災害の後で多くの人が直面するかもしれない不安。今回の能登半島地震でも注目されている問題が「災害関連死」です。地震の揺れなどによる直接の被害からは免れたものの、過酷な避難生活や医療やインフラの不足・遮断などで失われる命があります。能登半島地震の発生から2週間がたち、過酷な避難生活の長期化、そして感染症の拡大が懸念されています。
被災地を回り診察を続ける医師は…
【日本赤十字社 和歌山医療センター 益田充医師】「持ってる薬が切れているとか、ストレスに関する訴えが多くなっているとは思います。水が届かないとかアクセスが悪い状況が改善されない限りは、(感染症が)どんどん広がっていくことになります」
■震度7を観測した志賀町では病院機能がストップ
震度7を観測した志賀町の病院では地震翌日、病棟の至るところに地震の爪痕がありました。
【富来病院職員】「(Qここは地震が起きたまま?)そうです。触れてないです、僕ら。水は全然、断水状態です」
MRIなど多くの医療機器が使用できなくなりました。
【富来病院職員】「(Q志賀町では病院機能がストップしている?)そうですね。簡単な外傷は診られるんですけど。
(Q重症患者は?)対応できません。そのへんはストップさせていただきました」
この病院では、入院患者が別の病院へと移されました。
■熊本地震で転院時に娘を亡くした母
2016年に起きた熊本地震。 病院の機能不全をきっかけに、娘を亡くした人がいます。
【宮崎さくらさん】「停電はもちろんしていたし、やっぱり今までの病院とは違う姿ではありましたね」
宮崎花梨(かりん)ちゃん、当時4歳。先天性の重い病気を患っていた花梨ちゃんは、当時、熊本市内で入院中でした。地震で病院が損壊したため、福岡の病院へ移動を余儀なくされました。
【宮崎さくらさん】「(花梨ちゃんは)レントゲンを撮ったり、MRIを撮るところに移動するのも慎重に行かないといけない状況だったんです。それを福岡の病院まで約100キロ移動となれば、考えれば分かりますけど…」
数日後、花梨ちゃんは転院先で亡くなりました。
【宮崎さくらさん】「退院したら幼稚園に行く予定だったので。地震がなかったらっていうのはいつも考えることです。今生きてれば、何歳になって、どんな感じだったのかなっていうのはいつも考えますけど」
何かできることはなかったのか。宮崎さんは、今もそう考えてしまうと言います。
■「災害関連死」は「南海トラフ地震で最も警戒すべきテーマ」
被災者にかかる、さまざまな負担が生む「災害関連死」。実は専門家の中では、「南海トラフ地震が起きたとき、最も警戒しなければいけないテーマ」とも言われていました。
【京都大学防災研究所 矢守克也教授】「地震動とか津波、火災、土砂災害とか全部怖いですけど、『災害関連死』は南海トラフ地震を意識しても、ものすごく大事な問題。ナンバーワンぐらいの問題」
南海トラフ地震では災害関連死が最大7万人を超える可能性があるとされます(関西大学 奥村与志弘教授による)。 宮崎さんは、命を守るための対策を、今こそ考えてみてほしいと話します。
【宮崎さくらさん】「毎回やっぱり起きてからですもんね。経験してからじゃ遅いんですよ。今、自分に起こったらどうするかを考えておくことが一番大事だと思います」
■さまざまな「災害関連死」が考えられる
災害関連死のリスクはさまざまなものがあります。
・「水分不足」
断水によって衛生環境が悪化し、トイレに行きたくないという思いから水分をとらなくなり、脱水症状になる恐れがあります。口の中が乾くことで高齢者の方などが誤嚥性肺炎などを引き起こす原因にもあります。
・「3密」
新型コロナやインフルエンザなど感染症がまん延、二次感染の恐れもあります。
・「運動不足」
特に高齢者が運動不足で筋力が低下し、寝たきりになることや、心不全・エコノミークラス症候群などの疾病増加の原因になります。
避難生活が長引けば、災害関連死のリクスも上がることになるのでしょうか?
【兵庫県立大学大学院 阪本真由美教授】「これまでの避難生活のストレスや疲れで体力が衰えているところに、栄養バランスも悪いので、さらに厳しい状況に置かれる可能性があります。1.5次避難や2次避難という仕組みが作られているので、そういった支援を利用して、広域避難をして体調を整えることもご検討いただければと思います」
災害関連死を防ぐために、どういう取り組みが必要になってくるのでしょうか?
【兵庫県立大学大学院 阪本真由美教授】「避難生活の環境を改善することが大事です。少しずつ避難所に残る方が減ってきているので、居心地の良いスペースを作っていただくのが大事です。それから我慢しないことです。避難されている方、遠慮してつらいのを耐えようとしている方も多くいるんですが、避難生活が長期化するので、少しでもつらいことがあったら、周りの人と共有して、解決策を見つけ出して行くのも大切です」
(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月15日放送)