安倍元首相銃撃から1年 旧統一教会と政治家の関係は断ち切られたのか 地方議員と教団の関係こそ深刻との指摘も 教団トップとみられる人物「私を救世主だと理解できない罪は許さない」 2023年07月10日
安倍元首相銃撃事件の後、次々と浮かび上がったのが、旧統一教会と政治家が深く関わっていたという問題です。事件から1年、本当に関係を断ち切ることができたのでしょうか。
6月28日、世界平和統一家庭連合(=旧統一教会)が韓国で行った幹部の会合。教団トップ・韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁とみられる人物が、岸田総理への批判を展開しました。
【韓鶴子総裁とみられる音声】
「今の日本の政治家たちは、我々に対して、何たる仕打ちなの。家庭連合を追い詰めているじゃない。岸田を呼びつけて、教育を受けさせなさい!」
この日の会合には、日本の幹部も出席していて、韓総裁とみられる人物はこう続けました。
【韓鶴子総裁とみられる音声】
「私を救世主だと理解できない罪は許さないと言ったのに、その道に向かっている日本の政治はどうなると思う?滅びるしかないわよね。あなた(信徒)たちの運動は国を生かす道だ」
【信者】 「万歳!」
激しい批判の矛先を、日本の政治家に向けているのは、日本政府が教団に対し6度にわたり「質問権」を行使しているからです。政府は高額な献金の強要や霊感商法の問題について、宗教法人法に基づき実態を調査していて、今後、解散命令に該当するかどうか判断する見通しです。
銃撃事件の後、次々と明るみに出たのが、旧統一教会と政治家の“深い関わり”です。
【山本朋広元防衛副大臣 2017年5月】
「本当に皆さまには、我々自民党に対して、大変大きなお力をいただいていますこと、改めて感謝を申し上げたいと思います。マザームーン(韓総裁)にカーネーションの花束をプレゼントさせていただきました」
旧統一教会は選挙活動を手伝ったり、政治家をイベントに招いたりして、関係を深めていたとみられます。
■旧統一教会元2世信者 「『秘書にならないか』と教会から人選される」
「旧統一教会の元2世信者」として幼い頃から信者たちの政治活動を近くで見ていた男性(30代)が、関西テレビの取材に応じました。現在はバーチャルユーチューバー(Vチューバー)として旧統一教会の問題について発信しています。
【旧統一教会元2世信者Vチューバー もるすこちゃん】
「小学校低学年ぐらいの頃に、親と一緒に政治家のビラをまいたりポストに入れるっていうことはやった記憶がある。統一教会が組織的にこの人応援しますと決めたら、じゃあその人は善なる人なんだということで応援してます」
政治家が教団のイベントに参加することは、特別な意味がありました。
【旧統一教会元2世信者Vチューバー もるすこちゃん】
「熱心に信仰を持ってる信者が拍手して喜んでいる。政治家がイベントに出て祝辞を述べることで、信者たちは私たちの統一教会、統一運動は素晴らしいことをやっているんだと、信仰を強化して献金をどんどん払ってしまう。結果的に統一教会は収入が上がるという構図」
20代の時には、政治家の秘書を養成するイベントに参加しました。
【旧統一教会元2世信者Vチューバー もるすこちゃん】
「例えば『秘書にならないか』と旧統一教会の担当の人から人選されて、何回か実際に議員の秘書をやっている信者が講師になって講義を受けたり。同じ時期に秘書の養成講座に別の地域で入った人が、実際に私の身近なところで議員の秘書をやっているということはあります。秘書として議員に近寄っていって、そこから信頼関係をつくって、旧統一教会との関わりを持つ議員に仕立て上げようという目的だと思う」
■自民党は「旧統一教会との関係を持たない」と運営方針を決めたが…
自民党は去年秋、議員と教団との関わりを調査すると共に、「旧統一教会との関係を持たない」という新たな運営方針を決めました。その後、教団との関係に変化はあったのでしょうか。
【自民党関係者のコメント】
「統一教会側からアプローチがなくなった。政治家と関わることで迷惑をかけると分かっていると思う。向こうから支援の話をしてくることがない」
【自民党関係者のコメント】
