社会問題になっている“教員不足”。「#教員不足をなくそう緊急アクション」の調査によると、2023年4月の時点で公立小学校の20.5パーセント、公立中学校の25.4パーセントで教員不足が起きています。
自治体はあの手この手で教員採用につなげていこうと動いています。教員が足りない、その解決策になるのはどういうものなのか、教育研究家の妹尾昌俊さんに聞きます。
妹尾さんは、学校の業務改善アドバイザーなどを行い、学校現場を見られているほか、5人のお子さんがいるお父さんということで、保護者としても、学校をみていますが、教員不足は深刻な状況ですか?
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「10年以上前から言われてきたことではあるのですけれども、この5年、6年、近年特に深刻になっていると思います。自治体にもよりますが、教員採用試験の倍率が下がってきていて、不合格になった人が講師として臨時で雇われるという制度なのですが、その講師の先生のなり手が減っているという事で欠員が生じてます」
教員、講師も減っているという状況なのですね。
■大学3年生で教員採用試験を受験可能な自治体は増えている
教員が不足している中、自治体があの手この手で、教員採用の取り組みを行っています。
大学3年生で教員採用試験を受験可能という動きは進んでいまして、 和歌山県ではいち早く今年度から実施しており、3月に試験があり 5人の学生さんが受験するそうです。
そして来年度からは、大阪市、京都市、神戸市、堺市などの自治体が実施していくということです。大学3年生で受験ができることに、どのような意味があると思いますか?
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「これはなるべく早いうちから『囲い込む』と言いますか、いい学生さんになるべく早く受けてほしいということかと思います。ただ、企業とも人材獲得競争している中で、企業は本当に内々定を出すのがすごく早いっていうのもありますので、こういった施策だけで十分かどうかというのは、今後も検証が必要かなと思います。必要に駆られて各自治体が工夫しているという状況ではないでしょうか」
番組コメンテーターでジャーナリストの浜田敬子さんは「企業の就職試験が早くなっているだけではなく、賃金も上がっていて、教員になりたいと思っていても、賃金や働き方のことを考えて、民間企業を選ぶ学生も増えていると思う」と話しました。教員の待遇の改善が求められているという状況です。
■スペシャリスト枠や受験科目の廃止も
そして、こんな動きもあります。
大阪市や京都府などは中学校の理科や歴史など、その道のスペシャリスト枠では教員免許がなくても受験可能となります。60歳まで受験可能ということです。
さらに、廃止された受験科目があります。 大阪市・滋賀県・和歌山県・徳島県などで、小学校の採用において、水泳や音楽などの実技テストの取りやめをして、受験のハードルを下げようという動きがあるということです。この動きどう評価しますか?
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「もちろん功罪はあるとは思いますが、学生の負担もしっかり考えないといけないので、今の大学生も忙しいので。なので一部、負担を軽減してなるべく教員採用試験へのハードルを下げていくというのは、必要に駆られてということではないかなと思います」
このような取り組みで実際に教員の数は増えると思いますか?
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「まだ正直分かりきっていないところもあって、例えば前倒しをしたある自治体ではたくさん受けてくれたとしても、他の自治体では減ったりとか、あるいは、教員採用試験の日程が重ならない限り併願可能なので、結局、内定の辞退者が増えて、困るという自体も聞いていますので、自治体間で競争することは良い面もありますが、どこかの自治体だけハッピーでも他の自治体がうまくいかないということもあるので心配です」
採用要件を緩和して教員の質が落ちるのではという懸念の声もあるのですが、いかがでしょうか?
