森友学園に関する公文書の改ざんを指示されたことを苦に、近畿財務局の職員・赤木俊夫さんが自殺し、妻の雅子さんが財務省の佐川元理財局長に損害賠償を求め、控訴している裁判。19日午後、大阪高裁は控訴を棄却する判決を言い渡しました。
大阪府豊中市の国有地が8億円以上値引きして売却された、いわゆる「森友学園問題」。この中で起きてしまったのが、財務省が組織ぐるみで公文書を改ざん・破棄するという前代未聞の事態でした。 改ざん作業を強いられた財務省近畿財務局の職員の赤木俊夫さん(当時54)は、うつ病を発症し、翌年に自殺しました。
【赤木雅子さん】 「夫は『犯罪行為をしてしまった、僕は犯罪者なんだ、内閣が吹っ飛ぶようなことをしてしまったんだ』と言っていたので。『死ぬ、死ぬ、もう僕は死ぬんだ』ってことばっかり言って。夫がなぜ死ななければならなかったのか真実が知りたい」
雅子さんは、改ざんを指示したとされる佐川宣寿元理財局長と国に対し、損害賠償を求める裁判を起こしました。 しかし、国は雅子さん側の請求をすべて認める「認諾」という手続きを取り、裁判を強制的に終結させたため、佐川元理財局長に対する裁判のみが継続。その裁判も2022年、大阪地裁が「国家賠償法上、公務員が他人に損害を与えた場合は、国が賠償すべきであり、佐川被告個人は、損害賠償の責任を負わない」として訴えを棄却したため、雅子さんは控訴していました。
19日午後3時から言い渡された控訴審判決で大阪高裁は「公務員個人が損害賠償の責任を負わないとした、最高裁の判断を否定すべきとは言えない」と一審の判決を支持し、雅子さんの控訴を棄却。 また雅子さん側が佐川元理財局長に説明や謝罪を求めていることについて、「俊夫さんが受けた苦しみなどに照らすと、説明や謝罪があってしかるべきとも考えられるが、法的義務を課すのは難しい」として、訴えを退けました。
19日の判決について、裁判を終えたばかりの赤木雅子さんにご出演いただきお話しを伺います。赤木さん、一審に続き控訴審でも訴えが認められなかったわけですが、率直にこの結果をどのように受け止めてらっしゃいますか。
【赤木雅子さん】 「棄却されるということは予想はついていたので、そんなに驚かないだろうとは思っていたのですが、実際に裁判長の口から“棄却”という言葉を聞いた時は、胸がドキンとしたというか体が硬直したような感じになりました」
取材をしてきた諸岡記者は、どのように受け止めましたか。
【関西テレビ 諸岡陽太記者】 「そうですね。法廷で雅子さんがどのような様子で判決を聞かれているかを見ていたのですが、ぐっと口を一文字にして裁判長の方をじっと見据えておられたのが印象的でした。雅子さんはあの時、どのような気持ちで裁判長のことをご覧になっていたのでしょうか?」
【赤木雅子さん】 「裁判長の言っておられることを一言も聞き逃さないように…と思って聞いていました。裁判長の言葉の中で一番気になったのは『(佐川氏が)謝るべきだ、説明もするべきだ』とおっしゃっていた点です。でも、『法律の中ではなかなかそれが難しい』とおっしゃっていたのは、本当にとてもつらかったです」
【関西テレビ 諸岡陽太記者】 「“公務員個人が損害賠償の責任を負わない”とした最高裁の判断を否定すべきとは言えない、という一審の判断を全面的に支持するような判決でした。ただ、なんと言いましょうか…、“一歩前進”と言ってはダメなのかもしれませんが、19日の高等裁判所の裁判長の心情が最大限分かる部分が、『説明や謝罪があってしかるべきとも考えられるが法的義務を課すのは難しい』という部分です。 雅子さんこの部分は、裁判後の会見でも『法的義務を課すのは難しいと言われてしまったら、こんな目にあっている私たちはどうしたらいいんだろう』とおっしゃっていました、この部分のお気持ちを改めて聞かせてもらってもいいでしょうか」
【赤木雅子さん】 「本当に夫は苦しんで、1年間苦しみ抜いて死を選びました。それから2年後に私は裁判を起こすことになるんですけれども、その間に佐川さんに説明や謝罪をしてほしいと伝えたんですが、お答えをいただけなかったので、裁判という手法しかなかったです。でも、結局ここでも私や夫は、また国から捨てられてしまったなっていう気持ちが今はあります」
