「築111年」寮費は月約2500円 最古の学生寮『京大・吉田寮』の立ち退きめぐる訴訟 裁判所は一部学生の継続居住を認める 歴史詰まった学生たちの居場所は守られた 2024年02月17日
築111年、“日本最古”と言われる京都大学「吉田寮」。
しかし、老朽化を理由に学生たちは退去を迫られ、訴えられたのです。
この寮に住む学生たちの想いとは。
■“日本最古の学生寮”で過ごす寮生たち
寮のいたるところに、学生たちの歴史が染みついています。
【寮生】「鍵は大体押せば開きます。これ(扉)壊れてるんですけど、開けて外出られたりもするので。通気性が抜群で冬は寒いですけど」
京都大学・吉田キャンパスの一角にある「吉田寮」。
「現棟」と呼ばれる建物は、大正2年に造られ、現在築111年。“日本最古”と言われる学生寮です。
京都帝国大学の学生寄宿舎として始まった吉田寮。ノーベル物理学賞を受賞した赤崎 勇さんなど、多くの学者や文化人が過ごしてきました。
【寮生】「ちょっと汚いですけど、6畳で2人一緒に暮らしている形になります」
寮の費用は光熱費込みで、月2500円。
吉田寮には9年前に建てられた新棟もあり、現棟と合わせておよそ100人の学生が暮らしています。
【寮生】「(寮費が)年3万円って異常だよな」
「うちも受験するちょっと前に親が一回職失ったから(吉田寮は)本当に助かってる。負担かけないし、自分で払えるし」
「バイトだけでいけるからな」
「ご飯も寮生の間で一緒にやったり」
「晩ご飯余ったけど食べませんかみたいなね」
寮の運営は大学ではなく、これまでずっと寮生に委ねられた、いわゆる「自治寮」。決めごとは話し合いで、全会一致が基本です。
【寮生】「お互いの年齢や学年を気にせず、敬語を使わないという慣習があって。なぜかというと、話し合いをするにあたってお互いに対等じゃないと、話し合いってあんまり成立しないというか」
この吉田寮をめぐり、今、大学が学生を訴える“異例の裁判”が行われています。
■老朽化…大学は「代替宿舎」用意し退去要求
【京都大学 川添信介副学長(当時)】「学生の安全確保のため、これ以上問題を先送りできないとの判断に至り、本日やむなく明け渡しを求める提訴に踏み切った」
111年前に建てられた「現棟」は、専門家によると震度6強の地震で倒壊する恐れがあります。
1980年代、大学側は老朽化を理由に廃寮を計画。その後、学生との話し合いの末、一度は寮を残すことで合意しました。しかし2017年、大学は代替宿舎を用意して、再び学生たちに退去を要求したのです。
寮生たちは退去せず、今も新たな学生が入ってきています。大学側は「安全配慮義務」があるとして2019年、建物の明け渡しを求めて訴えを起こしました。
5年に及ぶ裁判。
【寮生】「学生生活があって、それを全く減らさずに住居を追い出されそうになっている問題が発生している」
「実験とかも入るし、いろいろやりたい勉強もあるから、早く取り下げてほしいな」
「許せねえ。本当に許せない」
「時間は返ってこないからな」
「学生を住居から追い出すために裁判までやってるって、その学生のリソース(資源)も本来必要なかった場面に割かせているっているのを分かってやっているのかな」
「何を考えているんだか」
「人間とのつながりがあることで救われている層がかなりいる。吉田寮なくなっちゃったら、そういう場所ってほとんどなくなっちゃうんじゃないかな」
「吉田寮って建物も重要だし、共同体としても存在している。共同体が代替宿舎だと再現できない。共同体も福利厚生には大事だと思う」
「もうすぐ判決だからな」
「取り下げてくれ、頼む。頼むから取り下げてくれ」
■“新規募集停止前”に入寮の寮生「継続居住」認める
長年、話し合いによって維持されてきた大学と寮の関係。
【寮生】「京都大学は吉田寮に対する訴訟を撤回しろ!」
2023年12月。訴訟撤回を求め、デモを行う寮生たちの姿がありました。
【寮生】「吉田寮自治会の者なんですが、署名をお渡ししたくて」
集めた署名を大学本部に渡そうとしますが、門前払いの様相です。
学生たちは、法廷での争いを望んでいません。
京都大学側は、寮生に対し「安全配慮義務がある」「震度6強で倒壊の恐れがあり、契約解除が可能」と主張。また、「代替宿舎を用意したが、一部の寮生が退去拒否した」。これを“不法占拠にあたる”としています。
一方、寮生側の主張は次の通りです。
「建物の老朽化対策は提案している」「裁判ではなく、“話し合い”で解決したい」「吉田寮の“自治権”を侵害している」
16日の判決で、京都地裁は「取り壊しを前提として耐震診断は行われておらず、それを理由に契約が困難であることは認められない」と指摘。
さらに、大学が退去通告をする以前に入寮した寮生については「吉田寮の自治会が入寮選考を行うことで合意されていて、在寮契約は認められる」と判断しました。
その上で、「寮生らは自治会により自主運営されていることに大きな意味を見出して入寮しており、代替宿舎の提供をもって在寮契約は認められない」と、京都大学側の訴えを一部棄却しました。
歴史の詰まった学生たちの居場所が守られる結果となりました。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年2月15日放送)