「平成最悪の水害」西日本豪雨 5年たった今も被災地に残る爪痕 そして将来に残された課題 無事を知らせる“黄色いタオル”で救われることも 2023年07月06日
300人以上の犠牲者を出し、「平成最悪の水害」と呼ばれる西日本豪雨から、7月6日で5年がたちました。被害のあった場所の現状と残された課題に迫ります。
【岡安アナウンサー 2018年】
「小田川の堤防が決壊しました。小田川の水が住宅街にまであふれ出しました。そしてこの一体の住宅ほとんどが冠水しています」
2018年7月、西日本をみぞうの豪雨が襲いました。広い範囲で起きた川の氾濫、浸水、土砂崩れ。被害は甚大でした。普段雨の少ない地域でも大量の雨が降り、災害関連死も含めると、約300人が犠牲になりました。
関西でも…
【高橋記者リポート 2018年】
「大量の土砂が流れてきました。危ない、水が来た。避難、避難。これはヤバイ!」「いま住民の方が避難を始めました」「やめた方がいいです、中で避難してた方がいいです」
【赤穂記者リポート 2018年】
「今大きな音がして大量の土砂が流れてきました。大きな木や岩など大量の土砂が流れてきました」
関西でも「大雨特別警報」が発表される記録的な豪雨となり各地でさまざまな被害が出ました。
土砂崩れで犠牲者が出た兵庫県宍粟市では、5年となる6日に追悼の祈りがささげられました。
【兵庫県宍粟市 福元晶三市長】
「5年たって、平成30年の(西日本豪雨)被災の悲惨な状況を風化させずに、防災・減災に立ち向かっていくのが大事だと改めて感じています」
そして、六甲山のそばにある神戸市灘区の篠原台も大規模な土砂崩れの被害を受けた地域です。
【宇都宮記者リポート 2018年】
「大量の土砂と水が住宅街に流れ込んでいて、道をふさいでいます」
住民には1カ月以上にわたって避難指示が出されました。そもそも、六甲山地の地層をつくっているのは大雨で崩れやすいとされる「まさ土」。大雨が降るたび、土砂崩れのリスクが高まるエリアなのです。
5年前、篠原台で自治会長を務めていた大重さんは、西日本豪雨以降も再び土砂崩れが起きないか不安に思う住民が多かったと話します。
【篠原台南自治会長(当時) 大重昭司さん】
「被災地の方は、雨が降るとトラウマでかなり心配されていましたね。予兆があれば早く避難するというのが私どもの教訓になっている」
5年たち、対策はどう進んだか。篠原台の住宅街の真上、土砂崩れが発生した場所に行ってみると…
【六甲砂防事務所 服部浩二副所長】
「ここが平成30年の7月豪雨で土砂災害があったところで、砂防えん堤を造っているところです」
土砂災害が起きた時に岩や流木をせき止める、砂防ダムが完成していました。
【六甲砂防事務所 服部浩二副所長】
「西日本豪雨のときに出た土砂は(この砂防ダムで)止めて守ることができます」
約10億円をかけて造られた砂防ダム。西日本豪雨の翌年から建設を始め、完成したのは今年3月。約4年かかりました。
【篠原台南自治会長(当時) 大重昭司さん】
「危険性のあるところは、いち早くえん堤とか砂防ダムを造っていただければと思います。特に六甲山系は土砂崩れが多い地区ですから」
命を守る“とりで”として欠かせない砂防ダムですが、六甲山系全体をみると、課題も見えてきました。神戸市兵庫区の砂防ダム建設現場では、ある問題が…・
【六甲砂防事務所 服部浩二副所長】
「道幅が狭くて、工事用の車両が近づいていけない」
この地区では道が狭く、ダンプカーなどの重機が通ることができません。
【六甲砂防事務所 服部浩二副所長】
「六甲山では斜面に家がたくさん張り付いていますので、こういうところは多いです」
このため、さまざまな工程で余計な時間がかかり、結果として工期が年単位で伸びてしまうこともあるそうです。六甲の土砂災害対策を管轄する六甲砂防事務所の中期計画では、合計約800基の砂防ダムの建設を予定していますが、この計画が完了するのは、なんと2061年度となっています。ハード面の対策には膨大な時間がかかります。
その一方で、災害はいつ起こってもおかしくありません。六甲山の麓にある神戸市灘区・鶴甲地区では、“ある取り組み”を通して住民自らの力で命を守ろうとしています。
【鶴甲防災福祉コミュニティ 服部輝雄さん】
「地区防災計画作成に伴って新たに掲載した(作った)地図になります」
これは9年前に国が始めた制度「地区防災計画」に基づいて作られた防災マップです。住民が主体となって作っているのが特徴で、地域住民の視点から細かな意見や情報が反映されています。
【鶴甲防災福祉コミュニティ 服部輝雄さん】
「崖(土砂)崩れを起こした場所等について新たに書き加えた地図です。住んでいる人の情報に基づいて記載されたものです」
ハード面での対策強化に課題が残る中、広がる地区ごとの「防災計画」。命を守るため、住民1人1人の関わり方が重要性を増しています。
■防災最前線を取材した記者が感じた、地域住民による防災計画の意味
今回取材にあたった関西テレビ報道センター防災担当の川崎晋平記者が解説します。
5年前の西日本豪雨では、各地で甚大な被害が出ましたが、神戸市灘区でも土砂崩れが起きました。土砂崩れから住民を守る砂防ダムの建設は進んでいるのですが、建設計画の完了は六甲山系で2061年の予定となっています。ハードの完成には膨大な時間がかかりますが、災害はいつ起こってもおかしくありませんので、“地域密着型の防災”が重要になってきます。「ハザードマップ」はよく見聞きしますが、「地区防災計画」はどんな違いがあるのでしょうか?
