岸田首相ウクライナ“電撃”訪問 「G7最後の訪問」が逆に”インパクト”になる運も? 神戸学院大・岡部教授「支援内容や訪問先など"演出面"重要」 2023年03月21日
インドでの外遊を終えた岸田首相が、そのまま日本に帰国するかと思いきや、電撃でウクライナに訪問することが発表されました。日本時間の21日夜にもゼレンスキー大統領との会談が行われる見通しです。
電撃訪問の狙いと背景について、ウクライナ事情に精通している神戸学院大学の岡部芳彦教授と、ウクライナから発信を続ける日本にも居住歴のあるボクダン・パルホメンコさんに伺いました。
【関西テレビ・新実キャスター】(*以降、基本的に問いかけや説明は新実キャスター)
日本の首相がようやくゼレンスキー大統領と会談となりますが、どう受け止めておられますか?
【神戸学院大学・岡部芳彦教授】
「G7の国では最後の訪問となり『遅すぎる』という声もありますが、訪問できたこと自体はとても良かったです、意義深いです。今回の訪問に関する情報が、ギリギリまで表に出てこなかったですし、その辺りの情報コントロールも含めてうまくいっているのではないでしょうか」
もう一人、今回の電撃訪問についての受け止め方を伺いたい方がいます。ウクライナにいるボグダン・パルホメンコさんです。
【ボグダン・パルホメンコさん】
「私はいま(現地時間21日午前10時ごろ)、キーウを離れてポーランド国境に近い西部の街・リビウにいます。
(Q:このニュースは報じられているのでしょうか?)
大々的に報じられています。まだ今回の電撃訪問に関しての映像や音声はないですけれども、本当にウクライナ国民が待ち望んだ日本のトップの岸田首相の訪問ですので、とても大きな関心が寄せられているのではないかと感じています」
【ボグダン・パルホメンコさん】
「(Q:岸田首相の訪問はやはり遅いと感じますか?)
遅いというのはありますが、遅かれ早かれ実現すると思っていたので、このタイミングで来てくれるのは大きな意味がありますし、私はポジティブに前向きに受け止めています。今回、私が注目したいのは”軍事的な支援”があるのかどうか…です。例えばですが、日本が保有する『地対空ミサイル』などです、ウクライナが国民の命を守るために必要なものとして…です。
そしてもう一つは、”ウクライナの復興”に関する(日本の)リーダーシップについての言及があれば、ウクライナ国民にとっては大きな心の支えになると思います。
あとウクライナ人としては、日本が北方領土に関してどういう立ち位置にあるのか、ここはウクライナとしては力を合わせたいという気持ちでいるので、ここに関して岸田首相とゼレンスキー大統領との間でどういう話になるのか非常に気になるところです」
「地対空システム」に関する話がありましたが、「紛争の当事国に武器は送らない」というのが日本の方針ではありますが、「その中でも日本にはまだまだ出来ることがあるのではないか…」というのがボグダンさんがこれまでも仰っていることですよね。
【ボグダン・パルホメンコさん】
「もちろん(武器を送ることが)できないのは分かっています。ただ、防弾チョッキやヘルメットも『(当初は)出来ない』という中でやっていただきました。イレギュラーなルールを設けて、なにか提供してくれたら日本のインパクトが強くなるのではないかとも思います。ただやはり期待したいメインは復興支援です。
(Q:今回の電撃訪問は、日本の国民にどのように伝わって欲しいですか?)
【ボグダン・パルホメンコさん】
「ウクライナが立たされている大変さが伝わればと思います。今回の訪問でより注目してくれると思いますし、この訪問をキッカケに、日本の方にウクライナをもっと身近に感じてもらって、ウクライナと日本の関係が発展してくれればと思います」
今回の電撃訪問、岸田首相がどんなルートでウクライナに向かっているのかですが、いま分かっている範囲ではこういう行程になります。
インドからチャーター機でポーランド(プシミシェル)に入ったということです。そして、鉄道を使ってウクライナの首都・キーウを目指します、およそ10時間かかると言われています。このルートは2月、アメリカのバイデン大統領と同じルートになります。
このポーランドから入るルートは、各国の首脳がウクライナ訪問をする際の一般的なルートなのでしょうか?
【神戸学院大学・岡部芳彦教授】
「そうですね、ポーランドを経由して行くのが、一番理想的なルートだと思います。実はポーランドの政府関係者側と話をする機会がありまして、『岸田首相がウクライナに行きにくいのであれば、ポーランドまでゼレンスキー大統領に来てもらって、ポーランドで両首脳が会うことは考えられるだろうか?』ということについて意見を聞かれました。ポーランドはウクライナ支援に力を入れていますし、岸田首相のウクライナ訪問について去年から検討していましたし、色々な方々がさまざまな選択肢を考えていた中での、今回の電撃訪問につながったのではないか…と思います」
バイデン大統領が2月にウクライナを訪問した時はこんな条件下での行程でした。
▼警備は最小限で限定的
▼同行記者も2人、到着するまで携帯を取り上げ記事の出稿も止めていた
このくらい秘密裡で動いていました。日本政府も今回かなり慎重ですし、記者の同行はないのでしょうか?
