学校の先生は大変 給食を“64秒”で食べる日も 「子供がいい顔をしたら、それでうれしい」 “やりがい”に依存した教育現場 何を変えれば先生の負担は減るのか? 2023年06月06日
学校の先生は「定額働かせ放題」と言われているのをご存じでしょうか。長時間労働や人手不足が深刻な問題となっています。5月、自民党は働き方や待遇を改善する案を提言し、政府は、近く対策の方向性を示すことにしています。何をどこから変えていくべきなのでしょうか。“息つく暇もない”先生の一日を密着取材しました。
■午前2時半 パソコンに向かって授業準備をする6年生の担任
平日の午前2時半。真夜中にパソコンに向かっているのは、大阪市立の小学校で6年生の担任をしている、松下隼司先生(45)です。
【松下隼司先生】
「午前1時半に目が覚めましたね」
(Q.今日だけ?)「毎日ですね。毎日早いですね」
2人の子供の父親でもある松下先生は、夜は子供と一緒に早く寝ます。その分未明に起きて、学校でできなかった仕事や授業の準備をする毎日を送っています。
【松下先生】
(Q.このメモは何ですか?)「メモは授業の流れです。東日本大震災の復興基本法で『3カ月かかったよ』っていうところは、子供たちに授業で考えさせたいなと思っています」
児童との接し方について書かれた本やYouTubeも参考にしながら、その日の授業をどう進めるか、シミュレーションをしていきます。
子供が起きてくるまで準備をしたあと、3歳の娘を保育園に送り届けて、学校に向かい、午前8時に出勤します。
児童が来る前に、パソコンでの欠席連絡の確認などを行います。朝の準備が整った頃、児童たちが登校してきました。
■「ICT教育」「パワーポイント」「プログラミング」新しく増える授業内容に対応求められる先生
1時間目は「総合」の授業。この日は新しく設けられた「ICT教育」で、1人1台支給されたパソコンを使う「調べ学習」を行います。
【6年生の児童】
「(修学旅行先の)『菅島』を調べています。その写真を保存して、パワーポイントで載せる」
(Q.パワーポイントの使い方って授業っで習ったの?)「うん」
【松下先生】
「子供の方が早いですね。教えんでも、どんどん使い方を自分で見つけてきますね。触ってみて。大人はね、その第一歩がなかなかですけど」
先生たちは、「パワーポイント」や「プログラミング」などもイチから学び、教えなくてはなりません。
休み時間の職員室では、慌ただしく保護者に連絡を取る先生たちの姿があります。松下先生はこの休み時間、登校していない児童の保護者に、遅刻か欠席か、確認しました。
2時間目は「算数」。授業では意外な場面がありました。算数のテストを始めて10分後、子供たちが次々と席を立ち始めたのです。以前は放課後に丸つけをして、翌日に返していましたが、自信のある子は先に提出して、その場で採点するやり方に変えました。
【松下先生】
「放課後も、年々会議や研修で全部詰まって、丸つけ・採点をする時間も十分に確保できなくなってるので、もうその時に丸つけするようにしています。子供たちにとっても、次の日返されるよりも、間違い直しもしやすいっていうので」
【松下先生】
「これ惜しいな」
【児童】
「うわ~マジか」
【松下先生】
「99(点)にしとくな。赤で直しといて。今のいいリアクションでしたね」
■先生が席について給食を“食べていた”時間は「64秒」
午前中の授業が終わり「給食」の時間。配膳は子供たちに任せて、松下先生は職員室と教室を往復します。
【松下先生】
「この時間、子供らがしっかりと給食の用意ができるので、この時間もありがたく、“お休みしてる子らへの準備”に使います」
【当番】「いただきます」
【全員】「いただきまーす!」
子供たちが食べ始めると、先生はお休みしている子に、授業の内容を伝える手紙を書き始めました。食事に手を付けたと思ったら、次の瞬間にはもう、“箸”から“鉛筆”に持ち替え、また手紙の続きです。
【松下先生】
「ちょっとコピーしてくるね」
(Q.先生、食べ方いつもああなの?)