【関西テレビ 川崎晋平記者】
「まず『ハザードマップ』は、国や自治体が作るもので、土砂災害や浸水被害などが起こりやすいエリアや、避難所が記載されています。
一方『地区防災計画』ですが、住民が主体となって作るもので、住民の方自身が地域を歩き回ったり、話し合ったりして作っていくもので、より地域密着型となります。ハザードマップに加えて、さらに具体的な情報が記載されているのが特徴となります」
土砂崩れが心配される地域に住んでいらっしゃる方は、『地区防災計画』をどのように利用したらいいのでしょうか?
【川崎記者】
「例えば、地区防災計画のマップには過去に実際に災害が起きた場所が記載されています。これを見て『この場所が一番特に危険だ。実績があるからここからは離れよう』といった判断がつきやすくなります。あるいは、災害の時には道具や資材がたくさん必要で、ブルーシートやスコップなどが非常に重要になってきますが、そういった資材がどこの場所にいくつあるのかという、かなり具体的な情報が、狭い範囲の地図であるからこそ記載されているので、災害時に活用できるポイントになります」
「ハートマークで示されたところはAEDの場所です。こちらの鶴甲地区の計画ですと、かなり細かく記載されていて、こういった情報も活用できます」
【川崎記者】
「さらに地区防災計画にはこういった“黄色いタオル”が入っています。
実はこのタオル、災害時に家の外にかけておくことで、無事を示すためのタオルなんです。全国各地で取り入れられていまして、このタオルは鶴甲地区でお借りしたものです。西日本豪雨で大きな被害が出た岡山県倉敷市真備町では、避難の際に意思疎通がうまくいかず、避難できている方が分からずに、逃げ遅れが多数発生したことで大きな被害を招いてしまったとも言われています。
そこでこういったタオルなどを取り入れることで、いざ災害が起きた時に、支援に行く方が『この家の人は無事か』『避難できているか』ということを効率よく判断していくことができ、重宝されています」
次の災害の被害を減らそうとする取り組みは必要ですよね。
【関西テレビ 神崎報道デスク】
「六甲山系をはじめとして傾斜地にお住まいの方も多くいらっしゃいます。ハード面で砂防ダムなど造るためには、時間もお金もかかってしまいます。そうするとソフト面で何とか目先の対応をしていかないといけません。地区防災計画をはじめ、住民で話し合って、自分たちで知恵を出し合うことが、命を守るためのポイントなのかなと思います」
地域住民が主体となって防災を考えることには、どんな意味があるのでしょうか?
【川崎記者】
「私が取材して感じた意味は『気付き』です。計画自体にも、ものすごく価値があるんですけれど、この計画を作っていく過程の中で、実際に地域を歩いて回ってみたり、災害対策にはどういうことが必要なんだろうと考えてみることで、いろんな気付きが生まれることが一番の価値なんじゃないかと、私は考えています。例えば私が取材した中で、『実際に地区防災計画を考えていく中で、地域のこの部分にはAEDがたくさんあるけれど、こっちには足りないことに気付いた』という方もいらっしゃいました。そうしますと行政に『ここにAEDを増やしてくれないか』と依頼を出すような実践的な取り組みにつなげることができ、かなり価値があるんじゃないかと思っています」
「地区防災計画の取り組み自体は素晴らしいんですけれど、地区防災計画に参加することで、より多くの方が『気付き』を得られるというところも大事にしたいと思います」
ハード面の整備も必要ですが、それ以外に地域住民の積極的な防災への関わりが重要になってくるんですね。
(関西テレビ「newsランナー」2023年7月6日放送)