みなさんは交通事故で亡くなる人よりも、入浴中の事故で亡くなる人のほうが多いということをご存じでしたでしょうか。これは寒い脱衣所と熱いお湯との温度差で、体に負担がかかる、「ヒートショック」が起きてしまうためです。
今夜、お風呂に入る時に事故が起きないよう、注意すべきポイントを兵庫医科大病院の服部益治医師に聞きました。
■ヒートショックは血圧の急激な変化で起こる
ヒートショックとは急激な温度変化で、血圧が大きく変動し、身体が大きなダメージを受けることをいい、 浴室はそれが起こりやすい場所の1つです。
メカニズムを説明します。
・室内では血圧は安定していて、暖かい部屋から寒い脱衣所に移動します。
・脱衣所では脱衣所で衣服を脱ぐと寒くなるので、体の熱を逃がさないように血管が縮みます。そうすると血圧があがります。
・浴室では脱衣所から浴室に入っても、そのまま気温が低い状態のため、血圧がさらに上昇します。
・浴槽では浴槽の温かい湯につかることで、血管は拡張し、急上昇した血圧が、急激に低下してしまう。
この血圧の急激な変化でヒートショックが起こってしまうということです。ヒートショックの症状というのはどういうものがあるのでしょうか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「血圧が変動しますので、血圧が下がった時にはフラットしてしまうし、今度は逆に血圧が上がると気分が悪い、頭が痛いという症状が出ます。心臓が変にドキドキしてしまうとか、やはり脳とか心臓への影響が一番心配されます」
それで意識を失ってしまって溺れてしまうという事案が多いのですか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「そうですね。お風呂場だと1人で入っている場合がほとんどですので、そこで気を失ってしまうと溺死してしまう。海やプールだったら周りに人がいて、助けてもらえる可能性がありますが、お風呂、1人となると、気が付いた時には、お風呂で亡くなってしまっているという」
■風呂場以外でも注意が必要な「トイレ」、持病がある人も注意
お風呂場以外の場所では「トイレ」にも注意が必要ということです。そしてヒートショックに注意すべき人は高齢者、高血圧、糖尿病を患っている方だそうです。
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「マンションよりも一戸建ての家の場合、トイレの場所が結構北側にあるため、常に温度が低めです。寒い所で排便で力をいれると血圧が上がってしまい、血圧の変動で脳や心臓への影響が出てヒートショックが起こります」
お風呂だけでなくトイレも危ないとなると、家のどこでも起こりうるということです。サウナに入る人も多いと思いますがそれはどうでしょうか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「場合によっては、若い人はいいんですけど、持病を持っている方や高齢者については、かなり体に負担になると思います」
糖尿病の方が危険という理由は何でしょうか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「糖尿病というのは体の血糖値が上がるという病気ですが、実は体中の血管を傷つけていくというのが糖尿病の一番厄介なところです。全身の血管が傷つけられると、脳の病気や心臓の病気、腎臓の病気などがあり、本当に体のいたるところに影響が出るため注意が必要です」
■ヒートショックの予防方法「温度差を大きくしない」
死亡事故に繋がるヒートショックを避けるための予防を紹介します。
・お風呂は、入浴する約15分前から脱衣所と浴室を温める。(脱衣所は、暖房設備がついていなければ、電気ストーブなどで温める。ちなみに浴室も、浴槽のフタを開け、湯気で温めておくのもいいそうです)
・そしてお風呂の入り方は、40度未満のぬるめのお湯に入り、長湯を避ける。
・トイレは室内を電気ストーブなどで温め、暖房便座をONにする
お風呂の温度は40度以上で入っている方が多いと思いますが、 それでも40度未満がいいということですか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「もちろん体に持病がなければ、40度以上でも全然問題ないです」
例えばご高齢の方がお風呂に入るとき、声かけをするなどの対策が必要だと感じます。
【関西テレビ 加藤さゆり報道デスク】
「実は日本気象協会が日本の気象の予測データに基づいてヒートショック予報というものを出しています。これ、覚えておいていただきたいんですけど、ウェブでも検索ができるので、お年寄りがもし一緒に住んでいらっしゃる場合は、伝えてあげるといいですし、遠くに住んでいる場合でも、この地方も今これだよって分かるので、ぜひ教えてあげてほしいです」
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「今日もそのサイトを見ると、京阪神、全てヒートショック警戒になっていました」
■「冬の隠れ脱水」にも注意が必要
