岸田政権の少子化対策として、児童手当の拡充や多子世帯の大学無償化など、次々と具体案が明らかになってきました。 結局のところ家計にとってどれだけプラスなのか?本当に少子化の改善につながるのか?第一生命経済研究所・首席エコノミストの永濱利廣さんに詳しく聞きました。
■少子化対策案で「手取り」はどうなる
政策が適応された場合の、高校生がいる世帯での結局のところの手取りはどうなるのでしょうか?今回は夫婦のどちらかが働き、高校生の子ども1人がいるモデル世帯のケースをみていきます。
・家計にプラスになる部分として、2024年12月から16歳から18歳までの高校生に月1万円、つまり年12万円の児童手当が支給する案があります。
・家計にマイナスになるのが扶養控除額の引き下げで、最大控除額は所得税が38万円から25万円、住民税が33万円から12万円に減額される案があります。
結局のところプラスになるのか?マイナスになるのか?ですが、すべての世帯で今よりはプラスになり、年収が低い世帯ほどプラス額が大きくなります。ちょっと分かりにくい案になっていますが、手当を増やす一方でなぜ扶養控除を減らすのでしょうか?
【第一生命経済研究所 永濱利廣さん】 「もともと扶養控除というのは、所得の高い世帯ほど、恩恵が受けやすかったものです。だからそのような控除をできるだけ少なくして手当に替えるという方向性自体は間違ってないのかな…と。全部撤廃してしまうと、逆に恩恵が減ってしまうことも出てきますが、縮小にととどめたので、そういった意味では影響は限定的なのではないかと思います」
■大学無償化は”子ども3人目から”ではないか
さらに7日、明らかになったのが「子ども3人以上で大学無償化」。そんな案が明らかになりました。3人以上の子どもがいる世帯に対し、大学の授業料を所得制限なしで、無償化の方向で調整しています。ちなみに、大学の4年間の学費は国立だと約242万円、私立だと約469万円、私立の医学部だと約3500万円です。
案が浮上している大学無償化は、3人とも無料なのでしょうか、3人目だけ無料なのでしょうか?
【第一生命経済研究所 永濱利廣さん】 「おそらく3人とも無料になってしまうと、子ども2人の世帯と差が大きくなりすぎてしまいますので、おそらく3人目から無料という方向にいくのではないかなと思いますね」
【京都大学大学院 藤井聡教授】 「これを考えた官僚に本当に何を考えてるんや!と憤りを感じるぐらい全く少子化対策に効果がないですね。というのは、子供が減っている最大の理由はデータを分析すると、30歳前後の女性の婚姻率の低下が子供が減っている最大の理由です。結婚する人が少なくなったら、子供はできないし、結婚しても晩婚化が進むとやはり子供の数が減っていく。結婚した女性の子供を産む確率は1980年代と比べて、今のほうが高いぐらいです。ところが今、結婚している人が少ないから子供が減っているのです。だから若い人に若く結婚してもらうような環境を作ること以外に、効果的な方法はないのです。しかも今から『20年後の大学が安くなるから子供作ろう』とどれだけの人が思うのでしょうか。また、20年後にこの制度が残っているという確信はないし、その子が高校を卒業し留学したいとなった場合、関係がないですよね。だからめちゃくちゃだと思う」
【第一生命経済研究所 永濱利廣さん】 「そもそも少子化は婚姻率と出生率の低下なので、この財源を別のところで負担増とかしたら、とんでもない政策だと思います。もし追加の財源を求めないで、子供国債とかの発行で負担を求めない形でやるのだったら一定の評価をしていいかな、そこがポイントだと思います」
■必要な財源は3.5兆円「別枠で子供国債として発行を」
追加の財源は、3.5兆円必要と言われています。どのように確保すると考えられますか?