【関西テレビ 神崎博デスク】
「なかなか情報がオープンにならず、訪問のことを知っている社もごくわずかです。今回はルートも2月のバイデン大統領と同じですし、その時のスケジュールを日本は参考にしたようです。最大の課題は岸田首相の警備・警護でした。ここもアメリカに相談したそうです。というのも、仮に自衛官が警備するとなると法律の問題もあります。なので警備についてもアメリカに相談していたという情報もあります」
たとえば、アメリカ軍やNATOの関係者がウクライナ国内まで踏み込んで警備するのは、ロシアは許さないでしょうから、オフィシャルな軍関係者などは警備したとしたとしてもポーランドまでになっていたのでしょうか?
【関西テレビ 神崎博デスク】
「キーウ国内にいるアメリカ政府関係者や、民間の警備会社に依頼するという選択肢を検討していたのかもしれません」
中国の習近平国家主席がプーチン大統領が面会したタイミングと、今回の電撃訪問が重なった点についてはどう思われますか?
【神戸学院大学・岡部芳彦教授】
「岸田さんには政治家としての”運”があると思います。習近平国家主席は、プーチン大統領との面会の後に、おそらく仲介役としてゼレンスキー大統領との電話会談などを考えていると言われています。その前に、岸田首相がゼレンスキー大統領に会うというのは非常にいいと思います、偶然かもしれませんが、政治家としての運があるなと思いました」
ただG7では最後の訪問だったわけです。G7各国は、2022年4月にイギリス・ジョンソン首相(当時)、その後カナダ、フランス、ドイツ、イタリアと各国の首脳が相次いでウクライナ入り。さらに2023年2月にはバイデン米大統領もウクライナを訪問しました。
ジャーナリストの鈴木哲夫さんに日本政府の考えを聞いてみたところ、『2月のバイデン大統領の訪問は、日本政府は相当慌てたのではないか…』ということでした。
【神戸学院大学・岡部芳彦教授】
「結果としてG7では最後の訪問となりましたが、”最後のインパクト”というか、印象には残るかもしれません」
今回のウクライナ訪問で、どのあたりが重要になるのか…について岡部教授の見解は”岸田首相が誰と会うのか?そしてどこに行くのか”という”演出的な側面”も大事だと指摘していますが、これはどうしてでしょうか。
【神戸学院大学・岡部芳彦教授】
「去年、イギリスのジョンソン首相(当時)が訪問した際は、ゼレンスキー大統領とキーウ市内を散歩したということが、世界に強い印象を与えました。バイデン大統領が訪問した際は『追悼の壁』と言われる、2014年以来の戦争で亡くなった人たちの写真が飾られてる場所で追悼したり、ゼレンスキー大統領と抱き合ったりした。そういうところで”メッセージ性”を出しています。岸田首相が誰と会うのか、どこに行くのか?それ次第で印象は大きく変わってくると思います」
岸田首相がどこに行くのか?ゼレンスキー大統領と最初に落ち合う場所はどこなのか?は注目ですね
【関西テレビ 神崎博デスク】
「ただ今回は時間がとても限られています。日本の国会日程もあるので急いで帰国しないといけません。また、ウクライナが夜の間に訪問するので、どこまで行動できるか…については日本側は厳しいかもしれません」
そうするとキーウに到着すると、すぐそのまま首脳会談に入るということになるのでしょうか?
【関西テレビ 神崎博デスク】
「そうですね。その後に時間がどのくらい残されているのか…でしょう」
その2人の会談の注目点についてですが、具体的なテーマが何になるのか?なにか渡せるもの、いわゆる”お土産”を持っていけるのでしょうか
【神戸学院大学・岡部芳彦教授】
「今回については、”訪問すること”だけでもお土産だと思います、(5月の)G7サミットの前ということもありますし。あるいは、岸田首相がゼレンスキー大統領をG7サミットに直接招くのかどうかも注目点かと思います。オンラインではなくて『実際に広島に来てください』と岸田首相が言うかどうかですね。あるいは、どういう支援内容を打ち出せるかではないでしょうか」
どんな演出で岸田首相とゼレンスキー大統領は会うのか?G7への招待があるのかどうか、注目です。
(関西テレビ「報道ランナー」3月21日放送)