私学側も合意 高校授業料「完全無償化」 しかし「公立高校」には課題が 取材記者が解説「廃校続きで選択肢が狭まる。私立に行っても授業料以外の負担が」 自由に高校を選べる社会とは 2023年08月09日
大阪府の吉村知事が掲げる高校授業料の「完全無償化」案について、私立高校と知事との初めてとなる会合が9日に開かれました。大阪府が示していた修正案について、私学側も合意しました。
授業料完全無償化の案をめぐっては、今年5月に大阪府が素案を発表しましたが、私立高校の負担が現在よりも増える案だったため、私立高校などが反対の声を上げてきました。これを受け、吉村知事は補助する授業料の上限を引き上げ、教員の人件費などにあてる経常費助成を増やす修正案を発表していました。
大阪府と私立高校側の間で授業料の「完全無償化」案については合意に至りましたが、これからの大阪の教育環境はどういった方向に進んでいくのか。取材を進めている大阪府政担当の井上記者に話を聞きました。
【関西テレビ 井上真一記者】
「高校授業料の完全無償化に関しては、私立高校の負担が増えるという点がクローズアップされてきました。しかし公立高校を含めると、また新たな課題が見えてきます。大阪府の公立高校というのはこの10年間で、統廃合が進められてきました。『3年連続定員割れ』かつ『その状況が改善の見込みがない』高校というのが統廃合の対象となってきました。2014年からこの制度は始まりましたが、すでに17校の募集停止が決まっています。この間、私立は96校あったものが1校増えて97校になっている状況です。今後2027年までに大阪府内の公立高校は9校が募集停止が計画されています」
「公立高校と私立高校に通う子どもの数の割合は、2010年頃には7対3だったものが、現状6対4になって、私立高校が4で、少し増えているという状況があります。『私立はタダになるからいいじゃないか』という声があると思いますが話はそう簡単ではありません。今回はあくまで授業料が無料になる制度です。私立高校は入学金だけで平均約20万円かかります。公立高校だと入学料として5000円台で済みます。また、タブレットも公立高校は無償で貸与されますが、私立高校は買わなければなりません。修学旅行も公立よりも私立の方が海外に行くこともあるので高くなります。所得制限がある今までの無償化制度の中でも、私立高校の校長先生に聞くと、すでに『修学旅行にお金ないので、僕は行きません』というような生徒がいるという現状があります」
「私立高校は、関係者によると年間50万円ほど費用がかかるそうです。授業料を除いた額では合計3年間で150万円かかります。公立高校は授業料なども含めて年間で約10万から13万で、3年間で30万から40万円の負担だそうです。所得があまり多くない世帯の子どもの中で費用面から私立学校に行けず、選択肢が狭まっているという状況があります」
「吉村知事は教育無償化を実施するにあたって、『大阪の子どもが所得に関係なく、自由に高校を選べる社会を実現する』と掲げていますが、大阪の高校事情に詳しい大阪大学の高田一宏教授に話を聞くと、『公立高校がなくなった地域もある。地域に通える学校があるかという側面から見ると事実と反するのではないか』と指摘しています。そのことについて会見で吉村知事に聞くと、『私の掲げる理念は、100%できるかどうか分からないけれども、この制度によって近づく。公立高校も特色ある学校づくりを進めていくべき』と話していました」
―Q:公立高校の教育の底上げに注力するという選択肢はなかったのでしょうか?
「今、廃校になっている学校は、どちらかというと偏差値では下の方に位置する学校が対象となっています。大阪府はエンパワーメントスクールという、そのような子どもたちが通える学校を都市部に設置していますが、学校まで距離があるため通うことができない子どももいるという話を学校関係者から聞きました。大阪大学の高田一宏教授によると、公立高校は人口減少社会の中で校舎などの維持費や人件費もかかる。一方で、私立はこの補助金で計算はできるので、行政としても支出額を読みやすいのではないかと話しています」
(2023年8月9日 関西テレビ「newsランナー」放送)