11月に入り、焼き肉店や高齢者施設など、全国で食中毒が相次いでいます。実は食中毒は夏だけでなく、冬にも発生するリスクがあり、中でも感染力が非常に強い「ノロウイルス」に注意が必要です。これから感染者が増加する季節となるノロウイルス。感染力は脅威的で、意外な感染経路もあるとのことです。細菌学や食品微生物学が専門の、帝塚山学院大学・西川禎一教授に聞きました。
冬に感染が増えるのは乾燥が関係しているのでしょうか?
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「このウイルスの場合、日光であったり、湿度、温度とかの影響を受けますので、冬の方が流行しやすいことになります」
まずノロウイルスの感染経路です。
・便などからの人から人への感染
・加熱が不十分な食品からの感染
・空気感染
人や食品からの感染は知られているかもしれませんが、「空気感染」もあるのですね。
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「ノロウイルスは、昔は『おなかにくるかぜ』とか言われていました。空気感染するようにうつってしまうイメージは昔から知られていたようです。
だんだんと情報が伝わって分かってきました。嘔吐してしまった場合とか、子供の場合だとトイレに間に合わず下痢が漏れてしまうことがあります。便1グラムの中にだいたい数十億から1000億個ぐらいのウイルスがいて、嘔吐物1グラムの中に数千万個のウイルスがいると言われています。そうするときれいに拭いたつもりでも、消毒が不十分であると、乾燥してチリが回ってきます。舞い上がったチリを吸い込むような形で感染する。食べ物だけじゃなく、空気の感染もあります。汚物が出たら“のろのろ”せずにさっさとお掃除してもらいたい。“ノロ”だけに」
西川教授によると、ウイルスが1個~10個体内に入るだけで感染したという研究もあるとのことです。
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「人体実験するわけにはいかないので、正確に何個だったら病気になるかというのは分かりにくいところではありますが、病気になった人が食べ残したかきの中にいたウイルスから逆算して、研究者によっては100個と言う人もいますし、1個と言う人もいると思います。 コロナよりも強いとは必ずしも言えないかもしれないですけれど、1個で感染するとなるとそれ以上強いものはないですよね」
空気感染の場合、飛距離というのはあるのですか?
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「空気感染という場合、ウイルスが空気中に漂ってますから、距離は関係しないです。コロナなんかの飛沫ですと2メートル以内に飛んでいくなどといった話がありますけれど、空気感染は漂っているものを吸い込んでしまうということです」
では、ノロウイルスにかからないための対策です。
・きちんと手洗い ただアルコール消毒は効かないということです。
・食品の十分な加熱 中心温度が80度以上になることが望ましいです。
・トイレはふたをして流す 無症状の人からの拡大を防ぐためにも、普段から習慣づけることが大事だそうです。
日頃の生活で気を付けて対策することが必要です。 アルコール消毒は効かないのですか?
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「コロナとかインフルエンザで、“おまじない”のようにお店に入るときにアルコールをかけていますが、残念ながらノロウィルスの場合はあまり効かないです。コロナについて思い出してもらうと、コロナウイルスって周りに膜があって、そこにトゲが出てますね。あの膜は言うならば油で、アルコールをかけてやると膜がつぶれて、感染力がなくなるんです。ノロウイルスはそんな膜を持っていませんので、その弱点がないです。 (対策は?)強烈な酸化力のある、例えば塩素系の漂白剤で消毒するとか。それから熱が一番確かです。あとはウイルスを殺すよりも洗い流すことを徹底するということです」
無症状の人もいるということですね。
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「私も身をもって体験したんです。研究目的で、研究者仲間と一緒に生ガキを食べてあたってみようとしまして、そうすると発症したのは私だけでした。その時感染したのは3人なんですが、症状が出たのは私だけで、残り2人はピンピンしていたんです。くわしい原因は不明ですけど、必ず症状が出るわけではないです」
家族など身の回りの方がノロウイルスにかかってしまったときの正しい処理方法です。
・髪をとめたり、マスクや手袋をするなど身を守ってから、ペーパータオルで静かに拭き取る
・拭き取り後、塩素系漂白剤を薄めたものでさらに拭き取る
・窓を開けて換気しながら処理する
空気感染もあるということで、換気は大事ですね。
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「不特定多数の方が使うようなトイレの場合ですと、できれば換気扇を回していただきたい」
「塩素系漂白剤ですが、500ミリリットルのペットボトルのキャップがだいたい5ミリリットル入るんです。キャップに漂白剤の原液を取って、500ミリリットルの水で薄めればちょうど100倍になります。塩素系漂白剤にもいろいろありますが、100倍ぐらいの薄め方でだいたい有効な濃度に入ってくるでしょう」
小さな子供がいるといろいろ気になりますが、嘔吐物などがあった場合、しっかり処理した方がいいということでしょうか?
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「子供さんの場合ですと、これからノロだけでなく、年が明けたらロタウイルスなんかも流行してきます。やっぱり便や嘔吐物の中のウイルス量は極端に多いので、注意していただきたいです」
例えば嘔吐物が衣服についたとき、色ものですと塩素系漂白剤で変色が気になりますが、どうしたらいいのでしょうか?
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「そういった時は加熱していただくのが一番いいので、昔は衣服類を煮沸して消毒することがありました。一番確実なのは煮沸ですね」
子供が治ったらすぐ学校に通ってもいいですか?
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「法律的には、ノロウイルスの場合、症状がなくなったら登校禁止期間というのはありません。菌はまだいるかもしれないので、手洗いだけはちゃんとするように子供に言っていただけたらと思います」
あと視聴者から質問です。家族が感染したら隔離した方がいいのですか?
【帝塚山学院大学 西川禎一教授】
「大人の場合、きっちりと嘔吐物とか便の始末をしますよね。大人のようにちゃんとトイレに行って始末できる場合であれば、隔離までしなくてもいいと私は思います。コロナのように呼気中にどんどん、せきと飛沫で出てるわけじゃないので、隔離までそう極端な対策はいらないですね」
これからノロウイルスが流行する季節ですので、皆さんできる範囲で対策をして、気を付けていただきたいと思います。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年11月22日放送)