保津川下り事故3カ月で新たな対策 消防が初めて語る“情報交錯”と“救助の遅れ” 「想定を超えた状況に陥った」 船頭たちが動き出した新たな対策とは 2023年06月28日
3カ月前の3月28日。京都の観光名所、京都府亀岡市の「保津川下り」で起きた水難事故。乗客ら29人が川に投げ出され、船頭2人が死亡しました。
関西テレビは当時、救助現場で指揮をとった消防隊員に話を聞くことができました。
■ 楽しかったはずの川下りが ‟一変”
保津川下りの舟を運航する組合から事故の一報を受けた時、現場の無線はつながりにくい状態だったため、実は消防に詳細な情報が入っていませんでした。
【亀岡消防署・警防課・東晃平さん】
「一報目に『座礁』ということで入ってきたので、座礁ということでイメージ的には岸に乗り上げているイメージを持っていたので、岸から林道に(人を)あげていくような活動をイメージしました」
舟が岸に乗り上げた事故を想定し、救助車両で山道を走りましたが、落石や倒木のため、途中で通行が困難に。
その後は、徒歩でおよそ1キロ進み、最初の通報から1時間後にようやく現場となった激流ポイント「大高瀬」に到着しました。そこでは、予想だにしない出来事が起きていました。
【亀岡消防署・警防課・東晃平さん】
「乗客も点在、左岸や右岸にバラバラにいる状況でした。座礁しているのになんでこんなに散らばっているのかと思いました。毛布などをかけられて岸で寒さを訴えている人もいました。そこでぬれていることも認識しました。1名だけがけがしたなら対応できますが、20数名が急流域に投げだされた時点でかなり困難な状況ですね」
座礁ではなく、全員が川に投げ出された転覆事故。乗客25人全員の無事は確認できましたが、水温13度ほどの川に長時間つかり続けたため、低体温となった人が相次ぎました。
さらに、当時の消防記録には緊迫した状況が…
【当時の消防記録】
「転覆した船から生存反応あり、救助活動が必要です」
「流水救助資器材が必要なため、消防隊の増援願います」
転覆した舟に、船頭が取り残されているかもしれないという「行方不明者」の情報も入ってきたのです。
「乗客の搬送」と「急流での行方不明者の捜索」は現場の隊員たちだけでは対応できない状況でした。
応援を要請して体制を整えるまでに予想以上の時間がかかり、結局、後続から来た舟で乗客を病院に運べたのは事故からおよそ4時間後だったのです。
【亀岡消防署・警防課・東晃平さん】
「(情報が)交錯したというところで必然的に救助の活動時間も延びてしまった。さまざまな要因が重なって、救助に関して特殊性が出てきて困難な状況にあった」
■ 動き出した船頭たち 再発防止策は
救助対応が遅れた大きな原因の一つが、舟の転覆事故だったにも関わらず「座礁事故」とされ、正確な情報を伝えられなかったことでした。
そこで舟を運航する組合は正確な情報を伝えられるよう、保津川周辺で無線や携帯電話の電波が入る場所を調べ、リストにまとめました。通信可能な地点へ行くことで、素早く通報できる体制を整えることにしたのです。
一方で、乗客の救助のために課題とされたのが救命胴衣でした。
多くの乗客が自らひもを引っ張り、膨らませるタイプの救命胴衣を腰に着用していましたが、流れのはやい水中で作動させることはできませんでした。
【舟の乗客】
「『救命胴衣を開けないと』思って探したんですが、ひもが見つけられなくて。素人に手動式は100%といっていいいほど無理だと思います」
また組合によると、亡くなった船頭たちも、同様の救命胴衣をつけていましたが、作動させず乗客を助けようとしていました。
救命胴衣を作動させてしまうと水中で体が浮いてしまい、救助しにくいと判断したとみられています。
これまで組合は水難事故が起きた時は「船頭が乗客を助ける」という考えに固執していましたが、事故を受けて考え方を変えることにしました。
【保津川遊船企業組合 豊田代表理事】
「25人の客を4人で助けるということが、現実的には『救助』という考え方じゃなくて、『避難誘導』に発想を転換する必要があること」
「船頭や乗客全員がいかに助かるか」。舟に乗る全員に浮力材のあるベストや自動で膨らむ救命胴衣の着用を義務付け、何よりもまず避難することを優先したのです。
一般的にプールで避難誘導の訓練を行う際は、リーダー役が先頭に立ち、隊列を組織して救助が必要な人たちを安全な場所まで誘導します。
実際の急流の中では、リーダー役となる船頭が声を張りあげ、スムーズに誘導しないとすぐに流されてしまい、岸まで安全にたどりつくことができません。
亡くなった船頭2人と仲が良かった村田祐二さん。今も事故のことが忘れられないといいます。
【船頭歴20年・村田祐二さん】
「(事故を聞いた時は)言葉にならない感じでしたね。仲間ですので本当、言葉にはなりませんでした。あの事故については何度も思い出しますし、ただ、起きてしまったことは取り返しがつかないので、実際あの状況だったら自分はどうだったのか、事故が起きないためにできたことはあったのかとか」
この日、組合では水難事故を想定した救助訓練が行われました。
船頭歴20年の村田さんですら、救命胴衣を着用しながら、素早く移動することは簡単ではありません。
さらに、靴を履いているシチュエーションでは靴の浮力もかかるため、たとえ救命胴衣を着ていたとしてもバランスを取るのが難しくなります。
泳ぎながら乗客を誘導する練習も行われました。大声を出すと、体力はすぐに削られていきます。
【船頭歴20年・村田祐二さん】
「実際にやってみないとわからないことってありますね。救命胴衣のありがたさがよくわかります」
【講師】
「今日の実技だとプールの水をほとんど飲まなかったかもしれないですけど、流れがあって波があったらガブガブ水飲みますからね。声が全然出なくなります。みなさんすごく良かったのが声かけ、ぜひ現場でもやっていただきたいと思います」
【船頭・村田祐二さん】
「1回失ってしまった信頼と信用を取り戻すのは大変。亡くなった船頭2人の思いもありますからその命に報いるためにも残っている船頭が前を向かないといけないと思う」
事故から6月28日で3カ月。痛ましい事故を二度と繰り返さないために、安全と信用を取り戻す日々が続きます。
(2023年6月28日 関西テレビ「newsランナー」放送)