36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件。事件で命を奪われた犠牲者の家族が見つめる中、5日、裁判が始まりました。起訴内容を認めた青葉被告の姿は、遺族にどう映ったのでしょうか。
5日午前10時過ぎの京都地方裁判所。
【記者リポート】
「青葉被告を乗せたとみられる車が、京都地裁に入っていきます」
平成以降、最も多くの犠牲者を出した放火殺人事件の被告となった青葉真司被告(45)。4年前、京都市伏見区の京都アニメーションの第1スタジオにガソリンをまいて放火し、36人を殺害した罪などに問われています。自身も全身の9割以上にやけどを負い、今もやけどのような跡が残る青葉被告は、5日車いすを押され、法廷に現れました。
■事件で妻を亡くし息子と2人で生きてきた夫
この裁判に特別な思いで臨む遺族がいます。事件で犠牲になった、寺脇(池田)晶子さんの夫です。晶子さんは、人気アニメ作品「涼宮ハルヒの憂鬱」のキャラクターデザインを手がけるなど、京アニを代表するアニメーターでした。
晶子さんの夫は、事件以降、息子と2人で支え合って生きてきました。裁判では「被害者参加制度」で、青葉被告に直接質問をする予定です。
【寺脇(池田)晶子さんの夫】
「おとつい、お供え替えて、その時に『火曜日から(裁判が)始まるよ』って。いろいろきちっと話してほしいって、それがもう切実なお願いかな」
裁判に参加する決心をした背景には息子の存在がありました。
【寺脇(池田)晶子さんの夫】
「大人はいいですよ。癒やす方法も分かるし。まだできない子って、もがき苦しむんですよ。子供の気持ちを少しでも楽にしてやるためにも、どっかでけじめをつけられるようにしてあげないとあかん。子供からも聞いてきてって言われてることでもあるんですけど『なんでこんなことしたん』って」
■娘をうしなった父は裁判前に他界 母が一人残される
覚悟を持って臨む裁判。しかし、この場に来ることができない遺族もいます。事件で犠牲になった石田奈央美さん(当時49)。22歳で京都アニメーションに入社し、数々の作品の「色彩設計」を担当していました。
【石田奈央美さんの父】
「(娘は)うちの宝。大黒柱。私らを支えてくれた大事な大事な命でした。つらいけど、思い出すだけでも泣けてきます」
奈央美さんの父は裁判で「真相を知りたい」と願っていましたが、8月、この世を去りました。
【奈央美さんの母】
「(裁判)行きたいって言ってた。そんで一緒に行こうなって言ってたんやけど、そんなところやなくなってしもうた。警察には『私ら年がいってますし早いこと(裁判を)してほしいんです』って言ってた。どうしようもないけどね。私らとしては早くしてほしかったけど、もたへんかったな、お父さん」
■初公判 青葉被告は「私がしたことに間違いありません」
一方、この事件で孫を亡くした遺族は取材に対し、「裁判に行きたい気持ちはゼロではないが、被告の様子を直接見たり、声を聞いたりするのも耐えられない」と話しています。
犠牲になった人々の家族は、それぞれにさまざまな思いを抱えて迎えた初公判。 寺脇さんを含め、遺族が傍聴する中、裁判長に起訴内容について聞かれた青葉被告は、小さいながらもはっきりとした口調で話し始めました。
【青葉被告】
「私がしたことに間違いありません。こうするしかないと思ったが、こんなにたくさんの人が亡くなるとは思っていませんでした。現在は、やり過ぎたと思っています」
青葉被告が行為を認める一方で、弁護側は、「心神喪失で無罪、または心神耗弱で減軽されるべき」と主張しました。
午後に検察側が犯行の詳細などを示し寺脇(池田)晶子さんの名前や死因が読み上げられると、傍聴席で聞いていた晶子さんの夫は、無言で天井を見上げました。
途中退席した遺族もいた中、証拠調べは予定の時刻まで続けられ、午後4時ごろに閉廷しました。
■「『青葉さんなんでこんなことをやってしまったの』とみんなで目を向けて」
午後5時ごろ
【寺脇(池田)晶子さんの夫】
「青葉さんを初めて見た時、法廷に入った時、僕も分からないですけど、なぜか、涙が出てきました。(青葉被告は裁判に)積極的には参加していこうかなと思っている印象です。だから投げやりな感じではなかった。量刑だけに興味を持つんじゃなしに、『青葉さん、なんでこんなことをやってしまったの』ということに、みんなで目を向けてほしい」
裁判は最大32回、およそ140日間におよび行われます。遺族の疑問に答える言葉は、青葉被告から出るのでしょうか。