【第一生命経済研究所 永濱利廣さん】 「シニアの方々の社会保障と違って、子供にお金を使うということは、子供が大きくなってから働いて将来、税金を払ってくれるようになります。そういうものに関しては、むしろ別枠で子供国債として発行して、投資をするというスタンスで負担増をしない。そういう方向でやっていかないと、政策としては本末転倒になってしまうのではないか…という気がします」
少子化対策という名の子育て支援策、“子供がいない現役世代”の負担が増えると本末転倒だと指摘していますが詳しく説明いただけますか?
【第一生命経済研究所 永濱利廣さん】 「少子化の問題で、先ほども言った通り、経済状況が悪くて結婚したくても結婚できなかったりとか、子供を産み育てたくてもできない人たちがいるわけです。今の対策は完全に少子化対策ではなく”子育て支援策”であって、ある程度子が持てるような裕福な人たちにさらに恩恵を及ぼして、逆にそのために貧しい人たちからお金を取るような方向になりかねない方法です。本当そうなってしまったら、たぶん逆効果になってしまうと思います」
【関西テレビ 神崎博報道デスク】 「今すでに子どもが3人いる人とか、2人目を産んでいて3人目作ろうかかと悩んでいる、そういう人たちに対する子育て支援でしかない。少子化対策というのであれば、一番のポイントはどう0を1にするかとか、1をどう2にするかという所が非常に大事なところです。特に0から1にするというところがポイントになってくるので、『少子化対策ではなく子育て支援ですよ』と割り切ってこれをヤルならありですけども、少子化対策はもっと違う策を考えないといけないですね」
本当にこれが少子化対策と言えるのかというところが、まず問題であるということです。
■永濱さんの提言『将来の増税をやめる』と言えば効果あり
視聴者から質問です。
‐Q:第一子、第二子への保障を手厚くするべきではないでしょうか?
【第一生命経済研究所 永濱利廣さん】 「それも一理あります。ただやっぱり、特に所得の低い若年層の子供の保有率というのが、この10年間でものすごく下がっているので、そういった意味では、もうすでに子供を持っている人を増やすことも重要ですけど、それ以上に本当は子供を持ちたいのに持てない人たちの経済環境を良くするということが、本質的な少子化対策ではないかなと思います」
現役世代への負担が増える、恩恵がなかなか受けられないということが原因の一つかもしれないということです。
【京都大学大学院 藤井聡教授】 「先ほど若年層の婚姻率が重要だと申し上げました。若年層の婚姻率に影響を及ぼしている要因は何かというと、所得なんです。所得が低い階層における婚姻率は極端に低いです。所得が高いと婚姻率が高い。従って20代、30代の女性、およびその結婚の対象者であるところの男性の所得が上がれば、確実に子供が増えます。そこを上げないで、むしろ社会保険料を引き上げて彼らの貧困化を加速すると、子どもはもっと減っていくことになると思います」
■控除縮小で高校無償化から外れる世帯も
‐Q:なぜ無償化の対象が大学生なのでしょうか?
【第一生命経済研究所 永濱利廣さん】 「実は高校の無償化は結構進んでいるのですけど、実は一つ問題があって、控除が縮小されることによって、本来であれば縮小されなければ高校無償化の所得制限に入っていたのに、縮小されることによって、高校無償化の所得制限が外れてしまう人も一部出てきます。その部分はきちんと手当てをしないと、高校無償化が受けられない世帯も出てくるので、個別のケアが必要になってくると思います」
【京都大学大学院 藤井聡教授】 「貧困化が少子化の原因だとハッキリ分かっているのですから、国債を発行して、国民から増税とか社会保険料を引き上げて金を吸い上げるとかではなく、まずは政府自身が金を調達して、しっかりとみなさんの所得が上がるような状況にしていけば、子供が増えるわけです。そうなれば、高校にも行くし、大学にも行くので、しっかりお金を稼ぐ大人になったその方々から税金をしっかり支払って貰えればいいわけです。もっと長期的な判断を政府にしてもらいたいと思います」
12月中に閣議決定されるとみられる少子化対策パッケージ、支援の一方で、財源をどう賄うのか、どこまで説明があるのかも含め、注目したいと思います。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年12月8日放送)