串カツの油が飛行機燃料に使われていた!フライ(fry)からフライ(fly)へ 実は今、世界で“揚げ物油”争奪戦 キッチンの油は都市油田になるかも 2023年05月16日
揚げ物に使った油の処理、皆さんはどうしているでしょうか?家で揚げ物をすると、揚げた後の油の処理が結構大変ですよね。でも、その厄介な、調理後の揚げもの油が、「売り物」になる日がくるかもしれません。
■「揚げ物油」がエコな燃料に!?
16日、堺市で日本初となる「ある大規模工場」の建設が始まりました。何のための工場かというと…
【日揮ホールディングス・佐藤雅之代表取締役会長CEO】
「まさにフライからフライなのですが、フライトゥフライですね」
【日揮ホールディングス・佐藤雅之代表取締役会長CEO】
(Q.1つ目のフライは?)
「えびフライのフライ」
(Q.2個目のフライは?)
「”飛ぶ”を意味するフライです」
“フライ”つまり揚げ物をした使用済みの油で飛行機を飛ばす燃料を作るというのです。美味しい串カツを揚げた後の、いわゆる”揚げ物油”。
実はこれ、ほぼ全て捨てられることなく業者に回収されていて、ニワトリの飼料やペンキの原料など、様々なものに再利用されています。
そんな中、”揚げ物油”の新たな使い道として浮上したのが、飛行機の燃料「SAF(サフ)」です。
全国油脂事業協同組合連合会によると、「SAF」を作るという新たな需要が生まれたことで、”揚げ物油”の取引価格がこの2年でなんと3倍近くにまで高騰。世界で「”揚げ物油”争奪戦」が起きているのです。
【油の回収業者は…】
(Q.1日にどれぐらい回るんですか?)
「平均で40~50件は回っていると思いますね」
大阪府大東市の植田油脂はレストランやコンビニから月2千トンの”揚げ物油”を回収していますが、世界からの需要の高まりを感じていると言います。
【植田油脂営業統括本部長 髙橋史年さん】
「週に1度、2~3日に一度ぐらい、初めましてでお電話いただきまして『油を分けてくれ、輸出するんだ』というご依頼のお問い合わせが増えました」
さらに変わったのは、”揚げ物油”を出す側の意識です。
【植田油脂営業統括本部長 髙橋史年さん】
「コンビニからも、利用用途を求められる動きがあって。『CO2削減になる用途に優先的にリサイクルしてください』そういったことを求められる時代になりました」
しかし、すでに激しい奪い合いが起きている中、これまでほとんど回収されてこなかった家庭から出た”揚げ物油”を集めるなどして、何とか「SAF」を作る原料を確保しようと動き出しています。
【植田油脂営業統括本部長 髙橋史年さん】
「2~3年後にはご家庭の油を使って飛行機が飛ぶ時代が来るかもしれません」
希望に満ちた”揚げ物油”。次世代の燃料「SAF」はどんな未来を作るのでしょうか
皆さんのお宅にある揚げ物油が、おカネになるかも!?そんな気になる話題について、専門家に聞いていきます。ポスト石油戦略研究所の大場紀章さんです。
キーワードは“Fry to fly”。
次世代の航空燃料が関係しています。なぜ、家庭の揚げ物油がおカネになる可能性があるのか、そのカラクリを見ていきましょう。
航空機燃料「SAF(サフ)」は石油を使うのではなく、植物から作られた植物油などの廃油を原料とします。燃料を燃やす時にCO2を排出しますが、植物が成長する時にCO2を吸収します。
その植物から植物油が作られ、廃油が航空機燃料として使用されるので、結果的にCO2の排出を実質8割ほど減らすことができます。そして、他にもエタノールなどでも燃料は作れるのですが、植物油だと比較的安く作ることができるということです。
大場さん、SAFは安くて環境に配慮された新しい航空機燃料なんですね。
【ポスト石油戦略研究所 大場紀章さん】
「廃食油の回収など面倒くさいことやっていると思われるかもしれません。”環境にいい”と聞くと、電気自動車を思い浮かべる方もいると思いますが、飛行機は電気では飛ばせないです。そこで、飛行機に関しては環境に優しい燃料SAFが注目されるようになりました。バイオ燃料の飛行機版みたいな感じですかね」
そして、揚げもの油がおカネになるカラクリですが背景はこちら。
SAFの原料になる植物油などの廃油が、圧倒的に不足しているんです。
なぜ原料の廃油が不足しているのでしょうか、その背景を見てみると、家庭の揚げもの油がおカネになるかもしれない理由が分かります。
国や環境団体は、航空時の環境面への効果などを考慮し、年間170万トンの燃料をSAFに置き換えることを目標にしています。しかし、年間の廃食油は50万トンでしかありません。そのうち10万トンが、家庭などから出る廃食油なんですが、ほとんどが未回収で捨てられています。つまり、この捨てられている廃食油の需要が高まっているということなんです。
家のキッチンの不要な油が、まさに都市油田になるかも知れないという話ですが…
【ポスト石油戦略研究所 大場紀章さん】
「年間170万トンの燃料が2030年に必要だと言われています。それに対して家庭からの廃食油は10万トン。まったく足りません。今後ますます廃食油の奪い合いになるでしょう。世界ではすでに奪い合いが始まっていて、だから日本からも大量に輸出されています。実際に取引の値段も上がっていて、1キロ130円くらいで取引されています。今までゴミだったものが、1キロ130円で取引されるってすごいことですよね」
ここで視聴者からLINEで質問が来ています。
Q:家で出た揚げ物油の回収の仕方はどうなるのでしょうか?
