「国の救済制度の対象外は不当」と近畿などに住む128人が訴えた裁判で、大阪地裁が原告全員を大阪地裁が水俣病と認定し、国、熊本県、原因企業「チッソ」に賠償を命じた判決を不服として、熊本県が控訴しました。10日午後4時半過ぎ、熊本県の蒲島郁夫知事が明らかにしました。
また、国も控訴しました。
熊本県や鹿児島県出身で水俣病の症状がありながら国の救済制度の対象外となっていた近畿などに住む128人は、救済されないのは不当だとして、国、熊本県、原因となったメチル水銀を排出した企業「チッソ」に慰謝料を求める裁判を起こしていました。
大阪地方裁判所(達野ゆき裁判長)は2023年9月27日、居住地域や生まれた年代で救済対象かどうか線引きした「水俣病特措法」の基準に合わない人や、期限までに申請できなかった人、全員を水俣病と認め、1人当たり275万円、あわせて3億5000万円あまりの損害賠償を国や熊本県、チッソ(一部の原告はチッソのみ)に対し、命じました。
国は9月27日の判決について、「判決の内容について精査し、関係者と協議しつつ、対応を検討してまいります」と、熊本県も「判決内容を精査した上で、対応について検討して参ります」とコメントしていました。
被告のうち、原因企業のチッソはすでに控訴しています。
同様の裁判は大阪に加え、東京、熊本、新潟でもあわせて1700人余りの原告が提訴していて、9月27日の判決は初めての判断でした。 2024年3月には熊本地方裁判所でも判決が言い渡される予定です。
■国や熊本県は「これまでの最高裁での判決などと相違がある」
環境省は控訴理由を発表しました。毛髪中のメチル水銀値が、WHOが公表している神経の障害を発症することがないレベルを下回る場合や、魚介類を食べてから発症までの期間が通常の範囲を超えている場合にも、地裁判決は水俣病の発症を認めていることなどから、これまでの最高裁の判決など相違するとして、上訴審の判断を仰ぐ必要があるとしています。
また熊本県は「最大の争点である水俣病の罹患について、今回の判決で示された考え方は過去の最高裁で確定した判決党と大きな相違があると判断しました」などと控訴の理由を明らかにしました。
なお、大阪地裁は9月27日の判決で、毛髪中のメチル水銀量と発症との関係について「新潟や水俣での調査で、毛髪中のメチル水銀量がWHOの基準を下回る場合であっても、症状を示す人の割合が高かったことなどから、低い濃度のメチル水銀に長期にわたり曝露することによって水俣病を発症する可能性を否定することはできない」と指摘しています。また、発症までの期間については「複数の研究に基づき、曝露が終了した後数年またはそれ以上の長期間が経過してから、水俣病の典型的な症状が出る場合が少なくないことが報告されている」として「遅発性水俣病の存在を示す」と判断しています。
■原告は「一刻も早い解決を」
国と熊本県の控訴を受け、原告側は会見を開きました。 原告の一人、前田芳枝さんは「私たちを切り捨てにした国、熊本が控訴したことに怒り心頭です。原告は高齢となり、裁判中に亡くなった人もいます。一刻の猶予もありません。環境大臣にも被害者に寄り添ってほしかった。死ぬのを待っているのかと思われてならない。一刻も早い解決を願っています」と述べました。
(関西テレビ 2023年10月10日)