13年を経て…30歳”元少年” の「判決」へ 神戸・高校生刺殺事件 亡き息子を思う父「申し訳ない気持ちわからない」「検察の求刑がそのまま通れば」 2023年06月22日
13 年前、神戸市北区で高校生だった堤将太さんが殺害された事件の裁判員裁判は、6月23日に判決が言い渡されます。
「なぜ息子が命を奪われなければならなかったのか」、遺族が抱いてきた思いに司法の判断は応えられるのでしょうか。
■「将太は16歳で時間が止まっている」両親の悲痛な思い
「息子の命がなぜ奪われたのか」。それを知るために、遺族は連日法廷へと足を運びました。
【父・敏さん】
「毎日(午後)9 時、10 時になったら眠くなるんですよ。でも 11時、12時に目が覚めて。そこから寝られなくなって。だから(睡眠時間は)毎日2~3時間じゃないですか」
2010年10月、当時高校生だった堤将太さんが自宅近くの路上で男にナイフで首などを複数回刺され、殺害されました。
将太さんは 4人きょうだいの末っ子。当時16歳でちょうど将来のことを考え始めた時期でした。
【父・敏さん】
「友達に聞いたら、『好きなことに関われる仕事がしてみたい』とか『お父さんが(仕事)継ぐか言ってくれて』とか言って一生懸命話しとったみたい」
【母・正子さん】
「反抗期もあったけど、いろいろ話して。『こういうことがあった』、『こんなことがあった』と思い出してしまうと最近はすごく悲しい。やっぱり将太がかわいそう。ほんまならいろんな経験して大人になっていくんやと思うんですけど。将太は 16 歳で時間が止まっているので」
将太さんの父・敏さんが犯人逮捕につながる情報を求め続けておよそ11年。
2021年8月になって28 歳の男が逮捕され、男はその後、精神鑑定を経て起訴されました。
【父・敏さん】
「1日逃げるごとに罪を犯していっている。僕らとしては、2010年10月4日からずっと、彼は罪を犯し続けてきたんやと」
■ 30歳の”元少年” の裁判 父「なんで悩まなあかんのか」
なぜ将太さんだったのか。11 年間何をしていたのか。 聞きたいことは山ほどあります。
今30 歳になった男が事件に見合った刑罰を受けることを願っています。
しかし、男は事件当時17歳だったことから少年として扱われ、名前は公表されず、最高刑も成人と比べると軽くなります。
特殊な裁判に、被害者を支援する弁護士と打ち合わせを重ねました。
【父・敏さん】
「どこにどう絞って(質問を)考えていていったらいいのかっていうのが、ものすごくあって。もちろん少年法も絡む。逃亡期間がどうなるのっていうのもある」
【河瀬真弁護士】
「裁判がどうなるかっていうのはいったん置いといて、純粋に知りたいことを聞いていけばいい」
【父・敏さん】
「みんなで聞きたいことを書き出して、それで詰めて質問したらええんちゃうかな?」
そして裁判を担当する検察官のもとにも…
【父・敏さん】
「人殺して11年逃げていた。それしかないからね。『うちの息子が悪いことしましたか?』と。殺されなあかんようなことしました?なんでこんなに悩まなあかんねやろね。僕ら何も悪いことしてないのにね」
裁判に臨まなければならない堤さんが支えにする人たちがいます。犯罪被害者遺族の自助グループ「六甲友の会」の世話人で、リンチ事件で息子を失った、高松由美子さんはその 1 人です。
【父・敏さん】
「裁判で『犯人の顔見えるの?』って(母・正子さんが)言うから、『そら向かい合うから見えるよ』って言ったら、『いやや』って…」
【高松由美子さん】
「(意見陳述を)検事さんに読んでもってもええしな…。でも最後の仕事やで、こんなん言うたらあれやけど」
【母・正子さん】
「顔を見るのが…」
【父・敏さん】
「鑑定留置終わったぐらいから、寝られへん全然」
【高松由美子さん】
「私も裁判の頃、睡眠薬飲んでいた」
少年犯罪で家族を失った遺族が思いを語るシンポジウムでは、同じように少年によって高校生の息子を殺害された人から励ましの言葉をかけられました。
【少年に高校生の息子を殺害された・大久保巌さん】
「当時は 17歳か知らんけど、それで少年法でみたいな感じなんて、何それって思ってて」
【父・敏さん】
「実名報道もされてないし、この 10 年 10 カ月なんなのかと」
【大久保巌さん】
「ちょっと納得いかないですね」
【大久保さんの妻】
「罪が倍に加算されてもおかしくない」
■事件の記憶薄く…不可解な被告証言
ようやく迎えた裁判で、男と向き合うことになりました。
【被告の男】
「殺すつもりはありませんでした。(診察した精神科医に)当時 17 の私が『どうして人を殺してはいけないのか分からない』と言った。ナイフで刺して痛いとか傷つくとは思いませんでした。当時は不良のような人たちに命を狙われていると思っていた」
堤さんたち家族の目の前で殺意はなかったと述べた男。
さらに弁護側は精神障害によって十分に責任能力がない「心神耗弱状態」だったと主張しました。
そして、敏さんが男に直接質問しました。
【父・敏さん】
「なぜ将太があなたに殺されないといけなかったんですか?」
【被告の男】
「家の近くまでやってきた不良グループの1人だと思ったからです」
【父・敏さん】
「被害者が何か危害を加えましたか」
【被告の男】
「危害を加えられていません」
「なぜ人を殺してはいけないのかわからなかった」と発言する男に、こう問いかけました。
【父・敏さん】
「今は分かりますか。何歳から分かるようになったんですか」
【被告の男】
「27歳です」
【父・敏さん】
「その時、謝ろうとは思わなかったんですか」
最後に男は、「経験できたであろう、将来のいいことも悪いことも、全部自分のせいで断たれてしまった。申し訳ない」と謝罪の言葉を口にしました。
その後、男の精神状態を起訴された後に調べた医師が、「うその病気の可能性が高く、精神障害はなかった」と証言。
検察側は男に責任能力が十分にあり、将太さんにあった複数の深い刺し傷などから殺意あったと指摘し、懲役 20 年を求刑しました。
一方、弁護側は「殺意なく心神耗弱」と主張を変えず、懲役 8 年を求めました。
【父・敏さん】
「本当に申し訳ないっていう気持ちって、あの公判で見られへんかった」
【母・正子さん】
「裁判受けて、(将太さんを)ますます思い出すようになりました。犯人の顔見てからね…。どう思っているんでしょうね…将太に対して本当に謝っているんか…答えが出てこないですよね」
-Q:どんな判決を希望しますか?
【父・敏さん】
「まあ(検察の求刑 20 年が)そのまま通ればというぐらいやね」
今回の事件では、少年法が適用されるため最高刑は懲役15年になりますが、検察は現在30歳の男に対し、成人の懲役刑の上限である、20年を求刑しています。
裁判所がどう判断するのか。判決は23日午後言い渡されます。
(2023年6月22日 関西テレビ「newsランナー」放送)