5月は震度4以上11回…能登“震度6強”のきっかけは『流体』か プレートや断層だけではない“地震メカニズム” 南海トラフ地震との関連は? 専門家「“流体”地震は関西でも起きていたか」 2023年05月17日
5月5日午後2時42分ごろ、石川県能登地方で最大震度6強の地震が発生しました。
【石川・珠洲市市役所】
「どんと突き上げるような大きな揺れを感じました」
【石川・珠洲市上空 カメラマンリポート】
「石川県珠洲市上空です。家屋が倒壊しているのが見られます」
【住民】
「大きな地震が続いてますし、いつなんどき来るか分かりませんし、それを予測することもできないですし。本当にどうしたらいいのかなというのは常々思っています」
大きな地震は別の場所でも発生しています。11日の早朝には、千葉県南部を震源とする大きな地震が発生し、千葉・木更津市で震度5強を観測しました。同じく11日、北海道でも日高地方東部を震源とする最大震度4の地震が起きました。その2日後、13日には鹿児島の十島村で震度5弱の揺れを観測しました。
5月に入り、全国で“震度4以上”の揺れが観測されたのは11回に上ります。特に揺れが大きかった石川県能登地方について、政府の調査委員会は、「この状況は当分続くと考えられる」と指摘しました。
【地震調査委員会 平田直委員長】
「地下から『流体』が浅い所に染み出し、地震が起きやすくなっている」
地震発生に大きな影響を与えている可能性が指摘されている「流体」とは一体どんなものなのでしょうか。今後も地震を引き起こす可能性があるものなのでしょうか。
■能登地震への影響が指摘される「流体」 京大防災研・西村教授が解説
地震発生のメカニズムなどについて研究している、京都大学防災研究所・西村卓也教授に話を聞きました。
5月、石川能登地方の地震以降、日本列島で地震が頻発しています。石川県、北海道、青森県、千葉県、鹿児島県など、日本各地で大きな地震が起きています。これらの地震に関連性はあるのでしょうか?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
関係はほぼないと言っていいと思います。距離も離れていますし、それぞれの地震のタイプも違ったものですので、ほぼ関係ないと言っていいと思います。日本列島というのは大きい地震が頻繁に起きていますので、たまたま偶然が重なったと思っています。
今回の石川県の活発な地震活動に影響を与えていると指摘されたのが、「流体」です。「流体」とは地下にある水などを指します。流体によって引き起こされる地震のメカニズムは、
・地中には“プレート”というものがあり、動いています。プレートが動くにつれて、流体も地中深くに沈み込んでいきます
↓
・地中深くは非常に高温で、流体が熱せられて、上昇していき、高い圧力を発生させます
↓
・流体が、岩盤の亀裂や断層の隙間に入り込んで、潤滑油の役割をして、地震を引き起こすそうです
イメージしてもらうため例えるなら、流体は“水たまり”のようなものです。
・晴れていると、スリップして転ぶ可能性は低いですよね。
・雨が降るとスリップする可能性は高くなります。
雨が降った後の水たまりを想像すると、流体がイメージしやすくなるのではないでしょうか。
流体によって断層が滑りやすくなっているということで、今回の石川の地震に流体が影響していると考えられるのでしょうか?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
能登半島には地震を起こすタネとなる、断層がいっぱいあります。流体は、その断層を動きやすくする役割を果たしている。 “水たまり”の例えでいうと、水がなくても滑って転ぶ人はいます。でも水があるとより滑りやすくなる。能登では水が上がってきたために、小さい地震が長く続いたり、5月5日の大きな地震が起こったりしたわけですね。
5月に入って日本各地で地震が起きていますが、全ての地震に流体が関わっているわけではありません。はっきり分かっているのは能登の地震だけです。なぜ今、能登で、流体が活発になっているかといいますと、能登の場合は2年半ぐらい前に流体が、 上がってきたということが分かっています。それが地震を引き起こすきっかけになっていると捉えられています。地震予測についてはなかなか難しいのですが、流体の動きを捉えるというのは、予測に向けて1つの鍵になるかと思います 。
関西でも大きな地震が起きていますが、流体が影響して地震が引き起こされたと考えられるものがあります。
・2022年3月 京都府南部で起きた震度4の地震
・2021年3月 和歌山県北部起きた震度5弱の地震
なぜこれらの地震は、流体が関連していると考えられるのですか?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
こういう場所は、地下の地震波の速度とか、電気抵抗などを調査していますと、電気を通しやすい物質、つまり水=流体があるんじゃないかと思われている場所の近くにありまして、場所が近いことから、流体が地震を引き起こしたんじゃないかと考えられています。
流体の位置が分かると、地震の予知にもつながってくるのでしょうか?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