佐川さんに対して、判決の前にも手紙書かれたんですよね。
【赤木雅子さん】 「そうですね。手紙を佐川さんに出しました」
どういったことを、改めてお求めになられたんでしょうか。
【赤木雅子さん】 「今回の判決を聞いていて思ったのは 佐川さんもこの判決で、もっと気の毒なことになったなと思いました、話せる場所を失ってしまったので。この手紙を出してもお返事もいただけなかったですし。今回の判決でも、佐川さんは守られているような感じもある一方で、実は佐川さんは闇に葬られてしまい話す場所を失って、これからの人生ひどい人生を送られるんじゃないかと思うと、本当に気の毒だと思います」
【関西テレビ 諸岡陽太記者】 「雅子さんのお話にあった、佐川氏が話す機会を失ったのではないかということにも関連するんですが、今回私がこの裁判を通してポイントだと思ったのが、当事者への尋問。つまり佐川氏や公文書改ざん問題について知っている財務省の職員たちへの証人尋問ができなかったことで、真実が明らかにならなかったのではないかと考えています。これは一審の頃からずっと雅子さんは『当事者たちを法廷によんで話を聞くことで新しい事実が知りたい。そのために裁判を起こしたんだ』ということもおっしゃっていました。それが今回、一審でも二審でもかないませんでした。これは判決と同じくらい大切で重大なことだと思っています。もし仮に、彼らを法廷に呼んで話を聞けていたとしたら、財務省の調査報告書では明らかにならなかったような事実が出てくるかもしれません。それは、雅子さんにとってだけではなくて、社会にとっても”再発防止”を考える上で非常に意味のあることなのではないかと思います。そこが果たされなかったというのは 重たい事実だと思います」
【赤木雅子さん】 「うちの夫もですが、佐川さんも公務員として働かれていて、税金をいただいてその中でお給料もらって、その中でやったことなので、これは絶対に公にすべきことです。夫が亡くなったから…というのではなく、やはり世の中の人のために、公務員として働いていたんだったらお話しするべきだと思います」
公文書の改ざん、これはミスというよりも意図を持った行為だと思います。その中で公務員個人の責任は問われないという点に関しても疑問を持っていらっしゃる方、違和感を感じていらっしゃる方も多いと思われますが、今後この判決が覆されることはあるのでしょうか。
【関西テレビ 加藤さゆりデスク】 「この後、上告されたとしても、なかなか難しい結果が待っているのではないかと思います。というのも今回の判決もそうでしたが過去の判例が適用されてしまったからです。判決文にもあったように『公務員個人は賠償責任を負わない』ということが結局今回も適用されてしまっています。最高裁は、これまでの一審・二審がこうした判例等に照らし合わせて正しかったかどうか…を審議する場所です。(佐川氏)本人を呼んでもう1回、事実確認をするという場ではありません。なのでそういった尋問の機会もないのであれば、佐川さんは、公務員として“社会全体の一奉仕者”であるという公務員の原点を少しでも持っているのであれば、説明責任を果たすべきだと思います」
【関西テレビ 諸岡陽太記者】 「雅子さんはこれまで『佐川さんが説明してくれるなら、謝罪をしてくれるなら、いつやめてもいい、むしろ裁判をやめたい』とおっしゃっていました。今の気持ちとこれからについてお聞かせいただけますでしょうか」
【赤木雅子さん】 「今日、“棄却”という言葉を聞いた時に、それで終わるわけにはいかないと思いました。これから最高裁に向けて、先生と相談して進んでいくことになると思うんですけど、皆さんの応援が一番力になるのでこれからも応援をしてほしいです。よろしくお願いします」
ここまで、原告の赤木雅子さんにお話を伺いました。おつらい中ありがとうございました。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月19日放送)