「賞味期限2カ月前のスナック菓子が、定価の半額以下で棚に並んでいます」
いま中国では格安ショップが急増していて、地元メディアによると、スナック菓子の格安ショップは、この3年間で10倍になりました。
そして「ホットマックス」のさらに上をいく「メガホットマックス」という店では、およそ「8割引」の商品や「7割引」の商品がずらりと並んでいます。
また中国では、高級な生鮮食品のアウトレットも登場し、賞味期限が近づいていたり、パッケージが傷ついたりした商品が、通常の半額ほどの値段で購入できます。 買い物客は、「(こういう店は)いいですね、いいですね。私たち庶民には助かっています」と話します。
節約志向、金ブーム、中国経済はどこへ向かうのでしょうか。
その行く末が垣間見えるかもしれないのが、3月5日から北京で始まる「全国人民代表大会=全人代」です。 日本の国会にあたる全人代で、習近平指導部のもと、中国がどんな方針を示すのかが注目されます。
■ネット通販天国で「格安ショップ」の実店舗が大人気
関西テレビ上海支局長の沖本記者に話を聞きます。
日本にいると中国経済の低迷を肌で感じることはあまりないのですが、現地で取材・生活を続けての実感はいかがですか?
【沖本有二記者】「私は普段、上海で生活していて、一見分かりづらいのですが、いざモールに入ってみると、お店がガラガラだったり、お店の人に話を聞いてみても「最近、景気が悪い」という話をよく聞くので、景気の悪さをひしひしと感じています。そのような中でも元気なのが、格安ショップです。 私も普段から使っていますが、使用期限が近いとはいえ、何の問題もない商品が、お値打ちで手に入るので、本当に重宝しています」 「生鮮食品のアウトレットを手掛けているのは、中国のアマゾンと呼ばれるアリババグループです。いま、76店舗ありますが、ことしには500、そして長期的には1000店舗に増やすという壮大な目標を掲げています。中国はネット通販天国ですが、大手が手掛けている実店舗が、この勢いで増えていくというのは、本当に異例のことだと感じています。便利なネット通販をよりも、安さを選んでしまうというところに、消費者の節約志向を感じています」
こうした経済低迷の理由としてあげられるのが「不動産の不況」だということですが、実際、どういった状況ですか?
【沖本有二記者】「不動産開発の失敗例ともいえる場所に来ています。北京の中心部から車で30分ほどの場所にある、2019年にできたモールなのですが、地下3階までガラガラな状態で、まるで廃墟のようになってしまっています。ここを手がけたのは、「恒大グループ」という、先日、清算命令を受けたばかりの不動産大手会社です。当時からお店がほとんど入っていなかったそうなのですが、その間にコロナがあり、お店の中はもぬけの殻の状態です。子供達がかつて遊んでいたと思われる遊具も、ものさみしく残っています。このモールにはマンションもあり、マンションには人が住んでいます。取材中には子供たちがマンションに行くために廃墟のモールのエレベーターを使う様子を見ていると、不動産開発の失敗の罪深さを感じます。都市部でこのような状況なので、地方がどのようなひどい有様なのかということはうかがい知れると思います」
■全人代の注目ポイントは「どのように中国経済を立て直すのか?」
深刻な経済状況の中、中国では5日から、日本の国会にあたる「全人代」が開かれますが、沖本記者が特に注目しているポイントは?
【沖本有二記者】「重要な事項の注目どころはありますが、経済という目線では、毎年発表されている中国のGDPの成長目標です。去年は、5.0%前後という発表でしたが、どうやら、ことしもそのような数字になるのではないかと言われています。というのも、習近平国家主席が掲げる長期的な目標を達成しようとすると、そのぐらいの数字が必要になるということです。2023年、実際5.2%、成長したと中国が言っていますが、いまの経済状況を見ると、5.0という数字は、なかなかハードルが高いというか、強気な数字の設定ではないかと感じています。そういった目先の経済成長のために、小手先の経済刺激策しか打ち出せないような形で、構造改革がなされないのであれば、中国の景気停滞のトンネルまだ続く恐れがあると感じます」
関西テレビ神崎報道デスクが注目しているポイントは?
【関西テレビ 神崎報道デスク】「北京ですら不動産バブルが弾けて、あのような状況です。地方では、高速鉄道とか高速道路を国がどんどん開発しましたが、それもあまりうまくいっていません。さらに、地方都市の開発で作った工業団地がガラガラで、国がどんどん投資しているけど、ことごとく空回りしている状態です。中国の経済は相当厳しい状況が続いていますが、中国習近平政権はその失敗を認められないというか、大きな目標があり、ずっと成長し続けていると言い続け、今回の全人代でもおそらく、高い目標を設定します。本当にそうなるのかという事も含め、後戻りできない中国経済は、本当にどこかで取り返しのつかないことになるのではないかという所が危惧されています」
■台湾や日本との関係は今後どうなる?
習近平政権が併合を目指す台湾では、中国に対して強硬派の新政権が誕生し、日本とは未だに福島第1原発の処理水をめぐる問題が解決していません。
番組コメンテーターの太田昌克さんは「全人代での注目ポイントは経済、台湾、日中関係」と言います。
【太田昌克さん】「台湾で頼清徳氏が当選しましたが、台湾の国会は国民党という、わりと中国に融和的な政策をとる野党が、第一党を取りました。中国にとっては、ある意味心地よい状態で、台湾は民意を反映してないと言いますが、言うだけ番長で済みます。何か手を下す必要があまりない状況です。それよりも経済に、いまは専念したい。例えば、直接投資の額が2023年は前の年に比べて82%も低落している、落ち込んでいます。これは由々しき問題で、中国としてはもっと海外から投資をしてもらいたい。外交で大事なのが、新しい外務大臣をどうするのかという所も注目です。処理水については、公にはしてないのですが、実は、日中で、水面下で議論をやっています。それだけ日本からの投資にも期待をしています。だから日中関係もある程度、安定化させていきたいという中で、どのような外交的なメッセージを送ってくるのかという点にも注目です」
3月5日に開幕する全人代でどのようなことが打ち出されるのか注目です。
(関西テレビ「newsランナー」2024年3月4日放送)