1月13日に行われた台湾の総統選挙で頼清徳新総統が誕生しました。台湾の政治が新しいステップを踏んだわけですが、気になるのが「台湾有事」。日本にとっても心配な台湾有事は本当に起こってしまうのでしょうか?
「newsランナー」の吉原功兼キャスターは現地を取材し、台湾の市民は、すぐに中国が攻め込んでくるような緊迫感を感じるまでには至っていないものの、実際に起こるのかどうか懸念はしているということを実感しました。
台湾と中国の政治に詳しい、キヤノングローバル戦略研究所の峯村健司主任研究員に聞きました。
■台湾有事の可能性はアメリカ大統領選挙の結果次第
まず時期については、「2024年11月、アメリカ大統領選の結果次第で…」ということです。
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「この間、私もワシントンに行ってきて、民主党、共和党の関係者に会いましたが、一言で言うと『トランプさん強いな』という印象でした。今までトランプさんがひょっとして勝つのじゃない?と、『もしトラ』とかよく言われてましたけれども、もしトラではなくて、本当にトランプさんが勝つのではないかという状況です。そうなってくると、トランプさんが勝つと、どうなるのかってよく分からない。いきなり、台湾もう助けないと言うかもしれないという意味では、ひょっとしたら危ないのではないかという意味で、今年の11月と言いました」
切り捨てるともいえる状況となるかもしれませんが、具体的にはどういった内容になりそうですか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「本当に予測不可能なのですが、1つありうるとしたら、トランプさんは中国との貿易赤字が一番、気に入らないんですね。例えば中国の習近平さんが『いっぱいアメリカのものを買ってあげるから、そのかわりちょっと台湾だけ目つぶってて』とか『ちょっと黙っててね』と言って、『いいよ、いいよ』となってしまうような場合はあると思います」
■中国は「軍事的・経済的に圧力を高めていく」
では、中国はどう動くのでしょうか?
まず言えそうなことは「軍事的・経済的に圧力を高めていく」ということです。
具体的には、台湾海峡での大規模な軍事演習、海上封鎖などを行い、さらに、経済的には、台湾産商品、製品の禁輸なども考えられるということです。圧力を強めていくと言っても、軍事侵攻に至る可能性はどうでしょうか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「よく台湾有事というと軍事侵攻だという方が多いのですが、私はゆっくりゆっくり圧力を強めて、ねじり殺してくみたいなイメージをしています。じわじわと締め上げていくというやり方を今、中国が考えていると思います。例えば、ナウルと断交したというニュースもありましたが、あれも1つです。あとは経済的な圧力や、さらには、政府の船などを使って、船の検査をやりますよという形で、台湾に行く船を妨害するような嫌がらせをするという可能性も考えられます」
アメリカに太いパイプを持っているという蕭美琴(しょうびきん)氏が副総統になるという話もありますが、それでも、例えばトランプ大統領が誕生した場合には、台湾とすると後ろ盾をなくす形になるのでしょうか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「実はアメリカの戦争はトランプさんや大統領が決めるだけではなくて、議会と協議しなければいけません。だからこそストッパーとして、『もしトラ』に備えて、議会は蕭さんがグリップしているということは、多分考えているのではないかと思います。議会さえグリップしておけば、なんとか、ひょっとしたら、うまくアメリカの助けを得られるかもしれないと考えていると思います」
■日本は有事が起きるもっと前に向き合う姿勢が大事
台湾としても台湾有事があった時には、アメリカ、そして日本には助けてほしいという想いがあると思います。
日本はどういう立場、スタンスであるべきだと思いますか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「実は有事の時に米軍が助けに来るか、自衛隊が助けに来るかという世論調査をやると、自衛隊が助けに来てくれるという人の方がはるかに多いそうです。なかなか憲法の制約があって難しいのですが、日本としては、やっぱりいきなり戦争になる前に、例えば海上封鎖するみたいな時にどう助けるのかですね。もっと言うと、その前の段階で、そういう強制的な嫌がらせをするとか、警告をするなどの、いわゆる力による恫喝みたいなことをしてはいけないよという形で、台湾の人たちを守っていくという姿勢が非常に重要だと思います」
日本としてどう向き合っていくかということを考えることも非常に大切なことです。
■台湾が中国に併合されたら…人民解放軍を置き、自由はなくなる
視聴者よりLINEで質問がきています。
‐Q:台湾が中国に併合されたら、日本にどんな影響がでますか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「いや、もう考えたくないですよね。私が取材した中国の軍の関係者によると、絶対、台湾には中国の人民解放軍を置くと言っています。そこで基地を作ると。そうなると、どうなるか。実は日本の物流の、特に海の荷物の9割が台湾の周辺を通っています。例えば、もし日本と中国の関係が悪くなった時に、嫌がらせみたいに日本の船を止めるというようなことをやって、日本に対して脅しをかけてくる可能性が出てくると思います」
‐Q:台湾が中国に併合されたら、香港のように自由が無くなるのですか?
【キヤノングローバル戦略研究所 峯村健司さん】「残念ながらなると思います。香港も最初のうちは一国二制度といって、制度が違いますよとやっていましたが、今じゃどうですかってみると、言論の自由というのはかなり縛られて、メディアも自由に言えないという状況になっている。そういうことを考えると、台湾だけ特別扱いということは、私はありえない、恐らく香港みたいになってしまうだろうと思います。だからこそ、やっぱり簡単にこの併合を許してはいけないと、日本から見ると思います」
現地で台湾市民の声を聴くと「一番大事にしていることは自由と民主主義」と多くの人が語っていました。これが失われることに対しての警戒感が相当あり、香港のようになりたくないという思いを持つ人が大勢います。日本からも、台湾の情勢を注意深く見守っていく必要がありそうです。
(関西テレビ「newsランナー」2024年1月15日放送)