「やめよう!いらち運転」交通事故での死亡者数は大阪が全国ワーストに 府警が危機感 スピード取り締まり強化へ 突然に人の命を奪う事故の現実 「今でも帰ってくるような…」遺族が悲痛な思い語る 2023年06月12日
2022年の大阪府の交通死亡事故の死者数は141人となり、調査開始以来、初めての全国ワーストとなってしまいました。どうすれば事故は減らせるのか?警察の取り組みと、大切な人を失った遺族の思いを取材しました。
■多発する交通事故 軽率な運転が引き起こす事故の瞬間
大阪府門真市の幹線道路を走る車。次の瞬間…歩道から飛び出してきた男性と衝突しました。この道路の制限速度は50キロですが、車は当時70キロを出しており、20キロも制限速度をオーバーして走っていました。
こちらは守口市にある交差点の映像。車が次々に右折していきます。バイクも流れに乗って右折しようとしたところ、反対側から直進してきた車と衝突しました。
こちらは大阪市浪速区の生活道路を走る車の車載カメラ映像です。よく見ると一時停止の標識がありますが、車は停止せずに進み、右側からやって来た自転車に気づかず衝突してしまいました。
これらの事故は、それぞれがルールを守っていれば避けられた事故です。
■交通死亡事故…大阪が“初の全国ワースト”に
大阪府では、2022年の1年間で、交通事故がおよそ2万5000件発生しました。特に、スピード違反や一時停止をしないなど“心にゆとりのない運転”が大きな課題となっています。
被害者が死亡するひき逃げ事件も相次いでいます。2022年8月には大阪市生野区の商店街で1歳の女の子が車にひかれる死亡ひき逃げ事件が発生。そして、2022年12月にも堺市中区で夜間パトロール中に男性4人がひき逃げされ、そのうち2人が死亡する事件がありました。
大阪府で、2022年の1年間に起きた死亡事故は138件で、141人の尊い命が奪われました。交通事故での死亡者数は、統計をとり始めた1948年以降初めて大阪が全国ワーストとなってしまったのです。
大阪ではことしに入っても、交通死亡事故は減らず、4月には、吉村知事による「交通死亡事故多発警報」が発令されました。
【大阪府・吉村洋文知事】
「交通死亡事故が増えていますので、ぜひ気を付けていただきたい」
しかし、2023年、すでに70人以上が交通事故で死亡していて、ワーストを記録した2022年を上回るペースとなっているのです。
こうした非常事態に大阪府警も頭を抱えています。
今年5月、大阪府警交通部では緊急の幹部会議が開かれ、今後の対策について話し合われました。
「昨年、府下では141人の方が交通事故で亡くなっていて、全国で初めてワーストという形になっています。危機的な状況だと感じている。歯止めが利いていない状況なので、もう1ランク上げた対策を取っていきたい」
■「やめよう!いらち運転」 異例の事故増加に大阪府警が対策
大阪府警は、毎年5月に「春の交通安全運動」を実施し、安全運転を呼び掛ける啓発に取り組んでいます。しかし、死亡事故が異例のペースで増えていることから、交通安全運動の期間が終わった6月以降も対策に取り組んでいます。
着目したのは、スピード違反の取り締まり。たとえ事故が起きたとしても、スピードが出ていなければ死亡事故は減らせると考えました。
大阪府警は、死亡事故増加の背景には、信号無視やスピード違反など、ドライバーにゆとりがなく、せっかちな運転があると分析しました。これを「いらち運転」と名付け、「やめよう!いらち運転」と呼び掛けています。
大阪府警交通部の丸山直紀部長は、事故を起こした場合、車のスピードが時速40キロを超えているかどうかが、死亡事故になるかどうかの分かれ目だと指摘、スピード違反取り締まりの意義を強調します。
【大阪府警 交通部 丸山直紀部長】
「『危ない危険だ』と思った時の速度が40キロを超えているか、統計的にも死亡事故になるかならないか大きく変わる。速度違反の取り締まりを、しっかりやることによってスピードに対する意識を高めていきたいと考えております」
交通死亡事故のうちおよそ6割は、交通量の多い幹線道路で発生しています。6月に吹田市内の国道で行われた取り締まりでは、2時間で15件のスピード違反が摘発されました。大きな事故を起こさないためにも、安全運転が求められます。
■交通事故で突然奪われた命 遺族のやりきれない思い
2022年6月に起きた交通事故で、ある女性の命が突然奪われました。お笑いが大好きで明るい性格だった松本実波(まつもと みなみ)さん、当時28歳でした。
【松本実波さんの父・松本一敏さん】
「自分が悲しいことをさておいて、他人の悲しみそれに対して何とか励ましてあげよう、ケアしてあげようということを絶やさない子でした。『笑顔が絶えないね』と言っていた我が家の雰囲気がガラッと変わりました」
実波さんは、朝8時ごろ、自転車で通勤途中に交差点の横断帯を渡っていたところ、左折してきたトラックに巻き込まれました。
【松本実波さんの父・松本一敏さん】
「一回しかない一個しかない人生、命を娘から奪った。これから先の色んなことを、仕事も楽しいことも家族と一緒に過ごすことも、結婚して、子供ができてということ、それを奪ってしまった」
記念日には、手紙を書いて感謝を伝えるなど、家族思いの心の優しい女の子でした。
実波さんが大学生だった時に、父の日に書いてくれた手紙があります。
【実波さんからの手紙】
「お父さん!1日遅れてもうたけど父の日おめでとう!お仕事頑張ったり、ネイティブに英語を頑張ったり、すごいとほんまに思います。あたしももうすぐ成人するし、身近な大人のお父さんをお手本にしようと思ってます!これからも健康に!」
【松本実波さんの父・松本一敏さん】
「私自身が仕事で行き詰って難しい顔をしていたら、その年々で娘は何か妙に励ましてくれるんです。気付いたことがあったら言葉だけじゃなく手紙も書いてくれるし」
一人暮らしをしながら、週末は実家に帰っていた実波さん。松本さんは今でも最後のやり取りが忘れられないと話します。
【松本実波さんの父・松本一敏さん】
「亡くなる前の日曜日に(実波さんが)『いってきます』って言うから、『はーい、気を付けて』って。『はーい』って…。『いつも気を付けて』って言っていたけれど、具体的に『トラックに気を付けて』とか、『交通に気を付けて』とか言っておいたら何か変わったかもしれないなあ…。いずれ帰ってくるような気がするから『いってきます』って言った娘のスリッパは置いています。明日起きたら、もしかしたら、『あー悪い夢見たな』って言うことであってほしいと思うんですけど、毎日起きても、これ現実なんですよね…」
一瞬の気持ちの隙が大惨事につながる交通事故。誰もがいつ加害者や被害者になってしまうか分かりません。事故を一つでも減らすためにドライバーには、今一度ゆとりのある運転が求められます。
(2023年6月12日 関西テレビ「newsランナー」放送)