「先生に迷惑がかかってはいけないので、『我々は離れさせてもらいます』という話があった」
取材では「関係が切れた」という声があるものの、男性は自民党の調査自体に懐疑的です。
【旧統一教会元2世信者Vチューバー もるすこちゃん】
「(自民党の調査は)不十分です、不十分過ぎます。このまま解散命令が出ない状態で、旧統一教会と政治の関係がうやむやになるのが一番恐れています」
特に深刻なのは地方議会だと感じています。男性は報道などをもとに、全国の知事と議員約3800人の教団との関わりを調査。世間の注目が低い地方にも関係を持つ議員が多くいることが分かりました。
【旧統一教会元2世信者Vチューバー もるすこちゃん】
「地方議員は本当に少ない票数で当選することができます。今でも統一教会との個人的なつながりがある人は大勢いるんじゃないかな」
■地方議員と宗教の関係はより深刻との指摘も 信者であることを公表した徳島市議会議員にインタビュー
なぜ関係が絶ちきれないのか、身をもって実感している地方議員がいます。徳島市議会の美馬秀夫議員(73)。旧統一教会に入信してから50年がたつ、現役の信者であることを事件を機に公表しました。
【徳島市議会 美馬秀夫議員】
「世間が朝に晩に統一教会ばかりテレビで言われまくって、悪の権化みたいになって、これは厳しいですよ」
美馬議員はこれまで自民党の公認を受けていましたが、教団との関係断絶宣言を受けて、ことし4月の徳島市議会議員選挙には無所属で出馬し、厳しい選挙戦となりました。支えとなったのが信者の手厚い支援です。得票数は1978票と、前回の選挙より1割ほど減りましたが、7回目の当選を果たしました。
【徳島市議会 美馬秀夫議員】
「(当選には)2000票ぐらいだけど、公明党・共産党は1000票ぐらいは組織であげるから、1000票は自分で固めよというのが多いんちゃうかな。我がグループも500~1500票は自分で取って来いと。徳島市には『統一教会だから美馬はやめよう』は少ないかな。勝手な自己満足だけど、信じてもらって当選して感謝している」
その後は再び「自民党市議団」で活動。副会長を務めています。自民党徳島県連は「コメントする立場にない」と静観しています。
政治と宗教の関係に詳しい専門家は、「地方議員の方が宗教との結びつきが強い」と指摘します。
【北海道大学 桜井義秀教授】
「国政選挙の中で、例えば衆議院でも参議院でも、例えば自教団から送り出しても、数十万人規模の教団であれば、一人ぐらい送れるかもしれませんけど、その一人じゃほとんど国会では無力なわけですよね。ところが地方議会の方では、直接住民といろんなことができてくるので、地方議員の方が宗教団体をベースとしている場合、活動の余地が大きいんじゃないでしょうか」
旧統一教会との関係について別の徳島市議会議員は「議員でつながりを持っている人は多い。美馬議員と同じくらい関わっている人もいるが、表に出てこない」と話します。 関西テレビは旧統一教会に取材を申し込みましたが、応じませんでした。
【北海道大学 桜井義秀教授】
「宗教と政治が近づいたら悪いということでもないと思うんですよ。ただ、自分がどこを選出母体、支援してもらっているのかを明確にすることが大事だと思います。組織票を政治家が求める以上、これは分離できないんですね。だから組織票があまり力を持たないように投票率を高める。もう投票所に足を運びましょう。これしか処方箋はありません」
■「次の衆議院選は自民党大敗すると思う」
年内の解散総選挙が取りざたされている中、美馬議員は「何十年に渡る教団との関係がなくなれば、自民党は選挙に勝てない」と話します。
【徳島市議会 美馬秀夫議員】
「国会議員はみんな関係はありますよ。関係深い。選挙応援してくれている。衆院選だと大変だと思うよ。『誰のおかげで当選』とみんな心の底で思っていますよ。あれだけ応援したのに『全然関係ない、知らなかった』ってどんな顔して言うんだと思いますよ。だから次の衆議院選は自民党大敗すると思いますよ」
事件から1年、旧統一教会と政治家の関係に厳しい目が向けられるようになりましたが、まだうやむやな状況は続いています。
(関西テレビ「newsランナー」2023年7月7日放送)