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「そういった心配もすごく理解できます。教員になるのに簡単でいいのかというような声があるとは思います。ただ教員採用試験は通常は、教員免許を持った人が受けられるものですので、大多数は大学や短大で教員免許を取得して、受けることになります。採用試験の前に、大学の単位をしっかり取っている人たち、教育実習も受けている人たちなので、試験が簡単になるからといって、直ちに質が低下するとは限らないです。むしろ大学等の教育が、しっかりしているかどうかも問われないといけないということではないでしょうか」
■仕事が増えたのに、教員の数が比例していない
番組では、みなさんに教員不足を実感したエピソードについてアンケートをとりました。
・担任が他のクラスをよく見に行くので自習が多い(兵庫県10代)
・体調不良で長期休暇する先生が2人います。でも代わりがいない(大阪府40代)
・現在、育休中です。先生の代わりがどこの学校でもほとんど見つからず校長や教頭が担任代行…申し訳ない(小学校教員20代)
「代わりがいない」「代わりが見つからない」という、教員をいくら採用しても、途中で足りなくなるという問題が見えてきました。
妹尾さんは「ベンチに控え選手がいない!」と指摘をします。
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「スポーツに例えると、本来、途中の交代のためにベンチ要員というか、交代の人がいるはずなのですけれども、今の学校、ほとんどの地域は、もう年度の最初からベンチ要員を使い切っている状態です。産育休や病気で休職するということは年度途中に発生しますが、その時に替えとなる代替の講師の先生がなかなか見つからない。もう何10件も電話とかしても人手がいないという話を各地で聞いています」
そもそも教員になりたいという人が減ったということもありますか?
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「いろいろな要因がありますが、われわれが子供の時よりは確実に学校が忙しくなっているということが1あります。加えて、前は土曜日も授業がありましたが、今は週休2日になりましたが、 授業のコマ数は多いまま、あるいは教える内容、教科書はどんどん分厚くなっているので、先生の仕事は増えている割に、先生の数が制度的に増えているわけではありません。例えばいま、小学校に行くと日中は職員室に誰もいないような、校長先生しかいませんという状態が結構ざらにあります。授業や給食の時間なんかも仕事の時間なので、先生は出ずっぱりというところが多いですね」
■問題は魅力ではなく「続けられるのか」?
妹尾さんは、この問題の解決法について、「ピンチヒッターを増やす」、「教員の正規雇用を拡充」といいます。
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「まずはきちんと産育休だとかの代替となる人を、まず確保しておく必要があります。ピンチヒッターを増やすということが必要です。そのためにも非正規雇用の講師の処遇を上げるなど、あるいは、働き方の部分ですよね。多忙すぎてあるいは保護者の対応も大変すぎて、教員になるのを躊躇する学生もいるので、そういう部分にしっかり対応して行かないといけないと思います。各地で教員の魅力発信ということで、『学校の先生ってすごくやりがいがあるよ』とPRしてるんですけれども、既にそういうのは分かって教員採用試験を受けているとか、教員免許を持っているという学生とか社会人が多いわけです。それよりも自分が働き続けられるかどうかとか、ハードワークすぎて大変じゃないか、というところに不安があるわけですから、その不安にしっかり対応してピンチヒッターを増やす。それと、元々ぎりぎりの人数で小学校等やっていますので、元々の正規雇用の人数がもう少し余裕があるというか多ければ、2人、3人休んだところで、すぐ教頭が担任しないといけない事態にはならないわけです。これはお金もかかる問題ですし、学校だけが人手不足の業界ではもちろんないですけれども、やはり教育にはもっと投資をしていかないと、将来によくないっていう意味では、正規雇用も増やして行く必要もあるのではないでしょうか」
これに関連するLINE質問が来ています。
‐Q:業務量に比べて給料が少ないのでは?
【教育研究家 妹尾昌俊さん】「これはかなり人によっても評価が分かれるところだと思います。公立学校については、時間外勤務手当、残業代が出ていないという法制度になっていますので、ハードワークなわりには給料が低いのではないかと評価する方もいると思います。一方で、年功で順調に昇給して、もちろん公務員なのでいろいろなことが安定している、退職金もかなり充実しているという所がありますので、地域によっては世間一般からするとかなり処遇はいい、給与水準は決して悪い方ではないという部分もあります。ですから働き方改革などをして、先生の負担軽減をする、あるいは理不尽なクレーム等には先生だけではなく、いろいろな人がもっと助けてくれるようになれば、もちろん給料も上がった方がいいですけれども、必ずしも処遇だけの問題ではないと思います」
子供達に質の高い教育を施すことが未来につながっていきますから、教育の環境を整える必要があると感じます。
(関西テレビ「newsランナー」2024年2月2日放送)