メスへの優しさが子だくさんの秘訣 中国へ旅立つ白浜のパンダ「永明」 竹の味にはうるさい「グルメ」の一面も 飼育担当者が語る「永明」の魅力 2023年02月21日
竹をおいしそうに食べている、永明。30歳を超えた永明は、平均寿命を大きく超え、人間でいう90歳くらいの長寿パンダです。
永明が来日してからの28年半で誕生させた子どもは何と16頭!2月22日に中国に旅立つ「白浜のビッグダディー」が私たちに残してくれたものとは…
■副園長が語る来日当時の苦労 永明に学んだパンダ飼育
幼い頃から永明をそばで支えた、副園長の中尾さん。来日前、中国に迎えに行ったときの第一印象を話してくれました。
【副園長 中尾建子さん】
「メスの蓉浜は観覧通路側の木の上に登ってリラックスしてたんですけど、オスの永明は本当に寝室の奥の出入り口のところで、肉眼で見たら本当にちょっとしか見えないような状態で。オスの方が神経質なのかなって」
永明は今から29年前の1994年9月、まだ1歳の時にメスの蓉浜(ようひん・2歳)と一緒に中国・成都から来日。
中尾さんたちが最初に苦労したのは成長期に思ったように体重が増えなかったことでした。
【副園長 中尾建子さん】
「穀物やタンパク質、肉、卵とかそういったものがたくさんあるものをパンダ団子っていいまして、当時は竹はどちらかというと補助食みたいな形で、パンダ団子を主にあげていたんです。ただそれが永明にとってはちょっと負担になっていたみたいで。あまり体重が増えずにすぐ、おなかを壊したりとかすることを繰り返していたんで、大変私たちも心配しました」
中国人スタッフと試行錯誤しながら、永明の食事を従来のパンダ団子から徐々に自然環境と同じ竹に切り替えていきました。
永明がアドベンチャーワールドのパンダ飼育の基礎を整えてくれたのです。一方で、厳選した竹を一本ずつ丁寧に与え続けたことで、スタッフは、思わぬ奮闘を強いられることになりました。
■白浜の“ビッグダディー”16頭の父親に 子だくさんの秘訣とは?
永明が7歳のころ、メスの梅梅(めいめい・5歳)が来日。この出会いをきっかけに、ビッグダディーへの道のりを歩み始めます。
永明が9歳の2001年12月17日、梅梅との間に、永明の第一子となる雄浜(ゆうひん・オス)が誕生。
そして、2003年には初めての双子、隆浜(りゅうひん・オス)と秋浜(しゅうひん・オス)が誕生。梅梅との間に、計6頭の子どもが生まれました。
【副園長 中尾建子さん】
「オスとメスがいれば繁殖できるわけではなくて、やはり相性っていうのはすごく重要なんです。中国の人もこんなオスを見たことないってぐらいすごく温和なオスなんですよね。これが交尾の時もメスに対してやっぱりソフトっていうのはすごく大きいかなと思うんです。メスの状態に合わせてきちんと対応できる」
次にパートナーとなった良浜(らうひん)との相性も良かった永明(15歳)。2008年には双子の永浜(えいひん・オス)と梅浜(めいひん・メス)が誕生します。
2014年には、今回一緒に旅立つ桜浜(おうひん・メス)・桃浜(とうひん・メス)が生まれました。
永明は飼育されながら自然交配で子どもをつくった世界最高齢のジャイアントパンダとなりました。
3年前の2020年に誕生した楓浜(ふうひん)は、永明が28歳、つまり人間でいうと80歳をすぎた時の子どもでした。
良浜との間に計10頭もの子どもを授かり、併せて16頭の父親となった永明が築き上げた、白浜のパンダファミリーは「浜家(はまけ)」と呼ばれ親しまれています。
メスパンダの発情は1年に2~3回しかなく繁殖が難しい中、ビッグダディーになれた永明のすごさとは…
【副園長 中尾建子さん】
「永明は鼻がいいと思います。私たちより先にメスの発情を察知して、永明の行動おかしいよっていうので見たら、メスが(発情していた)っていうのもありました。そういうメスの状態を素早く察知して、ソフトに優しく対応できるのはオスとして素晴らしい能力かなと思います」
永明は持ち前の温和な性格と鼻の鋭さを生かし、繁殖研究に大きく貢献したのです。
■グルメすぎる永明 体重維持に欠かせない 最高の竹を求めて…
高齢な永明の健康維持に欠かせないのが竹。たくさん食べてもらって体重をキープし続けることが大切です。
しかし、小さい頃から厳選された竹を与えられてアドベンチャーワールド一のグルメになってしまった永明は、竹のえり好みが激しく、においで気に入らない竹には見向きもしません。
今回旅立つ3頭の飼育を担当している品川さんは、永明の食へのこだわりにいつも苦労させられてきました。
【飼育スタッフ・品川友花さん】
「私がパンダ担当して10年ぐらいになりますけど、やっぱりその時々によって食べる竹も違いますし、好みも種類も違いますので。いまだに試行錯誤しながら…今日は何を食べるんだろうって苦戦することも多いです。永明が今食べている竹をじっくり観察して、私たちは味がわからないので、それに近い見た目のものを選んだりする」
そんなグルメな永明を、長年支え続けてくれているのが大阪府岸和田市。険しい山道を抜けた先で…永明好みの葉っぱの多い竹がどんどん積み込まれていきます。
2005年からパンダたちの餌となる竹を伐採していて今は週に2回、併せておよそ600キロの竹を6人がかりで出荷しています。
リーダーの藤崎さん、永明が気に入りそうな竹を見定めます
–Q:これにした決め手は?
【リーダー 藤崎楠男さん】
「この葉!葉っぱ!あっちは赤いやろ。これは青いやろ」
【伐採担当者】
「青いのを(パンダは)好むんです。赤いのは食べない」
いい竹を育てることで山の環境も整い、さらに雇用も生まれる、“おいしい”取り組みです。
【伐採担当者】
「僕らの竹、食べてくれて、(永明の)今があるんやなと。やっぱり嬉しいです。藤崎さんと一緒に、我々この辺うろうろさせていただいたら、『パンダの竹か?』と言っていただけるのが誇り」
【リーダー 藤崎楠男さん】
「(周りの人が)パンダのおっちゃーん!って」
その日の午後、アドベンチャーワールドに到着した、採れたての新鮮な岸和田の竹。 グルメな永明にも満足していただけたようです!
■さよなら永明 近づく中国への旅立ち 別れ惜しむファンたち
この1カ月間、中国への旅立ちに備え、3頭の健康状態を整えてきた飼育スタッフたち。空港への搬出のシミュレーションも行いながら準備を進めてきました。
また、永明が向かう成都の繁殖基地のスタッフに、飼育の引継ぎを念入りに行いました。もちろん、食へのこだわりも!
【パンダチームリーダー 真柴和昌さん】
「永明は本当に手がかかるんですけど、よろしくお願いします」
旅立ちが近づくにつれてお客さんの数も増え、週末には50分待ちの長蛇の列ができたことも。
【永明ファン】
「永明パパには今までずっと、たくさんの子どもたちを残していただいて、こんなに幸せな気持ちにしていただいて。中国に帰ってゆっくり、これからも過ごしていただきたいと思っています」
【来園した子どもたち】
「(手ふり)元気でね!!!」
「いってらっしゃい」
たくさん愛されて28年半を白浜で過ごしてきた永明。多くの人に惜しまれながら、22日中国に旅立ちます。
(2023年2月21日放送)