“プーチンの料理人”プリゴジン氏が反乱 理由は「プーチンへではなく、官僚へ強い不満」と専門家の指摘 一方のプーチン大統領は“暗殺指令”を出したとの情報も 2023年06月26日
ロシアで大きな動きがありました。「プーチンの料理人」と呼ばれる、民間軍事会社「ワグネル」のトップ、プリゴジン氏がモスクワに向けて進軍しました。反旗を翻したプリゴジン氏に対して、プーチン大統領は“暗殺指令”を出したと複数のメディアが報じています。プリゴジン氏が毎日更新していたSNSは止まっていて、現在の居場所は分かっていません。
反乱はなぜ起こったのか? 今後の戦況に影響は出るのか? ウクライナの歴史・政治を研究している、神戸学院大学の岡部芳彦教授に聞きました。
■プリゴジン氏 レストラン経営者としてプーチン氏と親密に そこから軍事会社を率いるように
今回の事態の主役と言える、プリゴジン氏とはどんな人物なのかみていきます。プリゴジン氏は「プーチンの料理人」とも呼ばれ、レストランの経営者だったそうです。プーチン大統領がサンクトペテルブルグの副市長時代、プリゴジン氏のレストランで料理をふるまわれ、出身地が同じだということもあり絆が深まっていったといいます。
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「2人が知り合った時期は、エリツィン大統領の大混乱期です。“料理人”といっても自分で料理をするわけではなく、レストランを経営していました。最初ホットドック店から始まり、大きなレストランを経営するようになりました。私は留学中にサンクトペテルブルクで彼のレストランを見たことがありますが、私が行くには敷居が高い高級レストランでした」
「ロシアという国は、極端に言うと政治家の毒殺なんかが多い国で、サンクトペテルブルクの副市長だったプーチン氏の上司だった人も、毒殺じゃないかもしれないけど、急死するんです。そんな中、食を任せられるというのは、やはり絆が深い、安心感を持ってるから任せるということがあります」
プーチン氏が出世していく中で、プリゴジン氏は民間軍事会社「ワグネル」を創設しトップ となります。現在は約2万5000人の兵士を率いています。ワグネルは正規軍よりも先にバフムトを攻略するなど、プーチン大統領の右腕として活躍しています。ワグネルの戦闘力はかなり高いと考えられます。
【関西テレビ 神崎報道デスク】
「ワグネルはもともとロシアで作られたんですけども、実は中東のシリアとかアフリカなんかで暗躍しています。アフリカでは集団処刑に関わったんじゃないかと言われ、いわゆる“汚れ仕事”を任されていたりします。今回のウクライナに関して言いますと、バフムトの最前線で戦っているんですけども、ロシア軍は予備役の人を招集して、訓練してやっと1人前になって戦線に運ばれるんですが、ワグネルはずっと最前線で戦っているので、実戦経験が豊富な集団だと言えると思います」
プリゴジン氏がワグネルを大きくしたのは、プーチン大統領との関係性、サポートがあったからなのでしょうか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「そうですね。ロシアには『傭兵罪』というのがありまして、傭兵の存在を認めていないんです。 そんな中ちょっと変な話で、罪があるのに、ワグネルは民間軍事会社の看板を掲げられているのは、そういう関係があってのことです。本来表に出てくるような組織ではないのです。世界の主流は、軍事の外注化が進んでいて、それに乗っかった形なんですけど、ロシア国内の法律に抵触する。でも営業ができているということは、指導者がバックにいたからでしょうね」
■プリコジン反乱の理由は“あくまで官僚への不満”
なぜ反乱が起きたのか。プリゴジン氏がかなり怒っている映像がありますが、岡部教授によると、プリゴジン氏はショイグ国防相・ゲラシモフ参謀総長ら、“あくまで官僚に不満”を持っているとのことです。プーチン大統領にではなく、官僚に不満を持っていたということなんですね?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「見逃してはいけないのは、プリゴジン氏自体は『正義の行進』と呼んでいるというのがちょっと大事でして、自分は正しいことをしていると言うのです。それは何かと言うと、国防省とかの自分たちに対する不条理なやり方を正すみたいなことです。そういった内容をプリゴジン氏はテレグラムにしょっちゅう書いてます」
一方のプーチン大統領は、「裏切りだ!ここまで表に出てくるとは…」と言っています。しかしその後ワグネルの兵士について「不問」にすると表明していて、プリコジン氏には「暗殺指令」も出されたという情報があります。もともと関係性は良かったのですが、プリコジン氏がここまで表に出てくると、プーチン大統領も許すことができなくなったということでしょうか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「1つはそうです。プーチン大統領は、実は大統領になる時に、『法の支配』のちに『法の独裁』といって、法のもとに全てを進めていくし、反対派を罰すると言った人なんです。そんなプーチン大統領ですが、この戦争が始まってから囚人を戦場に送ったり、超法規的なことを続けてきて、最後はこういう反乱に至って、結果的に自分も超法規的な結末を選択したという形になりますね」
反乱の結果、ワグネルは解体されました。プリコジン氏はルカシェンコ大統領の仲介でベラルーシに入ったとも、消息不明とも言われています。プリゴジン氏はどうなるのでしょうか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「分からないんですけど、1つ言えるのはプリコジン氏は大のSNS好き、テレグラム好きなんです。直接的なメッセージもよく出すので、彼の考えがよく分かるのですが、彼が何も出してないというのは普通のことではないです。身の危険を感じているかもしれませんし、別の理由があるのかもしれません。 すごく冗舌な方なので、普段のプリコジン氏らしくないとは思います」
■“反乱”は戦争が終わるチャンスだった?
