【現地取材】 国土の4分の1が海面よりも下 “水害”と隣り合わせの中で磨かれた最新技術 「循環型社会」目指すオランダ 万博でお披露目される「世界一の冷暖房システム」とは 2023年08月10日
開幕まで2年を切った大阪・関西万博。
準備が進む一方で、“万博の華“ともいえる海外パビリオン建設の遅れが懸念されています。そんな中、大阪市に建築許可の申請をするため、今、まさにコンセプトを詰めているオランダの最新事情を取材しました。
キーワードは「循環型社会」です。
今回、「再利用してつくる建物」、「エコな農業」、「快適に過ごせる再生可能エネルギー」の3つの技術について取材することができました。
大阪での万博を見据えて、オランダが目指す「循環型社会」とは、どのような技術が使われているのでしょうか。
日本から飛行機で15時間以上、離れた場所にあるオランダは、ヨーロッパのなかでもベルギーとドイツの間に位置しています。九州ほどの大きさの国土に、1700万人が暮らしています。海抜よりも低い土地が多く、大部分が平地のオランダは、自転車大国としても有名です。人よりも自転車の方が多いとまで言われています。
■資材不足も心配ナシ「循環型!再利用してつくる建物」
まず、「循環型の再利用してつくる建物」とは、いったいどんなものなのでしょうか?
やってきたのは、電力会社の本社ビルです。
【記者リポート】
「オランダパビリオンのデザインを担当する「RAU」という建築事務所の責任者の方たちです」
【「RAU」創設者 トーマス・ラウさん】
「こんにちは。ようこそ!カメラを持っているのですか?小さいカメラですね。(のぞき込んで)どこのブランド?日本製ですか?」
あいさつして早々、記者が持っていた小型カメラに興味を示したのは、「循環型建築」のパイオニアとして知られるトーマス・ラウさんです。今回の万博で、オランダパビリオンのデザインを手がけることになった一人です。
オランダが目指す“循環型の建物”とは…?
【「RAU」創設者 トーマス・ラウさん】
「使用されなくなった、古い建物の82%の資材を再利用して新しく建て替えました。つまり、“価値のない建物”とされた82%が新しい建物に生まれ変わったと言えるのです」
循環型建築とは、再利用することを前提に造られる建物のことです。
建物自体を「資材の倉庫」と捉え、使われている資材はすべて登録されていて、建て替える時に再利用されます。
壁一面に木材が使われている建物の木材は、もともと電気ケーブルを巻き付けていた木製のドラムを利用していて以前は捨てられていました。また、絶縁体をオフィスのランプの傘に、変圧器を観葉植物のケースに再利用しています。
【「RAU」創設者 トーマス・ラウさん】
「2050年には、不動産の数が4割増加すると言われているにもかかわらず、資材の量は限られています。大阪でも同じ問題が起きています。パビリオンを作るための資材を探すのに苦戦しています。すでに大きな問題となっているのです」
オランダのパビリオンに使われる資材も、限りある貴重な資源です。万博が終わっても、100%再利用できる資材を使うための選定が進められています。循環型で造られるオランダのパビリオンはどんなものになるのでしょうか。
■99.8%捨てるハズのものが「循環型!エコな農業」
続いて、「ほとんど捨てるハズのものが『循環型のエコな農業』」と、いうことですが…?
―Q次はどこに向かっている?
【オランダ企業庁プロジェクト・マネジャー シャーロット・バズインさん】
「ロッターツワムという農園にいきます。完全に“循環”していますよ」
やってきた先は、駐車場の一角にオフィスを構える企業「ロッターツワム」。
農園を見せてくれるというのでついていくと、畑ではなくコンテナでした。その中には無数にポリ袋が並んでいました。よく見てみると…ヒラタケが栽培されていました。
これの一体、何が“循環型”なのかというと…、ヒラタケが生えている土壌が、普段なら捨てられるハズのものでできているからです。
【ロッターツワム創業者 マーク・スリーガーズさん】
「これがコーヒーの残りかすだよ。 一杯のコーヒーを入れると99.8%が廃棄物になるんだ。僕たちは、レストランや大企業からこれらを集めて混ぜるんだ。ヒラタケの素材を加えると、このように育つんだよ」
ヒラタケは、コーヒーかすの栄養素だけを吸収するので、コーヒーのにおいも、カフェインも一切ありません。
さらに、このコーヒーかすを回収するシステムにも工夫があり、実は、レストランやオフィスなど30社がお金を払ってコーヒーかすを回収してもらっているのです。オランダでは、持続可能な経営をする企業のほうが高い評価を得られるため、廃棄物を出している会社は、この“循環型”の取り組みに積極的に参加しています。
【ロッターツワム創業者 マーク・スリーガーズさん】
「自然は全てが循環しているので、廃棄物が生まれることはありません。廃棄物は人間が生みだしているのです。だから、地球とバランスをとるためには、自然の循環システムからインスピレーション(発想)を得なければならないのです」
■省エネ効果バツグン!「循環型!快適に過ごせる再生可能エネルギー」
【記者リポート】
「オランダが誇るエコな冷暖房システムが使われる大学にやってきました。万博でも使われるそうです」
オランダは帯水層蓄熱システムの世界一の技術を誇ります。ハーグの大学では実際に冷房として使われています。
【ハーグ応用科学大学ATES管理者 ジェラルド・ウィレムセさん】
「この建物は9万1000平方メートルで、非常に大きい。毎日、およそ10,000人の生徒と教師が中にいます。私たちが作った冷房システムで、十分まかなえています」
帯水層蓄熱システム(ATES)とは、帯水層にある地下水を使うエコな冷暖房システムのことです。
夏には、この地層から冷たい地下水をくみ上げて、冷房に利用して、冷たい熱を奪われた地下水は、温まった状態で地中に戻ります。そして冬になると、今度は温まった地下水をくみ上げて、暖房に利用します。暖かい熱を奪われた地下水は、冷えた状態で地下に戻り、次の夏に利用します。
このように、地下水を循環させることで、燃料コストを抑えて、地球にやさしく快適な空間を作り出しているのです。
この技術に日本で最初に目を付けたのが大阪市でした。
【大阪市環境局エネルギー政策担当 河合祐蔵部長】
「われわれの大都市の足元にはそのポテンシャルがとても大きかったので、これを使わない手はないと」
連日続く、大阪の暑さに対してオランダの技術は冷房時に出る熱を地下に閉じ込めてしまうため、都市部ほど気温が高くなる「ヒートアイランド現象」の緩和にもつながり、ビルが立ち並ぶ大阪市にぴったりでした。
その後、オランダから技術協力を得ながら、うめきた2期の建設予定地や舞洲で実証実験を進めた結果、くみ上げた地下水を全て地中に戻すことで地盤沈下の危険がないことも示されました。
この循環型の再生可能エネルギーの技術は万博でお披露目されることになります。
「循環型社会」を目指すオランダ。 国土の4分の1が海水面よりも下にあり、昔から水害と隣り合わせの状況で、協力して生き抜く術を模索してきました。
【オランダ企業庁プロジェクト・マネジャー シャーロット・バズインさん】
「オランダは小さな国で、私たちだけでは、持続可能な開発目標を達成できません。一人で世界は変えられません。世界を変えるには、同じようなアイデアを持つ多くの人々が協力しなければならないのです」
万博には、150の国や地域が、地球の未来のために、たくさんのアイデアをもって結集します。
(関西テレビ「newsランナー」2023年8月9日放送)