【ポスト石油戦略研究所 大場紀章さん】
「気を付けて頂きたいのは水が入らないようにすることです。乾いたボトルに廃食油を入れておくなどしてください。揚げカスの混入は問題ありませんが、水の混入はよくないです」
Q:米油や菜の花油など種類関係なく燃料になりますか?
【ポスト石油戦略研究所 大場紀章さん】
「一般的に発売されている食用油であれば、何でも大丈夫です。動物性のラードとかでなければ問題ありません」
■SAFが推奨される理由それは「飛び恥」
なぜそこまでSAFを推すのか…大場さんの見解によると、世界のトレンドがコチラ「飛び恥」だからです。
飛び恥とは、環境活動家のグレタさんがキッカケで広まった言葉です。主に欧州ではCO2の排出量が多い飛行機での移動を避ける人が増えていて、「飛ぶのは恥だ」「飛行機を使わず、鉄道や船で移動しよう」という考え方がトレンドになっています。
こうした現状から今後、「SAFが給油できない日本には飛行機を出しません」という国が出てきたり、「SAFを使っていない飛行機は空港に入れません」という決まりができたりする可能性もあるということです。
大場さん、飛行機で移動する際、このような条件が出てくることもあり得る話なのでしょうか?
【ポスト石油戦略研究所 大場紀章さん】
「“飛び恥”は最近、欧米で出てきている考え方です。例えばビルゲイツなどお金持ちがプライベートジェットで飛びまくっていることに批判が大きくなっています。最近フランスでは2時間半以内の航空便は禁止する法律もできたりと、どうしても飛行機でないと行けない時以外は鉄道を使用する…などの考え方がヨーロッパでは広まっています」
化石燃料だけに頼るのではなく…という考え方は、徐々に日本にも浸透していきそうなのでしょうか?
【ポスト石油戦略研究所 大場紀章さん】
「すでに業界の規制や目標として、SAFを導入していこうということは決まっています」
■廃油の他に航空燃料の原料になるもの…それは「藻」
廃油のもう一歩先にも、航空燃料の原料になると注目されているものがあるそうです。
それが、コチラ!
藻です。大場さん、藻で飛行機を飛ばすことができるんですか?
【ポスト石油戦略研究所 大場紀章さん】
「廃食油で飛行機燃料を作ることですが、世界的に圧倒的に廃食油は不足するのは分かっています。廃食油も元々は畑で作っているので、結局のところ畑が必要なんです。そうすると食料と燃料とで、畑を奪い合う可能性があります。
藻でやると、食料や植物を育てられないような荒れた土地でも生産が可能です。しかもこの技術は日本が開発リードしているんです。世界最大の藻の生産設備は『ちとせ』という企業が作っています。そうした点でも注目したいです」
環境問題ももちろんですが、揚げもの油がおカネに変わる。さらには日本が開発をリードする「藻」が飛行機の燃料になる。環境にも優しくてリーズナブル…そんな未来が実現することを期待つつ、今後もSAFを巡る動向が注目されます。
(関西テレビ「newsランナー」5月16日放送)