パートで働く人が、一定の年収を超えると社会保険料の負担が生じ、手取りが減ってしまういわゆる「年収の壁」。 働く時間を増やしたいのに“働き控え”をする人が多く、家庭にも企業にも弊害が生じています。そこで政府は、この壁を解消すべく、新たな案を打ち出しました。 果たしてその効果とは…
■もっと働きたいのに…「年収130万円の壁」とは?
大西眞由美さんは、大阪の保育園で、1日5時間・週3日、パートで働いています。家計のためにもできればもう少し、働く時間を長くして収入を増やしたいという思いがありますが、今はあえて抑えています。 その理由は…
【大西さん】
「扶養が大事やねんな」
【大西さんの娘】
「よくお父さんに『扶養超えてないよな』ってよく言われている」
大西さんは現在、会社員の夫の扶養家族として、一定の所得控除を受けるため、年収を130万円以下に抑えています。
もし、130万円を超えてしまうと扶養家族ではなくなり、自分で社会保険料を支払う必要が出てきます。つまり、労働時間を増やして収入が増えても、手取りが今よりも減ってしまうという逆転現象が起きるのです。これが、130万円の時点で立ちはだかる「年収の壁」と言われています。
この“壁”があることで、大西さんのようにあえて稼ぎすぎないよう緻密に計算して働く人も少なくありません。
【大西さん】
「(今年の収入)累計から130万円を引いたら金額が出て、6カ月で割ると1カ月であといくらまで稼いで良いかが出るから」
■物価高に年々上がる教育費…年収の壁にもどかしさ 政府も解消に本腰
最近、特に「年収の壁」にもどかしさを感じるようになりました。物価高に加えて、大学生と高校生の娘の教育費が年々上がってきているからです。
【大西さん】
「今は(子どもに)手はかからないけれど、お金がかかります。1日6時間くらいを週5日で働けたらうれしい」
(Q:それでは「年収の壁」を超えてしまう?)
「超えると思います」
野村総研がパート勤務の女性およそ2000人を対象に行った調査では、「年収の壁を超えても働き損にならないなら働きたい」と答えた人は8割近くに上りました。 こうした現状を受けて政府も動き出しています。
【岸田文雄首相】
「『130万円の壁』で、働く時間を希望どおり延ばすことをためらう方がおられると。結果として世帯の所得が増えません。壁を意識せず働くことが可能となるよう、制度の見直しに取り組みます」
現在、政府は年収130万円を超えても一時的に収入が増えただけであれば、扶養に留まることを可能にし、手取りが減らないようにする案で調整を進めています。
■企業側も“人手不足の解消”に期待 だが…3年程度の期間限定措置に不安
「年収の壁」をなくすことは、企業側にとっては「人手不足の解消」につながると見込まれています。
大阪・柏原市のスーパーマーケット「フレッシュマーケットアオイ」では、パート従業員のほとんどが、年収の壁を意識した「働き控え」をしていて、シフト管理者は、常に人手不足に悩まされています。
【シフト管理者】
「この方だったら、土日以外はいつでも働けるけど、あと2回くらいは休んでもらわないと。せっかく働きたいって言ってくださっている方も働けないっていうのがもどかしい」
立ちはだかるのはやはり「年収の壁」。書き入れ時の年末に長時間シフトに入ってもらえるよう、年間を通して勤務時間を調整しなければなりません。
新たな制度案で人手不足を解消できるのではと期待しています。
【シフト管理者】
「どうしてもレジが回らなかったら、1人誰かまた募集かけてもらわなくては駄目だけど、そういう壁がなくなるとシフトを組む苦労も少なくなると思います」
その一方で、懸念されるのは、「130万円を超えても扶養家族に留まれる」などの政府の案は、あくまでも「3年程度の期間限定の措置」としている点です。
【フレッシュマーケットアオイ 内田寿仁社長】
「3年間だけで終わってしまうのか、将来どうなるのかというのが、今のところ全く見えませんので…。労働者側も企業側もできるだけ負担が増えないような形で。人口もどんどん減っていく、一人あたりの能力を存分に発揮できるような制度を作っていただけたらなと思います」
期間限定の措置で「年収の壁」による弊害は、本当に解消されるのでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」2023年7月5日放送)