『マイナトラブル』続出!…“2万ポイント”で国民77%普及も国民の不安高まる 制度設計にも関わった教授「まだ準備段階のトラブルでミスの多くは“想定内”」 今後の対応は? 2023年06月13日
マイナンバーカードを巡ってトラブルが多発していますが、本当に個人情報は守られるのでしょうか。今起きているトラブルの原因や問題点について、マイナンバーの制度設計にも関わった、立命館大学の上原哲太郎教授に聞きました。
早速、関西テレビ「newsランナー」視聴者から質問が来ています。
「Q.マイナンバーカードとのひも付け、急ぐ必要があるのですか?」という疑問に対し、上原教授によると…
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「行政の効率化を進めるために必須のものですので、進めていくのは当然のことで、これからも進めていくものだと思います。もちろんトラブルへの対策は、その都度打っていかなくてはいけませんが、立ち止まる時間的な余裕がないかなという感じがしています。(いろいろ起きていますが)トラブルの割合としては、 十分小さいのではないのかというのが私の意見です。9千何百万件ある中での、数百件というレベルですので」
■実際に起きた“マイナトラブル” いろんな原因が
マイナンバーガードを巡ってどんなトラブルが起きているのか、関西テレビでは各地で実際に起きたトラブルを取材しました。
12日午前、滋賀県大津市のマイナンバーカードの交付受付窓口には多くの市民の姿がありました。
【市民(20代)】
「書類がいる時に便利やなと思います。その場で発行できるんで」
【市民(70代)】
「システムそのものには賛成しますけれども、もうちょっと十分に説明に時間をかけてほしかった。“2万ポイント”で魂を売りました」
2016年、税や社会保障などのサービスを“素早く”“簡単”に手続きできるようにと始まったマイナンバー制度ですが、当初カードの取得は進みませんでした。そんな状況を変えようと、政府は3年前から買い物などに使える“マイナポイント”の付与をスタート。その効果もあって一気に取得する人が増え、これまでに国民の77%にあたる約9700万枚のカードが申請されました。
しかし…
【河野太郎デジタル担当大臣】
「お手間をおかけして大変申し訳ございませんが。ご自身の口座の登録をしていただくようにお願いしたい」
6月7日、河野デジタル担当大臣は、マイナカードに別人の銀行口座が誤って登録されていた事例が全国で748件、本人以外の家族の口座がひも付けられていた事例などが13万件あったと発表しました。
街では不安の声が聞かれました。
【マイナンバーカード取得済みの人】
「まだ保険証も紙の保険証でいけてるし。(病院で受診)しようと思ったらいけるんでしょ、マイナンバーで。(それでも)もうちょっと(トラブルが)落ち着くまで使わない」
■トラブルケース1…[使えない マイナ保険証が資格なし]
大阪府守口市に住む山下さんは5月、発熱し病院を受診しましたが、保険証として出したマイナカードを読み取ると、「資格なし」と表示されました。
【山下さん(仮名)】
「土曜日だったから、(市役所に)問い合わせができなくて」
【北原医院 井上美佐院長】
「保険証が使えないじゃないですか。電話で国保に問い合わせて。(国保から)『マイナ保険証ではなく、元の“紙の保険証”の情報で診察して』と」
山下さんの場合、去年結婚した時に新しい名義で健康保険証が発行されていましたが、資格確認のための国のオンラインシステムのデータに不備があったことで、このトラブルが起きたとみられます。
【北原医院 井上美佐院長】
「『受付時間短縮のために』と言っていたのに、何でこんなにかかるのという話ですよね、紙の保険証見てるほうがよっぽど早い。(カードリーダーが)うまく作動しなかったり、確認できなかったという場合もあるし。私はリスクヘッジとして、(紙の)保険証はあった方がいいと思う」
現在、山下さんのマイナカードは正常に読み取れるようになりましたが、トラブルを経験し、利用についての不安が残っていると話します。
【山下さん(仮名)】
「せっかく作って、ひも付けもしたのに、いざ使おうと思ったときに使われへん。作った意味あるのかなと思う。(紙の)保険証自体が廃止されるまでは、絶対2枚持ちすると思います」
