ハワイ・マウイ島の“大規模火災”から1カ月 家をなくした日本人がラーメン店再開 「メモリアルパドルアウト」で犠牲者悼む 行政と電力会社が責任問題で“対立”も 2023年09月24日
8月、ハワイ・マウイ島で大規模な山火事が発生。97人が犠牲になりました(9月20日放送時点)。被害を受けた地域は今も立ち入りが制限されています。あの日一体何が起きたのか、その真相に迫ります。
日本時間の8月8日、ハワイ州マウイ島で起きた山火事がハリケーンの突風でいっきに燃え広がり、かつてハワイ王国の首都が置かれた市街地・ラハイナは壊滅的な被害を受けました。煙で先が見えない中、炎の中を車で必死に逃げる人や、迫りくる炎から逃げようと海に飛び込んだ人も多くいました。
【海に10時間以上いた人】
「(海に)10~12時間ぐらいいた。建物が燃えていて、すぐ近くの海の中にいた」
これまでに97人の死亡が確認されましたが、連絡がとれない人の捜索が今も続いています。多くの犠牲者が出た8月8日に一体何があったのでしょうか。
■日本文化も根付くラハイナ 変わり果て…
約16万人が住むマウイ島は日系人も多く、収益の7割が観光産業となっています。ラハイナの町は特に観光スポットとして歴史情緒ある街並みが人気で、日本の文化も根付いている場所です。しかしラハイナの町は山火事で大半が焼き尽くされ、7500人以上が避難生活を強いられています。
【記者リポート】
「あたりに広がる住宅はすべて焼けてしまっています。こちらの電柱は崩れ落ちて電線が垂れ下がっています」
島に訪れる観光客は以前の半分以下になり、観光業で働く人を中心に1万人以上が失業しています。山火事で被害を受けた一帯は今も立ち入りが制限され、自宅の状況を見に行くことすらできない住民も多くいます。自宅が全焼した浅川さん家族。火災から1週間後、焼けたラハイナの町に初めて入りました。
【淺川明海さん(20)】
「(町の)上のほうも残っている。よかった…学校も残ってる」
しかし町の中心部に行くと…
【淺川明海さん】
「すごい、燃えた臭いがする」
【母・かおりさん】
「ラハイナにはゆっくり入れなくて、家には入れなかったけれど。景色は見ることができました。変わり果てていました」
火事が発生した時、娘の明海さん(20)は、自宅に一人で過ごしていました。
【明海さん】
「家でヘッドフォン着けてゴロゴロしていたら、音が聞こえてなくて、外が煙だらけになっていて。隣の人も『早く逃げろ逃げろ』って、急いで鍵とバックだけを持って逃げた」
明海さんはすぐに車で逃げましたが、渋滞でなかなか前に進めませんでした。日が暮れていく中で電波塔も焼け落ち、電話もインターネットもつながらなくなっていました。そしてラハイナを脱出して翌日、ようやく家族と再会できました。
【明海さん】
「火が落ち着くのを待っていた所も全部燃えていました。残っていたらだめだった…」
■大切な家族を失った人の悲しみ
町を焼きつくした山火事は、多くの尊い命を奪いました。残された家族が胸の内を明かしてくれました。迫る火の手から逃げ遅れ、両親や兄弟、7歳のおいが亡くなったといいます。
【遺族】
「私たちは本当においを恋しく思っているし、私達の両親も。私の両親は、愛情深い両親です。私たちのために一生懸命働いてくれた」
焼け焦げた車は、自宅からわずか1ブロック先で見つかりました。
【遺族】
「実際にきちんと調査をして、誰のせいなのかわかっていないのに責任をなすりつけることに意味はないと思う。今はただ、両親と妹とおいを安らかに眠らせてあげたい」
■燃え続けた町 山火事の原因・責任は
なぜ、これだけ被害が広がったのか。火災の原因を巡って当事者たちが争っています。
地元自治体のマウイ郡は、ハリケーンによる強風や干ばつの影響で火災が発生しやすいと警告していたにも関わらず、電気を止めていなかったことなどが大火災につながったとして、電力会社を訴えています。
一方、電力会社はラハイナの中心部に壊滅的な被害をもたらした大火災について、発生する数時間前には電気を止めていたと反論。調査が終わる前に訴訟を起こしたマウイ郡を「無責任だ」と批判しています。
火元とみられる場所のすぐ近くに住む人は、当時、風が強く吹いていたと話します。
【近くに住む住人】
「あの電線はこっちに来たんです。1本はこっち側に落ちました。そして、電線の1本が木にあたって燃えた」
8月8日午前6時48分に撮影された映像には、住宅の脇の草が燃えている様子が映っています。
【記者リポート】
「近所の人によると、早朝に発生した火災は正午ごろには火が消され、消防が撤収していたということです。しかし、午後3時ごろには再び煙が出始めたというのです」
8日午後3時すぎ。正午ごろに消し止められたとされる火災のわずか数百メートル先で、再び煙が出始めました。強風にあおられ、煙が住宅のある方へと向かっていきます。午後4時過ぎには黒い煙へと変わってゆき、住宅付近から赤い炎があがり始め、午後7時ごろには、住宅地一帯が炎に包まれていました。
【近くに住む住人】
「100%鎮火したわけじゃなかったと思う。(消防は)ここに残って、この火事を見ておくべきだった。この部分は完全に鎮火したとしても、岩の下とかにまだ燃えかすや火が残っていると、風が吹いて再燃することもある」
消防と消防を管轄するマウイ郡に、最初の火災で発生した火が完全に消えていなかったのではないかと問い合わせましたが、マウイ郡は「調査が完了するまで質問には答えられない」とコメントしました。
さらにこの山火事をめぐっては、当時危険を知らせる警報のサイレンが鳴らず、住民の避難が遅れたことも問題視されていますが、マウイ郡の責任者は体調不良を理由に辞任しました。この町で何があったのか、真相の究明が求められます。
■復興への長い道のり…生き残った被災者は懸命に歩んでいく
9月8日に行われたのは、ハワイの伝統的な追悼式「メモリアルパドルアウト」。マウイ島の海で、数百人のサーファーたちが沖に出て水しぶきを上げ、山火事で死亡した人たちを追悼しました。
山火事から命からがら逃げてきた浅川さん家族も新たなスタートを切りました。1年前までマウイ島でラーメン店を開いていた浅川さん。中断していた営業を再開しようとした矢先に今回の火災で自宅が全焼しました。調理器具をすべて失いましたが、知人などが募った寄付で再び店を始めることができました。
【客】
「戻ってきてくれてうれしい。調子はどう?」
【浅川かおりさん】
「ゆっくり元に戻っているよ」
【客】
「ゆっくり立ち直っているの?」
【浅川隆さん】
「こんなに早く(再開)できるとは思わなかった」
【浅川かおりさん】
「ラハイナが早くみんなが笑いあって明るい街になるように、私たちも一生懸命笑顔でがんばれば、周りに伝わって一番に元気を出して進んでいきたいと思っています」
多くの犠牲者を出したハワイ・マウイ島の大火災。生き残った被災者は、長い復興の道のりを懸命に歩んでいきます。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年9月20日放送)