お客さんを温め続けて72年 京都・綾部市で唯一の銭湯「一の湯」 長年常連客に愛される 老朽化で多額の修繕費用…お店を畳むことに 2023年09月01日
京都府の北部、綾部市の銭湯「一の湯(いちのゆ)」。常連客でにぎわう綾部市で唯一の銭湯です。しかし、6月末をもって店は閉じることになりました。
■京都・綾部市で唯一の銭湯「一の湯」 長年常連客に愛されるも…
番台に立つのは、長尾ひとみさん(68)。常連客から「おかあちゃん」と呼ばれています。
【常連客】
「お母さんの顔を見に。こじんまりしていい雰囲気ですよね」
「たまにしか来ないのにいつも愛想良く接してくれる。すごく居心地の良い銭湯でした」
店の奥の窯で風呂を沸かすのは、夫の長尾輝雄さん(67)です。
【長尾輝雄さん】
「きょうはまだ涼しい方ですけどね。これが夏になったら地獄です」
毎日、風呂の温度が下がらないよう、見守り続けています。
「一の湯」は、1951年にひとみさんの父・甚之烝(じんのじょう)さんが創業。井戸水を沸かした風呂で利用者を温めてきました。
父から受け継いだ後も、40年以上店を続けてきた2人。
【長尾ひとみさん】
「2人で仕事をやり始めてからは、ほとんど一緒にご飯を食べたことない。昼の間に昼ご飯を作りながら夜の分も作って」
【長尾輝雄さん】
「どうしても親父の意向として、最後まで一軒は綾部市に残さないかんのやと言っていたので、親孝行したと思ってやってきました」
■客を温め続け72年 老朽化が進み…多額の修繕費用かかるため畳むことに
しかし、「お客さん第一」で続けてきた店も老朽化が進んでいました。
【長尾輝雄さん】
「修理は無理ですね、取り替えるしか…500万ないし600万はかかってくると思います」
多額の修繕費がかかることから店を畳む決意をしたのです。
店のいたるところに長年の営業の名残があります。お客さんを温め続けて72年…脱衣場を掃除しているひとみさん。
【長尾ひとみさん】
「これ(マッサージ機)72年前です。ここに(硬貨投入口)10円入れてもらったらちゃんと動きます」
閉店を知った常連客がお花をもって「母の代からお世話になってありがとうございました。悲しいけどほんの気持ちだけ」とあいさつにきます。
【常連客】
「ここに来たら僕らの友達もおったし、怒られたこともありますしね。ばしゃばしゃやって、お湯掛け合いして『ちょっと静かに入ってな!』って(怒られた)」
【別の常連客】
「朝からここに来るまで一言もしゃべらない。一人暮らしだから。ここに来てやっとどこの誰か分からない人と裸のお付き合いで快く話せる。そういう場所になっていた。コミュニケーションをとれる」
先代から受け継いだ大事な地域の役割。最後の日までまっとうします。
■「ほぼ実感ない」いつもと変わらず迎えた“最期の日” 常連客「寂しい…」
最終日、2人はいつも通り、風呂を沸かして開店の準備をします。
–Q:最後の日ですけどどうですか?
【長尾さん夫婦】
「ほぼ実感がないよね」
「そうそう」
「毎日のことなので実感はないよね。とりあえずいつもより掃除を念入りに」
大勢の利用客が、次々と訪れます。
【常連客たち】
「寂しい、ほんまに寂しいよ…お父ちゃんとよく来ていたから、子どもの時に」
「何もないんやけど、ここにしかないものがある」
【長尾ひとみさん】
「お風呂関係なしでこういう場って絶対必要やなって思いますね。ほんとお客さんにはありがとうで感謝でいっぱいです」
地域を温め続けた銭湯が愛されながら幕を閉じました。
(取材:関西テレビ報道センター 犬伏凜太郎)