150人が体調不良を訴えた恵方巻による食中毒。保健所の調査で「黄色ブドウ球菌」が検出され、この菌が原因だったと特定されました。
■恵方巻の食中毒の原因は「黄色ブドウ球菌」
【姫路市保健所 毛利好孝所長】「食中毒の原因としたのは黄色ブドウ球菌、産生毒素による食中毒ということになります」
兵庫県姫路市の「雷寿司」は2月2日から節分の恵方巻、約1700本を販売しましたが、おう吐や下痢などの症状を訴える人が続出し、姫路市保健所が原因を調査していました。
【姫路市保健所 毛利好孝所長】「合計の患者数は150名。男性60名と女性90名。典型的な消化器系の食中毒の症状です」
1歳から91歳までの男女150人の食中毒が確認されましたが、全員が軽症で現在、回復しているということです。 保健所が検査したところ、恵方巻きを巻いた従業員1人の手や、店に残っていた恵方巻きなどから黄色ブドウ球菌が検出され、食中毒の原因と特定しました。
■青森県の駅弁での集団食中毒も「黄色ブドウ球菌」
黄色ブドウ球菌が広がった原因については。
【姫路市保健所 毛利好孝所長】「1つの原因としては使い捨て手袋を着用していたものの、手洗い等が不十分で巻きずしの具材が汚染された」
そしてもう1つ、店は作った恵方巻を常温で長時間置いていたことが分かっていて、そこで菌が増殖したとみられています。 2023年は、青森県でも弁当店が作った駅弁で集団食中毒が起きていて、この時も「黄色ブドウ球菌」などが原因と特定されています。
【姫路市保健所 毛利好孝所長】「やはり原因がどうかと言われたら無理して2人で2日間に1700本巻くこと、これは結構大変な作業。どうしてもそこで無理が出てこういうミスが起こってしまったのでは…」
姫路市保健所は店を営業禁止にして衛生管理などの改善計画をするよう指導しています。
■室温20度設定の室内でも増殖
「黄色ブドウ球菌」による食中毒はどのように防げばいいのでしょうか、食中毒に詳しい帝塚山学院大学の西川禎一さんに聞きます。
そもそも、黄色ブドウ球菌は、手や鼻の中など、どこにでもいる常在菌なのですが、特に注意しないといけない人というのが、手が荒れている人で、菌がいっぱい住んでいる可能性があるということです。
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「私たちの皮膚は体を守っていくために非常に重要なバリアの役割をしています。そこが手荒れをしているということは、例えば、深い傷やひび割れが入っていると、その奥深くまで菌が潜り込んでいけるため、手を洗ったり、消毒薬をかけても、そういう細かい傷の中までは、浸透しにくく除去しにくいです。ですから、手の皮膚の状態を健康に保つことは、病原菌等が取り付かないようにする上でも重要です」
黄色ブドウ球菌は30度から37度で活発に増殖し、毒素を出します。黄色ブドウ球菌による食中毒の発生件数を、1年月別で見てみても、夏場に増えていることがわかります。 ただし、室温20度でも十分に増加するそうです。この時期でも室内ならこのくらいの温度になります。やはりこの時期も危ないと言えるのでしょうか?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「黄色ブドウ球菌はもともと温血動物といって、鳥や私たちのように体温の高い動物にいるので30度から37度が好きなのですけれども、10度を超えると、ゆっくりですが増殖することは可能です。今のように、エアコンが効いていて冬場といっても、20度とか22度設定の室内だと十分増殖していきます。野菜室がだいたい10度ぐらいに設定されているのは、それを超えてくると、こういう病原体が増殖する可能性が出てくるということです」
■菌は過熱で死んでも、毒素は消えない
電子レンジなどの加熱は黄色ブドウ球菌に効果がありますか?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「菌自体は加熱で死にます。だいたい普通の細菌と同じで60度とか70度とになると急速に死んでいきます。菌は殺せますが、菌が増殖した時に吐き出した毒素に熱に耐性があるので、この毒は加熱しても壊れません」
毒素が残ると加熱しても意味がないということです。では、増殖させない方法はあるのでしょうか?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「1番いいのは、文明の利器の冷蔵庫とか冷蔵庫などで低温することです。10℃を超えてから増殖していきますので、それ以下に保っておくと増殖しません。増殖しないということは、毒素も出さないということです」