それは1つの鍵になることだと思います。流体だけがあるからと言って、地震が予測できるわけではありませんが、やはり地震を起こしやすくする効果がありますので、それを調べていくことは重要です。
過去の大きな地震、阪神淡路大震災や東日本大震災も、流体が関連している可能性はありますか?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
研究者の間でも意見が分かれるところですが、2つの地震に関しても、やはり流体が関与していたんじゃないかというような研究例はいくつか報告されています。地下のことなので、確実にこうだとは言い切れないのですけれども、いろんな説があるという段階です。
流体は時間をかけて地層を滑りやすくするものなのですか?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
プレートが沈み込んで、流体が上がってくるためには、もう何十万年~何百万年という時間をかけて上がってくるものとなります。地震予知をする以前に、地下に流体があるかどうかという状態を調べるだけでもかなり大変なことです。
研究者の間でも流体について意見が分かれるということですが、流体が地震を引き起こすということは、共通見解なのでしょうか?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
そうですね。例えば実験なんかで、岩石を滑らせるような実験をすると、流体を入れると滑りやすくなるということは分かってますので、そこは共通見解だと思います。実際に、ある地域の地下に、流体があるかどうかというところが、まだ意見が分かれるところです。
■「流体」原因の地震はどこで起きる? 「南海トラフ地震」はいつ起きる?
ここで関西テレビ「newsランナー」の視聴者から質問が来ています。
Q.流体が原因の地震 どんな場所で起きるの?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
日本のあちこちで流体が関与しているだろうと考えられる地震があるんですけれども、近畿で言いますと、和歌山県の北部であるとか、あるいは兵庫県や大阪北部のあたりも、流体が上がりやすい、流体があるんじゃないかと考えられてる所がありまして、こういうところが1つポイントかなと思います。
Q.南海トラフ巨大地震も流体が関係するの?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
流体と言っているのは、元々海の水がほぼ原因ですので、特に南海トラフの周りはもう海の底ですから、水がいっぱい地下の断層に取り込まれて、流体がいっぱいあると考えられています。ですので、南海トラフ地震も、流体が何らか関係して起こる地震と言っていいと思います。
南海トラフの地震というのは、陸と海のプレートの境目に起こる地震なんですけど、海の水がプレートの中に取り込まれて、流体がいっぱい入ってきていまして、そういうものが地震のきっかけとなるんじゃないか。流体がなくてもプレートの動きによって地震は起こるんですが、動くきっかけを作るのが流体ということです。
プレートは年間6センチとか一定の速度で動いていますが、プレートの動きによって、ギュギュと押された時に、そこから水が入ってくると、それがきっかけでズルッと滑る。きっかけを作るものなんですね。
地震はいつ起こるか分からず、備えが大事ですよね。
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
そうです。特に南海トラフ地震の場合、広域に被害が及びますので、なかなか救助の体制も整わない。まずは自分でできることをしていただく、備蓄とかしていただくのが重要だと思います。
Q.南海トラフ巨大地震が起きるなら何年後?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
なかなか難しい問題です。10年後かもしれない、50年後かもしれない。一つ言えるのは、確実に南海トラフ地震は将来起こるということです。我々の観測しているデ-タを見ましても、日本列島は南海トラフに押されて歪んで力を蓄えている状況です。いつか耐え切れなくなって、跳ね返るのが南海トラフ巨大地震です。状況は進んでいます。
Q.南海トラフ巨大地震 前兆は何かありますか?
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
はっきりと分かるというのはなかなか期待できないですね。地震の後に調べてみて、これが前兆だったかもしれないと思われる現象というのは、いくつかあるんですけれども、それを事前につかまえることは、まず難しいと思っていただきたい。地震の予知・予測は現状できない、南海トラフ地震も予知できないんだと思って備えていただくことが重要です。
あらためて「命を守るために必要なこと」を教えてください。
【京都大学 防災研究所 西村卓也教授】
まず、地震の揺れの瞬間に身を守れるようにするということです。そのためには、家具の固定であるとか、寝る場所に注意して倒れてくるものがある所に寝ないということが重要です。南海トラフ地震の場合は、備蓄、食料、飲料水、そういうものも重要だと思います。
地震研究は日々進化していますが、まず私たちの備えをしっかりとしておかなくてはいけない ということです。
(関西テレビ「newsランナー」 2023年5月17日放送)