■トラブルケース2…[書類確認不十分 別人の顔写真でマイナカード交付]
京都市では、70代の男性に対して、誤って別人の顔写真が載ったカードを交付していたことが分かりました。男性はカードを今年2月21日に申請し、3月29日に郵送で受け取りました。しかしカードには自分ではない男性の顔写真が貼られていました。京都市によると、委託業者が同じ日に窓口に訪れていた別の男性の写真を添付してしまい、市の職員も書類の確認を十分に行っていなかったということです。
【京都市マイナンバーカード企画推進課長 中嶋和重さん】
「(再発防止のため)チェック体制をもう1名、ちゃんと責任者も確認するようにしているし、しっかりとしたチェックをしています」
■トラブルケース3…[生年月日誤入力 マイナ保険証に別人情報ひも付け]
兵庫県では、「マイナ保険証」に別人の情報をひも付けるミスが起きました。県の職員が加入する共済組合が、内部のシステムに保険証の情報を入力した際…
【地方職員共済組合兵庫県支部 飯塚知香子事務長】
「お名前ですとか生年月日、性別、住所といった情報を書いていきますが、今回、生年月日の入力におきまして入力の誤りがありました」
結果、次のような事態が起きました。
・「1月1日生まれ」のAさんと入力したつもりが、「1月2日生まれ」と入力。
・たまたま1月2日生まれのAさんと同姓同名の人がいたため、この人のマイナンバーに保険証の情報がひも付けされました。
・その後、本部から「住所が一致しない」と差し戻されましたが、兵庫県支部ではそれを見逃してしまいました。
この2つのミスで、同姓同名の別人が「マイナポータル」から保険証に登録された情報を閲覧できる状態になってしまいました。
ミスが起きた要因として現場の負担の大きさもうかがえます。
【地方職員共済組合兵庫県支部・飯塚知香子事務長】
「連日連夜深夜までの作業を行っていたというのが実態になりますので、そういった中で起きたミスについて、業務量が言い訳になってはいけないと思ってはおりますが。全体の整合性、完全一致しないと連携できないようにする仕組みですとか、防波堤になるような仕組み、それはあった方が大きな安心感にはつながるのではないかと思っています」
■トラブルケース4…[ログアウト忘れ マイナポイントを他人に付与]
滋賀県大津市で去年10月に起きたのが、ひも付けの際の端末からのログアウト忘れによって、マイナポイントを他人に付与してしまったトラブルです。
公金受取口座などのひも付けに来た女性が登録のために端末にログインしました。ところが女性は必要な情報が分からず、途中で退席しました。ログアウトしていないため端末は女性の入力画面のままですが、見た目で分かる表示はありません。このあと次の市民が来て、この端末で「ポイント付与先」がひも付けできてしまったのです。後日、女性も全ての手続きを終えましたが、ポイントが付与されないため、市に問い合わせ、事態が発覚しました。
【大津市カード交付推進室 仲川慶室長】
「女性の方にポイントが付かなくなってしまったことがあったので、大津市としてポイント分(1万5000円)を賠償させていただいた。大津市として引き続き丁寧な支援をさせていただければと思っています」
今は別人の場合にエラー表示が出るようになり、市役所でもログアウトを徹底するダブルチェックの体制を取っています。
大津市の「支援窓口」では、ひも付けの専用端末の操作は本人が行うものの、隣で職員が付きっきりでサポートします。
【登録に訪れた夫婦】
夫:「ややこしい」
妻:「けっこうお医者さんも行きますし、聞かれるんです『マイナカードしはりましたか』とか」
夫:「時代の流れやから仕方ない」
スマートフォンを持たない高齢者など、1日に平均150人が来ることもあるそうですが、トラブル防止には人の支援が不可欠のようです。
さらに12日、「マイナポータル」で他人の年金記録が閲覧できてしまう事案が1件あったと、デジタル庁が発表しました。
12日の国会で、野党は、「早急に調査や対策を講じるよう」求めました。
【岸田首相】
「速やかに関連するデータの総点検、再発防止策と合わせて公表するよう、関係大臣に指示をしたところであります。重く受け止めておりますし、国民の皆さまにご心配をおかけしていることについて申し訳なく思っています」
■家族名義の口座登録“13万件”、保険証に別人情報誤登録“7312件”など多数のトラブルが発覚
