“核なき世界”に向けたステップとなるか 『G7広島サミット』 世界の首脳と配偶者の「原爆資料館・平和記念公園訪問」にサミット研究者は注目 2023年05月15日
5月19日に開幕する「G7広島サミット」について、サミットを研究している、名古屋外国語大学の高瀬教授に聞きました。
世界が注目するサミットですが、どんなことをやっているのか、意外と知られていないことが多いと思います。
・何を決める会議なのか?
・注目ポイントは?
など、高瀬先生に解説してもらいました。
そもそもサミットとはどんなものなのか? 「G7」は、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7か国のことで、この主要7カ国とEU(欧州連合)により、毎年開催される国際会議が「G7サミット」です。議長国は7年ごとに持ち回りで決まっています。会議では、国際社会の重要課題について話し合います。
今回の議長国が日本ということですが、なぜ「広島」で開催されるのでしょうか?
【名古屋外国語大学 高瀬淳一教授】
「ロシアのウクライナ侵略の問題があります。それから東アジアで核兵器を開発している国もある。それから東シナ海の安全・安定のためにも、『広島』という“被爆地”で、核を使わせない、核兵器をできるだけ少なくしていく、そういったメッセージを出すために、岸田首相が出身地でもある広島を選んだのだろうと思います」
【関西テレビ 神崎報道デスク】
「被爆地であり、かつ岸田首相のいわゆる選挙区があり、岸田首相自身は『核なき世界』を目指しているという理念もありますので、二重三重に、広島でやる政治的な意味合いがあると思います」
国際社会の重要なテーマが話し合われるということですが、今回は何が話し合われるのでしょうか?
【名古屋外国語大学 高瀬淳一教授】
「もちろん、ウクライナ問題が中央議題の一つになります。それからせっかくアジアでやりますので、アジアの平和と安定のことも中心的な議題になると思います。その他に、世界経済の事をきちんと話し合わなければなりません。インフレ対策から、途上国に穀物が足りないといった問題も含めて、幅広く経済の問題を話し合います。さらに気候変動の問題や、男女平等を含めた社会問題を議論していくということで、3日間、9回にわたって、首脳たちがいろんな話し合いをします」
G7サミットは、過去に何度も日本で行われていて、日本での開催は7回目となります。3回目までは東京で開催されていました。それ以降、地方で開催されるようになり、以下のような開催地となっています。
・2000年 九州・沖縄
・2008年 北海道の洞爺湖
・2016年 三重県の伊勢志摩
高瀬先生は、2000年の九州・沖縄サミットが、特に印象深いということですが、
【名古屋外国語大学 高瀬淳一教授】
「初めての東京以外での開催という事があります。それからアメリカ大統領が加わっている会議ですけれども、米軍基地のある沖縄で開いた、そこに政治的な意義があったと思っています。あとプーチンさんが、当時は冷戦が終わって、G7の仲間に入ろうとしていた時期ですので、初めてサミットに参加した画期的なサミットであったと思います」
2000年の九州・沖縄サミットは「G8」だったのですね。
【名古屋外国語大学 高瀬淳一教授】
「(プーチンさんが柔道している映像が残っていますが、)当時はまだテロの心配とか、まだ少なかった時期です。各国のリーダーが沖縄の街を訪問して、地元の方々と交流していました。その一環として、プーチンさんが学校を訪問して、柔道をやったという記録が残っているんだと思います。その後、クリミア半島に侵攻したということで、ロシアの参加はなくなりました。『G7』というのは“先進国”じゃなく、“主要国”ということで、国際法を守って、自由主義や民主主義を大事にして、途上国のために力を尽くそうという国ですから、他国を侵略する国は入ってもらいたくないということで、『G8』が『G7』になりました。もちろん、これから『G10』になったり、参加国数は変わっていくと思っています」
ここで、「newsランナー」視聴者からの質問です。「Q.広島サミットでテロや事件が起きる可能性はありますか?」
【名古屋外国語大学 高瀬淳一教授】
「可能性はゼロではありません。過去のサミットでも、必ず騒ぎを起こすといいましょうか、 自分たちの政治的なメッセージを伝えるために、何かしら注目を浴びたいから事件を起こす方がいるわけです。ですから可能性はゼロではないのですけれど、大規模なテロ、何十人もが亡くなるようなテロを、これだけの警備がある中でやる可能性は、そんなに高くないと思っています。『テロを許してはいけない』と思って警備を担当していると思いますので、あまり心配していません」
全国の警察官が、今、広島に集結していると状況もあります。
過去のサミットでは、実際にこのような事件が起こっています。
・1986年の東京サミット : 中核派が迎賓館に金属弾を発射。
・2000年の九州・沖縄サミット : 過激派が米軍基地に金属弾を発射。
・2005年のイギリス・グレンイーグルズサミット : ロンドンで同時多発テロが発生し、52人の死者、約700人の負傷者が出ました。
2005年の開催地は地方のグレンイーグルズでしたが、テロはロンドンで行われた。こういったケースもあるのですね?
【名古屋外国語大学 高瀬淳一教授】
「やっぱり首都や大都市でテロが発生することがある。今回は広島が大都市ですので、広島がターゲットになる可能性は高いと思いますが、東京という首都で何か事件を起こそうとか、あるいは政治的なメッセージを届けようという人がいても、おかしくありません。もちろん、それがテロであるという確証はありません」
今回のサミットで注目すべきポイントとして、「各国首脳と配偶者が、原爆資料館と平和記念公園を、そろって訪問するか」といった点を、高瀬先生はあげています。
【名古屋外国語大学 高瀬淳一教授】
「“そろって”といいましても、配偶者と手を取り合ってというわけではありませんでして、別プログラムで、別の日にはなります。G7の首脳、それから拡大会合に出席する首脳、 例えばインドのモディ首相も来ますし、インドネシアや韓国もリーダーが来ます。そういういった拡大会合に参加する方や、国際機関の方、配偶者プログラム、各参加者が原爆資料館を少しでも見てくれれば、それがジャーナリズムの力によって世界の人に知られていく。日本が被爆地であって、こういうことは起こしてはならないというメッセージが、広島から世界に発信される。その重要性に私は注目しています。
ただ首脳たちは議論をしに来ていて、9回にわたって議論をしなければいけない、合間を縫っての原爆資料館訪問ということになりますから、あまり長い時間じっくりは見ていられないかもしれません。それでも首脳たちが見たと報じられることによって、世界から観光客が来て、また資料館で学びをするということになりますと、核なき世界に向けた重要なステップになると思っています」
ここで、また視聴者からの質問です。「Q.サミット中、学校が休みになるのは、仕方がないことなのですか?」
【名古屋外国語大学 高瀬淳一教授】
「週末にかかるので、何日も休むわけではありません。宇品という島で首脳会議は行われます。首脳の方々はおそらく宇品島に泊まります。ただ拡大会合に参加する途上国のリーダー、それから国連の事務総長を筆頭にした国際機関のリーダーたちは、おそらく広島市内に泊まります。そこからの移動がありますので、交通を止めないといけないということになりますから、通勤通学に支障が出るということで、これは少し我慢をしていただいて、企業や学校など、1日だけお休みいただくということになろうかと思います。ただ国際会議が行われますから、『G7』の国について学んでみようとか、そういう機運が学校でも広がっていると思いますので、子供たちが国際的な知識を深める上でも、そのお休みをうまく活用してもらいたいなと思っています」
(関西テレビ「newsランナー」2023年5月15日放送)