ウクライナ侵攻から1年となりました。
軍事作戦の初日から動員され、”侵攻の当事者”になってしまったことに悩み、国を捨てた27歳の元ロシア兵がいます。なぜ戦うことをやめたのか?侵略する立場に置かれた苦悩を語ってくれました。
■祖国を捨てた27歳の元・ロシア兵
ウクライナの街を走る一台の車。
これは2022年5月、ウクライナに侵攻していたロシア兵が撮影した映像です。
「まっすぐ行って交差点と電線がある所を右だ」
ロシア軍のマークであるVやZの文字が書かれた軍用車両とすれ違いながら、兵士はただ、目的地へと運ばれていきます。
残虐なウクライナ侵攻の当事者にさせられた27歳のロシア兵はこの翌月、戦うことを拒否して逃走。6カ国を経由してたどりついたスペインの街でロシアのパスポートに自ら火をつけ、祖国を捨てました。
「こんにちは(Hola!)」
元ロシア兵、ニキータ・チブリンさん。取材に対しプーチン大統領への怒りを口にしました。
【元ロシア兵ニキータ・チブリンさん】
「プーチンの馬鹿野郎に伝えたいことは…、あんたがロシアを破壊して汚した。この地域で生きる資格がない、世界で生きる資格もない。消えるべきだ」
■1年前の2月24日 軍事作戦初日の朝5時に突然起こされた
ニキータさんをここまで反ロシアに駆り立てたものは何だったのでしょうか。2021年、徴兵を逃れることが出来ず、やむなく契約軍人として軍隊に所属することを選んだニキータさん。
ちょうど1年前の2月24日、軍事作戦が始まった当日のあさ5時に起こされたといいます。
【元ロシア兵ニキータ・チブリンさん】
「24日の朝5時に起こされて、『さあ、ぶっ壊しに行くぞ、準備しろ』と言われました。私が拒否すると、『殺す』と脅されました。襟をつかまれて、歩兵戦闘車に投げ入れられて、ドアを閉められました」
ニキータさんを「殺す」と脅した部隊で指揮官を務めていたのは、オムルベコフ大佐、別名「ブチャの虐殺者」。
オムルベコフ大佐が指揮する部隊が侵攻したブチャなどでは多くの民間人の遺体が見つかっていて、大佐はEU=ヨーロッパ連合から制裁を科されています。
ニキータさんが動画を撮影した町、ハルキウ州のイジュームでも…。4カ月後にウクライナ軍がこの街を取り戻した時に、集団墓地で400人を超える民間人の遺体が発見されました。
(Q.ロシアは民間人の殺害を否定していますが何か知っていることはありますか?)
【元ロシア兵ニキータ・チブリンさん】
「いいえ、自分の目では民間人の殺害を見たことはありません。想像するにロシア兵がアル中状態で殺したのか、それとも住民をスパイではないかと疑って殺したのではないでしょうか。ロシア兵の2~3人に1人は酔っぱらいでした」
ニキータさん自身は料理などの後方支援をしていたため、民間人の殺害を目撃したことはないというものの、同僚の兵士が貴金属などの略奪やレイプに手を染めたことは見聞きしたといいます。
【元ロシア兵ニキータ・チブリンさん】
「ロシアのメディアは、『ロシア兵はそういうことは絶対しません』と言っていますが、ロシア軍はやっています。私はこの目で(略奪を)見ました。自分に力があると感じて、武器を持っているから何でもできると思ったからでしょう。実際には分かりませんが、権力を持っていると感じたのではないでしょうか」
■侵略する立場に耐えられず脱走 亡命先でパスポートは燃やす
ニキータさんは自分が侵略する立場であることに耐えられず、戦線を離れるトラックに飛び乗り、脱走しました。亡命先でパスポートは燃やしましたが、軍隊手帳は手もとに残し、ある言葉を書き加えました。
【元ロシア兵ニキータ・チブリンさん】
「ウクライナに栄光あれ、プーチンの馬鹿野郎、と書きました」
ニキータさんは今後、戦地での出来事について積極的に発言しようと決めています。戦争が終わってほしいですね、と記者が声をかけるとニキータさんはこう答えました。
「戦争が終わるのはウクライナ軍が勝つ時だ」