いくつものトラブル事例が確認されて、マイナンバーに対して不安になる方もいるかと思います。トラブルの事例をまとめます。
・家族名義の口座を登録したとみられるケースが約13万件
・別人の口座に誤って登録したケースが748件
・証明書をコンビニ交付する際に、別人の証明書が誤交付されたのが14件
・別人にマイナポイントが付与されたケースが121件
・保険証を別人と誤って登録したケースが7312件
・勝手に保険証をひも付けしたケースが5件
・別人の年金記録を閲覧できたケースが1件
以上のようなトラブルが確認されていますが、このようなトラブルは想定されていたのか、上原教授によると…
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「ひとつ性質が違うのが、コンビニでの誤交付でして、本来起きてはいけないシステムのバグだったんで これは何とかしてほしいなと思っています。
それ以外のトラブルについて、人の手続きミスというのはある程度想定されていた中に入っているのかと思います。ただ家族名義の口座登録というのだけは、少し多かったのかなと思っています」
人的ミスは減らしていかないといけないと思いますが、大丈夫なのでしょうか?
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「今起きていることは、実際に業務が始まる前の準備段階でのトラブルが多いんです。例えば銀行口座に実際の交付が行われる前に、誤登録が見つけられているという意味で、実害が起きる前に止められているという考え方もあるとは思います」
マイナポイントの付与トラブルでは気付いた市民の方がいたので問題になりましたが、まだ把握できていないトラブルもあるのではないでしょうか?
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「マイナポイントの件、これだけ起きているというのは、ちょっと想定外だったところもあるかと思うんです。それは現場でのマイナポイントへのひも付けの仕事というのは、ご本人に端末でしてもらうのか、自治体の職員が代行でやるのかという選択がある中で、先ほどのログアウト忘れというのは見落としがあったために起きたというのが一番大きな要因かと思います。
最初は仕方がない面がありまして、そもそもマイナンバーと、マイナカードと、ご本人とのひも付けを各種の情報とやっていく作業が済まないと後が楽にならない面があるんです。最初の登録の作業ですから これを何とか乗り越えていくために、いろんな人が頑張っている状況です」
■「人的ミスを起こさないために、“マイナひも付け”を進めている」
上原教授は、「むしろ、今後こういう人的ミスを起こさないために、“マイナひも付け”を進めているんです」と話します。
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「いわゆる入力のミスというのは、件数があるとどうしても防ぐことができないので、機械的にシステムで流してしまった方がミスが少なくなるはずなんですね。社会全体で考えていきますと少子高齢化を迎えて、仕事はだんだん増えていくんだけれども 自治体の職員をこれ以上増やせない中で、自治体の仕事をどうやって効率的に回すかということが大きな課題になってくると思います。その中で、窓口で手続きをするということが、負担になる割合が大きくなってくるので、できれば自分でできる方はデジタルの力を使っていただき、コンビニ交付など窓口コストを減らすためにやっていることですから、効率化が進んでいけばいいなというふうに思っています」
【関西テレビ 神崎報道デスク】
「『透明性と信頼感』が欠けていると思います。やっぱり人はミスするんですけども、ミスが起きたらすぐにオープンにして『実は今こんな問題起きてますよ』『これ気を付けてくださいね』と言わないといけません。実際この報告自体は数カ月前からあがっていたのに、最近になってポロポロポロ出てきて、隠していたんじゃないかと疑われてしまいます。透明性は非常に大切なことです。それから信頼感ですが、『こういう原因で起きました』とトラブルがあるたびに丁寧に説明すれば、納得してもらえると思います。説明を尽くして信頼感を得る。(マイナカードのトラブル問題では)『透明性と信頼感』が欠けているのかと思います」