今回の反乱について岡部教授は、「実はこの反乱は戦争が終わる大きなチャンスだった…」とみています。
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「すぐではないんですけど、この反乱はこの戦争が終わる大きなチャンスだったのは事実なんですよ。私はよく思うんですけど、ロシアが仕掛けた戦争なので、ロシア内部の崩壊とか、政権の交代でないとなかなか終わりが見えないんですけど、曲がりなりにもそれがちょっと近づいた瞬間だった。でも今のところは別に何もなくなっています」
「プリコジン氏には、全く戦争を終わらせる意図はなかったと思います。彼の頭の中では『正義の行進』なので、本当はこの戦争を支えてきたのは自分なのに、切り捨てられていく状況を正すという、それだけだったんだと思います」
ウクライナ側からすると、プリコジン氏の反乱が続いていたほうがチャンスだったのでしょうか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「戦争の局面から考えると、ロシア国内が混乱することは望ましいことだったでしょう。でもあまり大きな影響はなかったです」
■『プリゴジンの乱』によって、プーチン大統領に“暴走”する力がないことが明らかに
ここで関西テレビ「newsランナー」視聴者からの質問です。
「Q.ロシア国内には、他にも反乱勢力がいるんですか?」
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「最近活発化してきていまして、特にロシア国内の少数民族の人たちです。最初のころアジア系のブリヤート人ですとか、ヤクート人が戦場に送られて、大量に損害が出て、不満が高まっています。そういう人たちが『ロシア後の自由な民族フォーラム』を作って、今世界中で会議をしていまして、そういう勢力がもしかしたら勢いづいてくるかなと思います。思ったよりプーチン体制が盤石ではないとみんな感じているんじゃないかと思います」
「Q.プリゴジン氏を暗殺したら、プーチン大統領はより窮地にならないですか?」
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「この戦争をプリゴジン氏が支えてきたのは事実で、この戦争には確かにいなくてはならない存在だったと思います。しかし反乱のような状況になってしまうと、リスクでしかないと思われます。そうなると、ロシアでは毒殺を中心に、暗殺が多いといえば多いので、可能性はゼロではないと思います。でもすぐに暗殺があるかどうかは分かりません。プリゴジン氏は個人的な関係をプーチン大統領と築いてきたわけなので、政治で判断すると暗殺されるんじゃないかと思うんですけど、最後は人間関係がどうかというのは、我々には分からない。個人の関係によると思います」
「Q.ウクライナとロシアの紛争は終息するのでしょうか?」
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「なかなか見えてこなくて、反転攻勢が行われると言われて、今もなかなか進まないので、すぐに終息はないかなと思います」
窮地に追い込まれてプーチンが暴走することはないですか?
【神戸学院大学 岡部芳彦教授】
「それがないのが分かった『プリゴジンの乱』だったと思います。 ロシア政府高官はプライベートジェットで逃げ出す、プーチン大統領は記者会見をした以外にどこにいるか分からない、ショイグ国防相は担当しているはずなのに表に出てこない。完全に対処能力がないことがよく分かり、その点で大きかったんじゃないかなと思います」
プリゴジン氏の反乱で、ロシアの状況がいろいろと見えてくる結果になったようです。
(関西テレビ「newsランナー」2023年6月26日放送)