出産費用を「保険適用」に 施設によってバラバラの費用を"一律化"へ 本当に負担は減る? 一方で"施設ならでは"のサービスがなくなる懸念 少子化対策につながるか 2023年04月18日
国は少子化対策のひとつとして出産を健康保険に適用する案を検討しています。これで本当に負担は減るのでしょうか。
■ 年々上がる”出産費用”
2021年度の平均は47万3000円にものぼりました。
少子化を受け出産数が減ったことで診療が値上がり。
妊婦の年齢が高くなるにつれ、リスクに備えた高度な医療が必要になるなど様々な要因が費用を押し上げています。
一方でこんな動きもあります。
JCHO大阪病院が2カ月前に作ったホテルのような特別個室は、割高にも関わらず入院希望が集まっています。
【出産を終えたばかりの女性】
「『ちょっとどこかに泊まりに来た』みたいな雰囲気でゆっくりできています」
背景にあるのは、「子供は1人だけにして一度の出産にお金をしっかりかけよう」という考え方です。
この流れに、さらなる少子化への危機感を覚えた政府は、対策に踏み切りました。
【岸田文雄首相】(去年12月)
「出産育児一時金を現行の42万円から50万円へ大幅に増額いたします。これは過去最高の引き上げ幅です」
しかし、出産を控える人からは疑念の声が上がっています。
【妊娠中の女性】
「出産一時金が増えても、結局産院のかかる費用が値上がりする。いたちごっこみたいな感じがずっとしています」
そこで新たに浮上している案が、出産費用への「保険の適用」です。
現在、正常な出産の場合「病気ではない」として保険の適用はされず、価格も施設によってバラバラ。
政府は保険適用にすることでこれを一律化し、将来的には原則3割の自己負担も無償化しようと検討しています。
【JCHO大阪病院 筒井建紀 産科部長】
「東京のブランド産科病院は、かなり運営費を高く設定している。地方の出産施設はそうではなくて、出産一時金程度の出産費用になっている。その辺の格差が是正されてくることはあるかもしれないですね」
一方、保険適用に複雑な思いの医師もいます。
大阪にある小川産婦人科の室谷院長は、「大きな病院にはできない手厚いケアがしたい」と開業医に転身。
安全なお産のためにより多くのスタッフをそろえていますが、保険適用に伴い価格が一律化されるとそうした”施設ならでは”のサービスができなくなるのではと懸念しています。
【小川産婦人科 室谷毅院長】
「やっぱり収入がないと難しい。『この段階で』とされちゃうと、サービスをカットして、人の配置を減らして数を回していくというスタイルになっていくとしたら、お母さんたちの安心・安全につながるのか。分娩をやめるところが出てくるんじゃないかと思います」
■ 保険適用で今とどう変わる?
(例:出産費用が55万円の場合)
出産費用(分娩費用、検査、薬代など)が55万円かかったとすると、現在であれば、出産一時金が50万円なので持ち出しで5万円がかかってしまいます。
一方で、政府が検討している保険適用になると3割負担なので、持ち出しが16万5000円と今よりも負担が多くなります。
ただ、岸田首相はこれを「自己負担ゼロの制度を検討している」と話しており、もし実現すれば出産費用は実質ゼロということになります。
―Q:出産一時金ではダメなのでしょうか?
【関西テレビ・加藤さゆり解説デスク】
「出産一時金は増えているんですが、出産費用も同様にあがっています。なぜなら少子高齢化で利用する人が減っているにも関わらず、病院にかかる固定費はかかるためで、診察料に上乗せされています。さらに出産一時金を上げると、病院がほかの部分で費用を上げるという“いたちごっこ”になってしまっている現状があります。保険適用にすれば、無駄な競争を抑えられるのではないかという考えがあります」
―Q:一時金をやめて保険適用にする効果をどうみていますか?
【大阪大学大学院 安田洋祐教授】
「どこまで保険適用にするかによると思います。国である程度基準を厳しくした場合、保険適用にすると多様なサービスがなくなってしまったら困るなと。逆に多様なオプションも保険適用になる発想もあると思いますが、値上がりは現状以上に深刻化するかもしれません」
「例えば10万円のオプションをつける場合、従来であればもらえる金額50万円は変わらず、10万円の出費を増やすかどうかを考えます。保険適用になったら『10万円のオプションを追加しても負担は3万円しか増えない』と考えると、オプションをつけたくなると思うので医療費高騰を招く可能性がありますね。今後どこまで保険適用するのか注視する必要があります」
こども1人の子育てに必要な費用は大学まですべて公立に通わせたとしても、およそ3218万円かかるというデータも示されています。
【大阪大学大学院 安田洋祐教授】
「働き盛りの現役世代の負担を考えると、社会保険料も増えてきているので、追加の手当だけではなく削れるところを削るなど、社会保障や税をきちんと考えていかないとまずいのではないかと思います」
出産費をめぐるこの策で本当に問題解決となるのでしょうか。議論を深める必要がありそうです。
(2023年4月18日 関西テレビ「newsランナー」)