大阪湾の『迷いクジラ』 目撃相次ぐ 専門家は「かなり痩せてますね」 体力が残るうちに沖に出られるかどうかが「生死」の分かれ目 吉村知事は「見守るしかない」 2024年02月07日
1月から、大阪湾で目撃されているクジラ。だんだんと弱ってきているという情報もありますが、現在はどのような状態なのでしょうか? 現地で観察した専門家に、現在のクジラの状態や今後について聞きました。
■海に帰すことはできないのか?
クジラがいる堺市の港を確認しました。
【記者リポート】「堺市の泉北港に来ています。先ほどまでクジラの姿が見えたのですが、今は潜っていて見えません。クジラの体長は10メートルほど。時折、潮も吹いています。元気かどうかは判断できませんが、潜ったり、出てきたりして、かなり積極的に動いています。中継のためこちらに到着した時点では何100メートルか離れた場所にいたのですが、かなり近くまで泳いできています」 「迷い込んだ場所について、こちらは工場地帯になっていて、周りには工場や倉庫がたくさんあります。大阪市内から来ると大和川を渡ってすぐの辺りです。通常はクジラが来ることはなかなかない場所です」
なぜこの場所に迷い込んでしまったのか?外の海に戻ることはできないのか?海洋生物を研究している鍋島さんに現在のクジラの状態を見てもらうと…
【大阪市立自然史博物館 鍋島靖信外来研究員】「かなり痩せていますね。細いですよね。かなり長いこと餌を食べていないから、体の脂分が少なくなってきている」
大阪海上保安監部などによると、このクジラは1月12日に神戸の六甲アイランド沖で見つかったのを皮切りに、兵庫県の尼崎市や大阪・岸和田市の沖合などで相次いで目撃され、1月29日以降、堺泉北港から動いていません。
大阪府によると、推定で全長12メートル、重量20トンほどのマッコウクジラの雄だと考えられています。
6日、大阪府の吉村知事は次のように話しました。
【大阪府 吉村洋文知事】「過去にクジラを移動させようとして人が死亡したという事案もあります。強制的に動かすのは難しいという状況ですから、専門家の意見を踏まえても、見守るしかないというのが現状です。何とか沖に戻ってもらいたいと思います」
■大阪湾のクジラといえば、去年「淀(よど)ちゃん」が迷い込んだばかり
クジラといえば2023年1月、淀川の河口付近でもマッコウクジラが見つかり、「淀(よど)ちゃん」の愛称で多くの人がその姿を見守りました。 なぜ、クジラが大阪湾に迷い込む事態が相次いでいるのでしょうか。
【大阪市立自然史博物館 鍋島靖信外来研究員】「今、黒潮がすごく蛇行していまして、そういう流れに乗って押し込まれてきたというのが考えられます。先週も大阪港でイルカの群れが入ってきたり、泳いでいるのが報道されていますので、外からクジラとかが入りやすいような水の状況になっていたみたいですね」
「クジラが今、どれくらい体を温める養分…脂をいっぱい持っているんですけど、それが残っているかで、生きられる時間が決まってくるんじゃないかなと思っています」
専門家によると、体内に脂があるので約2カ月は食事なしでも生きられるそうです。しかし、今迷い込んでいる湾にはえさがありません。 クジラが自力で出ていけるのかについて、クジラは音波を出して、その反射で自分の場所を確認するそうです。海ではそれが可能なのですが、現在クジラがいる湾には近くに建物や船などがあるため、自分の場所を正確に確認することが難しくなっています。そのため、自分で出ていくことも困難です。
しかし人の手で外に出そうにも、過去には死亡事故が起きていて、クジラを船で引っ張って湾から出すことも容易ではありません。 今後、湾の中で死亡する可能性も考えられます。大阪府によると、死亡した場合は、埋設・焼却・海底に沈めるといった方法のいずれかで処理することになりそうです。
■もしクジラが死亡したら…
2023年1月に淀川に迷い込んだ淀ちゃんに関しては、死亡後に船で死骸を移動し、紀伊水道沖の海底に沈めました。その処理の際に約8000万円の費用が発生したため、今回もその膨大なコストをかけて同様の処理を行うのかという議論もあります。
また、近海に沈めるとなると漁業関係者への許可など煩雑な作業が発生するため、その方法も容易とはいえません。焼却に関しては、焼却炉に入るサイズになるよう細かく切断する必要があり、時間やコストがかかってしまうということです。
以上から、比較的コストが少ない埋設の方法が今のところ最も現実的なのではないかと話し合われています。 クジラにとってはかわいそうな状況ですが、今のところ救済する手段は見つかっていません。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年2月6日放送)