「結婚したらどんな感じ?」 子育て家庭に滞在する『家族留学』 20歳のカップルが結婚・育児のリアルを体験 全国で700人以上が参加 2024年02月03日
少子化問題が深刻化するなか、あるユニークな取り組みが行われています。
それは、若者が子育て家庭に滞在し、育児のリアルを体験する「家族留学」です。
『結婚したらどんな感じ?』『子供が生まれたらどんな生活が待っているの?』実際に子育てをする家庭を間近で見て、将来の人生設計を考えるきっかけに。
大学生のカップルが訪ねた家庭には、とても大切な過去が…。一体どんな「家族留学」となるのでしょうか?
これまでに全国で700人以上の方が参加している「家族留学」を取材しました。
■将来を考える上で一つの判断材料に
赤ちゃんに抱っこを嫌がられてしまったり、なかなか服を着せられず焦ったり…。育児に奮闘?している様子の、若い男女の姿。新米夫婦によくある光景…と思いきや、実はこの2人と赤ちゃんが会うのは、この日が初めてです。
【大学生】「もともと子供が好きなんですけど、普段なかなか小さい子と関わる機会がなくて…」
若者が子育て家庭に滞在し、子どもを育てる大変さなど、リアルな生活を体験する。それが「家族留学」です。
【NPO法人「manma」代表理事 越智未空さん】「家族留学は2015年から始まりまして、これまで(全国で)700人以上の方が参加されています」
こう話すのは、家族留学を主催するNPO法人「manma(マンマ)」の代表理事、越智未空(おち・みそら)さん(29歳)。越智さんは2人の子を持つお母さんです。
【NPO法人「manma」代表理事 越智未空さん】「育った家庭環境以外の多様な子育ての在り方とかパートナーシップの在り方、家族の在り方を知ることを通じて、将来の生き方の選択肢を広げるきっかけにしてほしい」
2023年12月、政府は子供3人以上を扶養する世帯に対し、大学の授業料の無償化や、高校生までの児童手当の拡充など“異次元の少子化対策”を発表しました。
越智さんは、「子育て世帯への支援という意味では、効果が高いものになっている」と評価する一方、若者が結婚や子育てについて学ぶ機会や支援が少ないと考えています。そこで取り組み始めたのが「家族留学」です。
【NPO法人「manma」代表理事 越智未空さん】「自分は将来結婚したいのか、したくないのか、子供を持ちたいのか、持ちたくないのかっていう意思決定をする上での、一つの判断材料、きっかけにしてもらえたら」
今回、その「家族留学」を体験するのが、平尾洋輔さん(20歳)と、中川遥陽(はるひ)さん(20歳)の大学生カップルです。
【中川遥陽さん(20歳)】「manmaさんの家族留学があるのを知って、将来のことも聞けたらいいな、小さい子と触れあえたらいいなと思って参加しました。これから1年間(海外に)留学する予定があるんですけど、遠距離期間も乗り越えて、将来は日本で外国語を生かして働けたらいいなと」
Q.彼女が1年間海外留学に?
【平尾洋輔さん(20歳)】「めちゃくちゃ寂しいです」
こう話す洋輔さん、向上心の高い遥陽さんに誘われ、イヤイヤ参加したのかと思いきや…。
【平尾洋輔さん(20歳)】「僕も小さい子が好きで、彼女の方から提案を受けて、お互いの将来のヒントになればなと思って」
■留学を受け入れるのはどんな家族?
今回、大学生カップルを迎えるのは、神戸市に住む樽井さん一家。小学3年の長男・嶺(りょう)くん、小学1年の次男・環(めぐる)くん、生後11カ月の長女・穂(みのり)ちゃんの3人の子どもがいる5人家族です。
なぜ、家族留学を受け入れたのでしょうか。
【母・樽井 文さん】「面白そうやん!っていうのが一番。シンプルに楽しそうだと思った」
【父・樽井 毅さん】「若い子が今、そんなこと(家族留学)に興味を持っているのが、どんなことを考えているのかなと、いろいろ話をして聞けたら面白いかなと」
一体どんな「家族留学」になるのか?