わさび、梅干し、お酢、塩など食中毒の対策にいいとされますが、効果的なものはありますか?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「お酢のように酸性のもの、pH4以下の、だいたい果汁ぐらいのすっぱさよりもpHが下ぐらいのものだと、黄色ブドウ球菌は毒素を作らなくなるので有望です。塩はあてになりません。塩は10%くらいの、とんでもなくからい状態にしても、黄色ブドウ球菌は堪えないです」
■今回の恵方巻での食中毒 どこに問題が
黄色ブドウ球菌について分かってきましたが、今回の恵方巻の食中毒についてみていきます。 雷寿司の恵方巻による食中毒についてわかっているのは ・手袋をしていたが、作業員の手指から黄色ブドウ球菌が検出。 ・2日間で1700本作成り、常温で保存されていた。 姫路市保健所の担当者は、「相当、大量に菌が増殖していたと推測される」と話しています。 調理現場の状況などから、どこが問題だったと思われますか?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「やっぱり常温で保存の部分のところです。1年の中で1番、のり巻きが売れる時ですので、どうしても無理して作りたかったと思いますが、それを低温で管理するのではなく、作ったものを常温で置いておくと、冬とはいえ20度を超えているような空調の状態ですと、2日間もあれば、十分増えます。大体8時間とか9時間あれば、1個のブドウ球菌が10万個ぐらいまで増えます。2日間っていう時間があれば20度ぐらいでゆっくり増えながらでも、十分毒素ができます」
お酢は効果的だと思うのですが、恵方巻は酢飯なのですが、それでも難しいのでしょうか?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「ご飯のところにはお酢が効いているから、酢飯ところでは黄色ブドウ球菌は今回、増えていなかったと思います。のり巻きですから中に具を巻いていますので、具がお酢だらけというわけではないと思うので、そこで増殖したのではと思います」
2日間で1700本を作ったということが、キャパオーバーという指摘もあり、安全管理のための配慮が手薄になってしまったというのは否めません。
■「黄色ブドウ球菌」の汚染は見た目では分からない 重症化はしない
視聴者から質問。
‐Q:見た目で判別できますか?食べておかしいと思ったらすべき処置は?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「これはちょっと無理です。皆さんが普通に買ってきて、食べているお惣菜類でも、食品1グラムの中に雑菌が10万個ぐらいいます。しかし私たちは何もおかしいと思わないわけです。10万個が黄色ブドウ球菌だった場合には、十分に毒素が出て、溜まり始めている状況なので、味、見た目、匂いだけで、これは食中毒、危ないとはいかないです。いわゆる腐敗とは違います」
‐Q:黄色ブドウ球菌による食中毒は、重症化するのでしょうか?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「この点は割と安心です。黄色ブドウ球菌の食中毒の場合は菌自体が私たちの体の中に入ってきて悪いことをするタイプではないです。食中毒の場合は、食品の中で出た毒素を私たちが食べてなるので、最初にその食品と一緒に取り組んだ毒素さえ消えてしまえば、速やかに症状が消えていきます。突然発症して、吐き気がして、嘔吐してということで、1日もすれば、割とケロッと治ってしまいます」
‐Q:バレンタインの手作りチョコ、安全でしょうか?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「アメリカでチョコレートミルクでの有名な事件はありますが、日本でバレンタインの時に皆さんが作っている固形のチョコレートには水分がありません。黄色ブドウ球菌は温度も必要ですが、水分も必要ですので、水分のない油脂の固まったような形のチョコレートの中で、どんどん増えることは考えにくいです。ただし中に、ジャムなど何かを入れ込むようなチョコレートは、気を付ける必要があるかもしれません」
‐Q:きちんと手洗いをしたつもりでも、菌が残っている場所はあるの?
【帝塚山学院大学 西川禎一さん】「手洗いは難しいんです。手には指紋やしわがいっぱいあります。この中に入り込んでいるのはなかなか取れません。それから爪の甘皮がはえているような、爪の生え際のところや、もちろん爪の先もそうですけど、ほとんど取れないと思ってもらった方がいいです。ただその中でも、お湯とせっけんを使って、たいだい20秒ぐらいはしっかりこすり洗いしてから、お湯で流してもらうといいです」
冬だからと油断せずにしっかりと対策したいですね。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2月9日放送)