ヒートショックには気を付けて頂きたいと思いますが、これからの季節は「冬の隠れ脱水」にも注意が必要だということです。
隠れ脱水とはどのような症状なのか、そして予防について解説します。
冬の隠れ脱水がなぜ起こるのか、まず原因は「乾燥」です。冬場の乾燥で、呼吸や皮膚からも水分が奪われていきます。あまり汗もかかないし、そんなに実感はないです。
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「静電気が起きるのは乾燥しているからで、お化粧の時に肌の乾燥を感じることで、冬場になり、空気や自分の周りが乾燥していることは実感できると思います。また、マスクをすると息が外に出なくなり、マスクの中にこもる分だけ口の中が乾燥しないので、水分を補給するタイミングを逃す形になります」
症状は体のだるさ、食欲不振、頭痛、胃もたれ、便秘などの症状がでます。
脱水というと夏の熱中症などとよく言われますけれども、冬にも気をつけなければいけないのですね。
「隠れ脱水」になりやすいのは、高齢者や子供、女性といった水分をためる筋肉量の少ない人、そして飲酒をする人も注意が必要です。
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「体の中に血液をはじめ体液があります。体液をどこに貯蔵しているかというと、筋肉です。なので筋肉が少ない高齢者、女性、子供は注意が必要です。逆に筋肉が豊富な人は、体に脱水にならない水分を貯められるます。コーヒーや紅茶、お茶などにはカフェインが含まれています。カフェインには利尿作用といって、尿を出す作用があります。アルコールは飲むと血液の循環が良くなり、腎臓にも血液が流れます。腎臓に血液が来ると尿を出してしまいます。なので、アルコールを飲むということは、水分を補給しているというよりも、水分を少なくしている可能性もあります」
■隠れ脱水の予防方法はこまめな水分補給
「隠れ脱水」にならないためにはこまめな水分補給が大事で、起床後もコップ1杯の水を飲むのがよく、また加湿器や濡れタオルを室内に干し、乾燥させないことも有効だということです。
習慣化させるまで時間がかかりますね。
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「厚生労働省のポスターに、寝る前のコップ一杯、起きてすぐのコップ一杯というものがあります。普通に寝ている間にも、息をしながら実は水分を失っています。最低でも400ミリリットルは失っているだろうと言われていますので、寝る前に200ミリリットル飲んで、起きてすぐ200ミリリットル飲むと、寝ている間に失われる分が補給できます」
■倒れる前兆は「胸が苦しい」「頭が痛いか、ぼーっとする」
視聴者からLINEで質問が来ています。
‐Q:脱衣所はどれくらいの温度が望ましいですか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「お風呂の温度が40度であれば、あまり離れすぎても困りますので20度後半ぐらいの部屋にしておくと、血圧の変動が少ないかなと思います」
‐Q:倒れた人を見つけたら何をすべき?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「まず救急車を呼んで、救急車を待っている間も息をしているか、脈があるなどをみていただきたい。脈がなければ家にAEDはないと思いますので、心臓マッサージをして救急車を待ってください。交通事故よりもヒートショックで冬に亡くなる方のほうが多いということですので、救急車をすぐ呼ぶということはしてほしいです」
‐Q:倒れる前兆などはありますか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「血圧が不安定になると、心臓であれば胸が苦しい、脳であれば痛いか逆にぼーっとするかです。前兆はあって、なんか変だなと感じることがあれば、この季節は脳と心臓については意識された方がいいと思います」
‐Q:若い人でもヒートショックになることはありますか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「若い人は体も血管もまだまだ弾力性があり若いので、大丈夫だと思いますが、ただ若い人でも無理な生活をしたりアルコールを取りすぎると当然、血圧の変動も出ます。この季節は体のことを思いやっていただきたいなと思います」
‐Q:ヒートショックと飲酒って関係ありますか?
【兵庫医科大病院 服部益治医師】
「アルコールも適度であればいいのですが、自分を見失うぐらい飲んでしまうと、自分の体がどうなってるか分かってない状態になり、血圧が上がったり、飲みすぎて利尿作用で尿を出して、逆に血圧が下がってしまうこともあります。これからの季節、飲酒するタイミングが多くあると思いますが、自分の体調や限界を推し量りながら、楽しくお酒を楽しんでいただきたいなと思います」
これからが「ヒートショック」、「隠れ脱水」の季節です。 自分自身の予防はもちろんですが、周りの方に声かけなどをしてみんなで注意してくことも大切ですね。
(関西テレビ「newsランナー」2023年11月29日放送)