一方、神崎デスクの見解に対し、上原教授は…
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「今のところ、トラブルの原因というのはかなり迅速に明らかになって、オープンにできていると思います。いろんな機会で政府は広報していくことも必要かと思いますけれども、『透明性と信頼感』でいうと、透明性の確保はかなり頑張っていると個人的には思っています。システムトラブルが起きた時に、中身を調べるという作業はけっこう大変だったんですけど、かなり早くキャッチアップできていると思います。
あのデジタル庁が2月に把握していた問題がなかなか出てこなかったというのは少し残念なところなんですけども、ただデジタル庁という役所そのものが、かなり急激に膨れ上がってる組織で、組織の中の連携が少しうまくいっていなかったというのはあるかと思います。それに関して、大臣も反省されて『改革していく』とおっしゃっていたと思います」
ここでまた視聴者から質問が来ています。
「Q.紙の保険証がなくなると、国民全員がマイナンバーカードを持つ必要がある?」
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「基本的には皆さんにマイナンバーカードを持っていただきたいというのが国の立場で、ただ強制はできないということで、今のところは紙の保険証の代わりになる“資格証明”というものを出すことになっていますので、しばらくはマイナンバーカードがなくても何とかなるのですが、できるだけ持っていただきたいというのが国の立場かなというふうに思います。
(情報誤登録によって病院で大変時間がかかってしまった方がいたが)基本的にはマイナンバーカードでの受付の方が早くできるようになるはずなんです。資格確認について、今は問い合わせを後でやらないといけない仕組みになっていますが、マイナンバーカードがあるとその場で即座に保険資格があるかどうか分かる仕組みになっているので、病院にとっては本当はコストが下がるし 迅速に手続きできるようになるはずなんです。ただまだ窓口があまりないという事情はあるのかなと思います」
次の質問です。「Q.番号制度 初めからうまくいった国はありますか?」
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「初めからというのはなかなか難しいと思うんですけれども、比較的うまくいった国として、「エストニア」という国がよく知られています。日本の関係者も視察に行ったりしています。 エストニアは、ソ連崩壊後、国の体制がバラバラになってしまって再構築する過程で、番号制度含めてシステムをうまく作ったということがあります。国全体としてITに投資したということと、あと何といっても国が小さいので手作業で何とかなるというのがあると思います。日本はエストニアと比べて100倍ほどの人口がありますので大変になります」
もう1つ質問です。「Q.マイナンバーって国民の資産を把握するためなんじゃないんですか?」
【立命館大学 上原哲太郎教授】
「 “資産課税”という話が出てくると話が変わりますが、基本的にはそのためではなく、いろいろなことに使うためとなっています。税と社会保障の、特に税の中の資産というのがクローズアップされてくると、資産の把握をやろうということになってくるかも知れません。それは法律に基づいてやっていただくことです。先ほど話にあったような透明性の確保をやっていかなくちゃいけない中で、マイナンバーカードを使った自分の情報がどう利用されたか確認する仕組みが「マイナポータル」に備わっていますので、それを使って自分の情報がどれだけ把握されているか、自分で知ることが大切になってくると思います」
マイナンバーカードについて、自分の情報が正しく登録されているか気になった方は、デジタル庁の電話相談窓口があります。
番号は「0120-95-0178 (0120の 95“救護” 0178“マイナンバー”)」となっています。
マイナンバーカードは「デジタル社会のパスポート」とも言われます。国民の不安を払拭できるように、政府は丁寧な説明をしていく必要があります。
(関西テレビ「newsランナー」2023年6月12日放送)