【児童】「うん」「汚いでしょ?」「パンなんかさ、こういくもんな」
この日、松下先生が席について給食を“食べていた”時間は「64秒」でした。
松下先生がここまで時間を惜しむ理由は、昼休みに子供たちと遊ぶ時間を、少しでも確保したいからです。
【松下先生】
「授業も楽しいんですけど、遊ぶとね、子供との距離がぐっと縮まるし、『あ~先生やってて良かったな』って思います」
近頃の先生はいろんな仕事に追われて、一緒に遊んだり、一緒に掃除をしたり“子供とすごす時間”が、なかなか取れなくなっています。
■専門の教員を増やそうにも人材確保は簡単ではない
他の先生たちに、“忙しい理由”を聞いてみました。
【教員5年目】
「夜は遅くて9時とかになります」
(Q.持ち帰りはされてない?)「あります、あります。会議の資料ですとか、あとは授業の用意ですとか。でも子供たちの反応が、しっかり練った授業とそうでない場合は明らかに違ってくるのを何度も目の当たりにしていますので」
【教員7年目】
「英語とか、やっぱり専門の先生に教えてもらった方がいいから、専科が増えると、業務がちょっと減るかなっていうのと。事務仕事も(教材費などの)会計を作ったりもするので、そういうの手伝ってもらえたら業務はちょっと減るかなと思うんですけど…」
英語の授業では、
【松下先生】 「What color do you like? さんはい」
【児童】 「What color do you like?」
2020年度から「英語」や「道徳」が“成績を付けなければいけない教科”になったことも、負担が増えている要因の一つです。大阪市は、専門の教員を増やそうとしていますが、人材の確保は簡単ではありません。
午後3時半、6時間目の授業が終わって子供たちが下校しました。ここでホッと一息といきたいところですが、席に着く間もなく職員室を飛び出す松下先生。
【松下先生】
「(会議前に)修学旅行関係の資料を泊まるホテルに送る」
午後4時からは学年主任会議です。この日は、児童や保護者が参加する行事について課題が見つかり、「規定の業務時間」である午後5時を過ぎても、会議は続きました。
文部科学省によると、「残業時間の上限」としている月45時間を超えて働く小学校の教員は64.5%。「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業に相当する教員も14.2%に上ります。
■「“ブラック”だけじゃない良いものが教師の世界にはあると思っていますけど…」
【大阪市立豊仁小学校 泉野泰久校長】
「『ICT』もしかり、『プログラミング』がそこに出てくる、あるいは『英語』教育が出てくる。いろんなものがどんどん増えていくだけで、じゃあ何かを減らしていったかっていうようなものは一つもないんですよ」
(Q.今の先生の仕事は「ブラック」と言われることもありますが?)
【泉野校長】
「“ブラック”だけじゃない。もっとブラックよりも良いものは、教師の世界にはあると、僕は思っていますけど。若い人は思ってないのかもしれませんけどね」
■「子供がいい顔を見せてくれたら、それでうれしいんで」
松下先生は普段、子供のお迎えのため午後5時過ぎに帰っていますが、7時を過ぎても残っている教員も少なくありません。
【松下先生】
「仕事を残して帰ってるんで」
(Q.今日残った仕事は?)「明日も『ゆとりの日(一斉定時退庁日)』で、早く(学校を)閉めないといけないんで、ひょっとしたら土日パソコン持って帰ってやるしか間に合わないかなと思います」
「子供たちのために頑張って、子供がいい顔を見せてくれたら、それでうれしいんで」
先生たちの“やりがい”に任せて崩壊寸前の教育現場。これでは子供たちのためにもなりません。何を変えれば先生たちの負担は減るのでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」2023年6月5日放送)