今回の家族留学は午前10時に始まり、5時間を共に過ごします。
【母・樽井 文さん】「(穂ちゃんは)もうちょっと緊張して、いつももっと怖がるんやけど、今日はいい感じ」
【中川遥陽さん(20歳)】「いい感じですか?」
お母さんいわく、今日は“いい感じ”ということで、早速、遥陽さんが穂ちゃんを抱っこしようとしますが…。
【中川遥陽さん(20歳)】「嫌かな?久しぶりにこんなに小さな子を抱っこしました」
まだ初めて会ったばかりの遥陽さんに、ちょっと人見知りをしているようです。
一方、洋輔さんは男同士ですぐに意気投合していました。
【平尾洋輔さん(20歳)】「ベイブレードですね。僕も小さい頃にやってたので」
ベイブレードで一緒に遊んだりして、場が和んできました。そんな中、遥陽さんの留学の話題に…。
【中川遥陽さん(20歳)】「外国語大学に行ってるんで、みんな休学して一斉に行きたいところに散らばるんです。英語を使った仕事に就きたいなと思うけど。就けるかなぁ」
【父・樽井 毅さん】「俺も英語使わんかなとか思っていたけど、結局めっちゃ使ってる」
【中川遥陽さん(20歳)】「何系の(仕事)?」
【父・樽井 毅さん】「製薬企業で研究員だったから。海外の会社とミーティングとか、基本英語やから。断然しゃべれる方がいい」
父・毅さんが、社会人の先輩として遥陽さんにアドバイスしていました。
■家族が大切に抱える過去とは
アットホームで明るい樽井さん一家ですが、家族みんなにとって、とても大切な過去がありました。
【次男・環くん】「小児がんの話って?」
【母・樽井 文さん】「していいよ」
【次男・環くん】「小児がんで死んじゃったからさ、俺の弟」
2020年6月22日、樽井家の三男として、この世に生を受けた曙(あきら)ちゃん。生後7カ月で白血病を発症し、そこから1年2カ月の闘病生活を送りました。
この間、家族は曙ちゃんとの時間を大切に過ごしました。
【母・樽井 文さん】「(病院から)『やりたいことを全部言って』って。もう積極的な治療はしない…と。あぁ、これは看取りということかと。『何したい?』って(子どもたちに)聞いたら、『一緒に遊びたいし、でも普通に家族5人で寝たい』というから…」
家族みんなで過ごした貴重なひととき。その時に撮影した写真は、大切な思い出の1枚です。
写真を撮った12日後。2022年4月6日、三男の曙ちゃんは、家族の前で眠るように息を引き取りました。母・文さんは、「短い人生だったけど、強く太く生きた子どもだった」と話します。
【中川遥陽さん(20歳)】「曙ちゃん、めっちゃ強い子だったんですね」
【母・樽井 文さん】「そう。それを分かってくれるのが一番うれしい」
この話を聞いた2人はどのように感じたのでしょうか。
【中川遥陽さん(20歳)】「お母さんが曙ちゃんのことを紹介してくれたことがまずうれしかったですし、家族みんなが思いやっているところが、樽井家は素晴らしいなと思った」
【平尾洋輔さん(20歳)】「お兄ちゃんたちも思いやりがあって、(曙ちゃんの話を)聞いた後、お兄ちゃんたちが大人っぽく感じました」
■留学を終えて「視野が広がった」
家族留学開始からおよそ3時間がたった、午後12時40分。長男の嶺(りょう)くんが学校から帰ってきました。
家族がそろったところで、お昼ご飯。みんなでホットプレートを囲んでギョーザを食べました。
さっき曙ちゃんの話を聞いたからか、2人はより進んで子供たちとコミュニケーションを取るようになりました。徐々に子どもたちとの距離が縮まっているようです。
最初は穂ちゃんに嫌がられていた抱っこも、ついに成功。
【平尾洋輔さん(20歳)】「(抱っこ)できてます?」
【母・樽井 文さん】「できてる、できてる!」
【父・樽井 毅さん】「できてるし、みーちゃんも落ち着いている。嫌がってない。すごいなぁ」
お別れの時間が近づいてきた頃に仲良くなれたようです。
5時間があっという間の「家族留学」が終わりました。樽井さん夫婦は、若い2人をどのように見ていたのでしょうか?
【父・樽井 毅さん】「すごく意欲的やな、と。僕の考えていたことよりは、全然いけるやんっていう」
【母・樽井 文さん】「多分、(将来)めっちゃ悩むだろうし、2人の未来でもあるし、1人1人それぞれが将来、幸せになっていてほしいなと、すごく思った」
家族留学を終え、2人が感じたことは…。
【平尾洋輔さん(20歳)】「体験前は子供を持つことに対する不安とかって、自分自身が子供を育てるイメージが湧かなかったんですけど、家族留学に行ってみて、そういう不安が少し解消された気がします」
【中川遥陽さん(20歳)】「いざ行ってみたら本当に楽しくて。自分が育った家庭とは全然違う家族の形を体験して、こういう家族の形もあるんだとか、視野が広がった」
「家族留学」を体験することで、一つの家族の形を知ることができました。
受け入れる側の家族が飾らずありのままを伝えることで、若者たちの人生設計のヒントにつながるかもしれません。
「家族留学」は、NPO法人「manma」が留学希望の若者の要望を聞いて、留学先となる受け入れ可能な家族とのマッチングをします。費用は、1回5時間で、1人あたり学生は4000円、社会人は5000円。受け入れ家庭は約500組の登録があり、ボランティアで賄われているということです。
(関西テレビ「newsランナー」2024年1月31日放送)